THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第二回】
2018年08月号掲載
第二回「披露」
今日も公園は子供達でごった返している。その中心はいつも野球で遊んでいる高学年チームだ。狭い公園の大部分を占拠している。小学生の頃の自分はあまり積極的に話しかけたりする事ができず人見知りな少年だった為、魔球の威力を試すべく意気旺盛に公園に入ったものの、誘いの声がかかるまで公園の隅をうろちょろしていた。するとしばらくして、外野を守っていた高学年の一人が「お前も入ればー」と声をかけてくれた。攻撃側の人数が一人少ないチームに混ざった。打撃には何一つ興味が無かったので、打順を待ちながらも次の守備の時にどうやってピッチャーに名乗り出ようか考えていた。そうこうしているうちに、こちらの攻撃が終わった。どうやらみんな打つ方が楽しいらしく、ボールを持っていた子が「お前後から来たからピッチャーなー」とボールを渡してきた。やった!自分から名乗り出なくてもピッチャーができる。正直、この回がダメでも何回か進んだ後にでもピッチャーをやれればと思っていたのでめちゃくちゃラッキーだった。いよいよ打者相手にカーブを投げられる。遂にこの時がきた。
まずは普通のボールを投げた。打たれたり空振りしたり、そのバッターの技量でファウルになったりヒットになったりを繰り返した。念願の魔球であるカーブをどこで出すかどこで試すか悩んでいた。そしていよいよ2アウトを取った後の最後のバッターで試す事にした。バッターボックスに入った高学年の子は顔見知りで、というか小さな田舎町なのでほとんど顔も名前も知っているのだけれど、確かその子はソフトボール部に入っていて、見るからに打つ気満々のバッターだった。いよいよ、念願のカーブを投げる時がきた。手に汗が滲んだ。高鳴る胸。どんな反応になるのか。もし仮にボールを見逃されてもストライクを取れるように、バッターに当てるくらいの勢いでインコースに投げた。するとバッターは体をよけながらバットを振ったが、見事に空を切った。そしてキャッチャーもボールをこぼして、後ろにそらした。すごい!すごい!魔球だ!見事に三球三振!その上級生はただ呆然とバットを持って立っていた。
これは気持ちいい!なんとも言えない高ぶった気持ちになった僕は、次の打者にも早くカーブを投げたくなった。が、しかし公園内にはなんとなく気まずい感じの空気が流れている。歓声が起きる訳でもなく、どよめきがおきる訳でもない。相手の方から「つまんねーな」とか「打たせろよー」とか聞こえてきた。爆発しそうな喜びと達成感が冷ややかな空気に吸い込まれていく。確かに打ってなんぼの遊び野球で、誰も三振をとるとかとられるとかそんな勝負事は求めてなかったんだろうし、そもそもカーブがどうかよりも打てない球投げんなよって感じだったんじゃないかなと今になって思う。するとその空気を切り裂くようにバッターが口を開いた。「お前なんかイカサマしてるな。ピッチャー変われ!」、「今のはノーカウントで違うピッチャーで俺の打順からな!」僕は外野に回され別の奴がピッチャーになった。何とも言えない敗北感と微妙な達成感。どことなく淋しい気持ちを抱えながら家に帰った。さすがに僕がカーブを投げた事、カーブを投げられる事がばれているはずはないと思っていたが、周りの友達から聞くと、次の日から公園の野球ではカーブ禁止令が上級生から発令されたらしい。
それから、僕のカーブは一度もバッターに投げる事なく長期封印される事となった。
そしてそれから僕は、サッカー部に入った。
<つづく>
THE BACK HORN
1998年結成。"KYO-MEI"をテーマに、聴く人の心をふるわせる音楽を届けていくという意志を掲げる4人組ロック・バンド。2001年、メジャー1stシングル『サニー』をリリース。以降、そのオリジナリティ溢れる楽曲の世界観からクリエイターとのコラボレーションも行う。2017年、史上2枚目となるベスト・アルバムをリリース。2018年に結成20周年を迎え、3月にミニ・アルバム『情景泥棒』を発表。10月からはアニバーサリー・ツアー"THE BACK HORN 20th Anniversary 「ALL TIME BESTワンマンツアー」~KYO-MEI祭り~"の開催を控えており、そのツアー・ファイナルとして2019年2月に日本武道館公演を行う。
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