COLUMN
THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第二十五回】
2022年06月号掲載
第二十五回「決闘」
暗い。どこまでも暗い。夜は住む場所によってその濃度を変えるようだ。家の灯り。街灯。信号機。人通り。心の陰。自分が住んでいた町の暗さは世界でどれほどの暗さだろうか。その暗さと共に迫ってくる、耳鳴りがつんざくような静けさに耳を塞ぎながら、何度も眠りにつく。明けない夜があるのなら、このまま眠り続ける事ができる。誰にも会う事もなく、誰にも邪魔される事もなく、自分という存在を確かめ続ける事ができる。だけどそれは、孤独というもう一人の自分に逃避するようなそんな淡い夢だと言わんばかりに、朝が障子の隙間から光を差し込んでくる。その光が自動的に体を起こさせる。何も変わらない現実の世界へと引っ張りだしてゆく。例えどんなに辛く嫌な朝だったとしても、ただひたすらに休む事なく学校への道へと足を向かわせていたのは、友達でもサッカーでもなく、誰にでも平等にある訳ではない家族という温もりだったのかもしれない。時に煩わしく思うような存在でも、心のどこかで、休む事で心配される事だけは避けなければならないと思うような、当たり前だと思っていた家族という温もりが、無理にでも靴を履かせてくれていたのだと思う。
選抜チームの練習会は週末。学校に待ち合わせをして、部活の先生が練習会の行われる一時間以上離れた学校まで送迎してくれるはずだった。はずだったのは、結果的にその練習会に行く事はなかったから。その週の半ばくらいに、同学年の中心人物のような奴から「日曜日に、先輩達が隣町と決闘する事になったからお前も来いと言ってる」と告げられた。決闘?学校内での上下関係や先輩後輩の厳しさは当たり前のように理解していたものの、隣の町とまでそんな繋がりやいざこざがあるなんて想像もしていなかったし、どんな理由でそうなったのかも分からない。当時流行っていたヤンキー漫画の影響だったのか、理由は分からない。その命令は、選抜練習会とどっちを選ぶかなんて比べる隙間もないくらい絶対的なものであるし、そもそも練習会自体の重要性も理解していなかった自分は、即座に「分かった」と返事をした。
そして日曜日当日、隣町へと向かう為に駅に集まった先輩や同級生20人くらいの中に自分もいた。その時は、同級生の中心メンバーと仲が良かった訳ではないが、きっと体がでかい、運動神経が良いという理由で呼ばれたのだと理解していた。ある意味もう一つの選抜チームのようだ。周りには、週刊漫画の最後のページに載っている通販でしか買えないようなヌンチャクや、チェーンを持ってる先輩もいた。まず休日にその人数が小さな町の駅にいる事も異様で、ボランティアでやっている駅の切符売り場のおばさんは「今日は何かあるの?大勢で楽しそうねー」と微笑んでいた。これから決闘しに行くなんて知る訳もなく。そんな長閑で小さな町だ。自分は、本当に戦いをするかもしれない怖さよりも、味わうかもしれない痛みよりも、仲間に必要とされ、普段は絶対的な存在で話す事すらできないであろう先輩達と繋がれた喜びに浸っていた。擦り切れそうなほど退屈で抑圧された日常に、まるで色が灯っていくような高鳴りが心を支配する。遠くから隣町へ向かう汽車がやって来た。みんなそれぞれに和気藹々としながらも、どこか緊張している様子を感じながら車内に入っていく。座るボックスの席に、いつも部活で一緒に練習をやっているキーパーの先輩がいた。いつもの練習の時とは違い、優しく頼もしい横顔があった。少しずつ高鳴りが不安へと変わっていく。本当に大丈夫だろうか。どうなってしまうんだろうか。この時点で、選抜練習会に行かなかった少しの罪悪感も消えてしまうくらいに、決闘という現実味がなかった怖さが襲ってくるのが分かった。それぞれの気持ちを乗せて汽車は汽笛を鳴らし、その怖さと不安の向こうへとゆっくりと進み出して行った。
THE BACK HORN
1998年結成。"KYO-MEI"をテーマに、聴く人の心を震わせる音楽を届けていくという意志を掲げる4人組ロック・バンド。2001年、メジャー1stシングル『サニー』をリリース。以降、そのオリジナリティ溢れる楽曲の世界観からクリエイターとのコラボレーションも行う。2018年に結成20周年を迎え、海外公演や日本武道館公演を含むツアーを完遂。2021年12月には4年5ヶ月ぶりのシングル『希望を鳴らせ』を発売し、2022年2月にシングル「ヒガンバナ」、3月に「ユートピア」を配信。4月に同2曲も収録した13thアルバム『アントロギア』をリリースし、現在同作を引っ提げたツアーを開催中。
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