Japanese
THE BACK HORN
Skream! マガジン 2024年09月号掲載
2024.07.28 @日比谷公園大音楽堂
Writer :石角 友香 Photographer:RUI HASHIMOTO(SOUND SHOOTER)
THE BACK HORNが、約2年ぶりに日比谷公園大音楽堂でワンマン・ライヴ"THE BACK HORN「KYO-MEIワンマンライブ」〜夕焼け目撃者〜"を開催した。前回2022年10月は豪雨、その前の2017年も雨で、もはや"夕焼けを目撃したい"に名称変更したほうがいいんじゃないか? という共通認識をファンも持っていたが、三度目の正直(※企画自体は5度目)とはよく言ったもので、まさに念願叶っての"夕焼け目撃者"に、ここで集まった全員がなれたのである。
とにかく蝉の声が凄まじく、それだけで真夏のサイケデリックなムードが高まる。菅波栄純(Gt)と岡峰光舟(Ba)が描いたモダンな妖怪(?)が躍動するバックドロップを背景にお馴染みの荘厳なSEが流れるなか、4人が登場し、1曲目に放たれたのは意外にもレゲエ・ビートの「甦る陽」だ。カラッとした音像が夏らしいが、悲しみも決意も込めたどこかレクイエム的なこの曲に彼らの音楽への愛を感じた。一転、松田晋二(Dr)が鋭く8ビートを叩き出す「光の結晶」、サビで早くも大きなシンガロングが起きた「希望を鳴らせ」と、新旧のレパートリーが違和感なく並び、どデカい歓声と拍手が晴れの野音(日比谷公園大音楽堂)を渇望していたファンの思いを表している。
松田が三度目の正直で快晴の野音が実現したと述べ、同時に"今日しかないセットリストを都会の真ん中でTHE BACK HORNらしい爆音で鳴らし、蝉の声をサラウンドに、皆様の気持ちを共鳴として、夕焼けを見ながら最高の時間を作っていきましょう!"と宣言。なんと完成されたMCなんだ。
早くも彼ららしい混沌の色を深めていくブロックは、レア選曲の「8月の秘密」をきっかけに深まっていく。ライヴ・アレンジで印象を変えたこの曲はスモーキーなダブ・テイストで、音数の少なさゆえに隙間から聴こえてくる蝉の声も夏らしい演出に。一転、大人っぽい妖しいムードの漂う「深海魚」、山田将司(Vo/Gt)のロング・トーンに強い思いがこもる「生命線」で、生と死の境界をイメージした後は、最近とみにライヴでのフックの効いた人気曲になってきた印象のある「コワレモノ」で、タフに躍動する。それは、松田の強力なキック&スネアに、岡峰の深いトーンのベースラインが滑り込んだ瞬間から歓声が上がる、そのリアクションの大きさで明らかだ。人間なんてだいたいどいつも壊れモノだと笑い飛ばすこの曲に秘められたある種の優しさは、今のTHE BACK HORNだから、より届くんだと思う。恒例になった菅波が行う"神様だらけの"、"スナック!"のコール&レスポンスもシュールな光景だけど、誰もが笑顔だ。
思わず"楽しい〜!"と声に出す菅波、そしてフロアに向かって"水分取ってる?"と気遣う山田。続けてこのタイミングで、"光と影"シリーズの第2弾「ジャンクワーカー」をライヴ初披露。先程の「コワレモノ」にも感じた、90年代のモダン・ロック〜ミクスチャーの文脈を具体化してきた、たくましいグルーヴが攻めてくる。山田の歌うAメロは般若心経を思わせる読経テイストで、サビでは菅波のチョーキングと歌が同時に叫びを上げる。いくらハラスメントを受けても仕事にすがるしかない、気付いたらそんな生き方になっていないか? かなり身につまされる楽曲ではある。続く「がんじがらめ」も抜けられない現代のバビロンを思わせ息苦しいが、曲にしてライヴで爆音で鳴らすことで、むしろ客観視できる気がする。そして少し笑い飛ばすことができるのだ。現代の混沌、人間の欲望が生み出す落とし穴は続くもう一方の新曲「修羅場」で、ライヴの中に一遍のドラマを持ち込んだかのような濃度を見せる。家庭崩壊や身近な人の裏切りはSNS上で見る他人事のように映るが、こうした現実社会の出来事を新しい表現のガソリンにするTHE BACK HORNの胆力には毎回唸らされる。ライヴの流れとしても緊張感が増すいいセットリストだ。その感覚は壊れた人格を表象する初期のコア・ナンバー「墓石フィーバー」への接続で、より説得力のある流れを作り出したのだった。ハードコア、ヘヴィなファンクネス等が混然となった中盤のブロックは今回の1つの核だ。
濃厚なブロックの後はいつものゆるいMCで和むのだが、ここでも今日ばかりは夕焼けを目撃できるのかにメンバーはこだわっていた。
山田もギターを携えたブロックでは、ピュアネスが際立つギター・ロックが続けて演奏される。彼らのかっこ良さには悲しみの裏付けがあるなと気付く「夢の花」や、岡峰のフレージングにホーリーなものを感じる「夢路」、日本の夏の景色や季節の匂いが立ち上がる「夏草の揺れる丘」では、生きているからこそ感じられる様々なものが、演奏がきっかけになって自分の中に現れた。ついさっきまでのカオティックなブロックも旅の道程に感じられるぐらい、さらに先まで歩いてきたような感慨に包まれる。つくづく貪欲なバンドだと思う。
空が少しオレンジ色に変わってきた頃、再び演奏は強力なエネルギーを伴ったアンサンブルに突入。松田が繰り出すトライバルなビート、菅波のギターが何度もフィードバック・ノイズを放つ「ブラックホールバースデイ」、山田の咆哮がまさにライオンのような「真夜中のライオン」、終盤に来て、緊張感もスピード感も落ちるどころかエグい程に加速する「シンフォニア」、サビの"オーオー"のシンガロングが、陽が落ちた野音に再び太陽を昇らせそうな熱量で高まる「太陽の花」まで、4曲一気に渾身の力を注ぎ込むバンドのフィジカルの強さには圧倒されてしまった。これだけのキャリアがあるバンドに一般的な定義なんてもちろんない。こんなところにも、THE BACK HORNが誰かと自分を比べたバンド活動をしていないことが見て取れるのだ。
男性も女性もメンバーの名前を力いっぱい叫び、その声が重なると、ここにあるのはただただ愛なんじゃないかという気がしてくる。山田が半ば感慨深そうに"20代前半で作った曲が今まだやれていて、大人になっても忘れられないことは胸に抱いてていいと思うし、年齢や性別じゃなく、人としてみんなと繋がれたらいいなと思います"と言語化してくれたのは、改めて嬉しいことだった。今、"光と影"をテーマにした連作をリリースするのは、THE BACK HORNというバンドの際立った個性を、ファン以外にも届く大きなステージに乗せる機会だし、彼らの音楽が、まだ見ぬ誰かが"人として生きる"きっかけになればいいなと素直に思えたこの日の選曲だったし、山田のMCでもあった。本編ラストはバンドが出会った人たちへの素直な感謝の思いが溢れる「JOY」。ここに居合わせた人たちを祝うようなまばゆい光が最大限の輝きを放って、本編が終了した。
アンコールでは早くも来年開催の"マニアックヘブン(THE BACK HORN「マニアックヘブン vol.16」)"の告知も行い、27年目のTHE BACK HORNも精力的に活動していくことを表明。自分たちが作った音楽にいろいろなことを気付かされ、変わらない本質と新しく受ける影響やアイディアを今の形でアウトプットしていく4人は今、すこぶる健やかだ。演奏した曲が、1曲目の「甦る陽」と呼応するような、ダブ・テイストの「ヘッドフォンチルドレン」だったことで、年齢じゃなくずっと心にいる"ヘッドフォンチルドレン"的な自分が、先のMCの後だとなおさら思い出されるのだった。そして生きてまた会うための約束の曲と言えそうな「コバルトブルー」と「刃」でフィニッシュ。バンドもファンも念願が叶った"夕焼け目撃者"にようやくなれた一日だった。
![](https://skream.jp/livereport/2024/08/13/images/the_back_horn_3.jpg)
[Setlist]
1. 甦る陽
2. 光の結晶
3. 希望を鳴らせ
4. 8⽉の秘密
5. 深海⿂
6. ⽣命線
7. コワレモノ
8. ジャンクワーカー
9. がんじがらめ
10. 修羅場
11. 墓⽯フィーバー
12. 夢の花
13. 夢路
14. 夏草の揺れる丘
15. ブラックホールバースデイ
16. 真夜中のライオン
17. シンフォニア
18. 太陽の花
19. JOY
En1. ヘッドフォンチルドレン
En2. コバルトブルー
En3. 刃
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