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LIVE REPORT

Japanese

THE BACK HORN

Skream! マガジン 2021年04月号掲載

2021.03.04 @USEN STUDIO COAST

Writer 石角 友香 Photo by 橋本 塁(SOUND SHOOTER)

序盤からステージ上とフロアのエネルギー、生命のやりとりがまるで生き物のようにコーストを支配するような圧倒的に美しいライヴだった。

2019年10月リリースの12thアルバム『カルペ・ディエム』のツアーが、山田将司(Vo)の声帯ポリープ発症を受け、中断。その振替公演は新型コロナウイルスの影響で延期。すでにバンドは昨年末の恒例企画"マニアックヘブン"や、9mm Parabellum Bulletとの対バン企画で"ARABAKI ROCK FEST."20周年記念ライヴを開催。混成バンド"鰰の叫ぶ声"で、ファンの前で元気な姿を見せている。だが、やはりアルバム・ツアーの再始動には万感の思いがあったのではないか。今後も4月の大阪ファイナルまでツアーが続くので、ここではセットリストなど詳細な記述は避けるが、軸になっていたのは結成20年を経たうえで発明にも似たような、メンバー全員が各々の作詞作曲に向き合った、過去最強に音楽的なクリエイティヴィティが満載された新作『カルペ・ディエム』である。

EDMなどエレクトロニックなアプローチの楽曲から、バラード、20年を1周してさらに骨太になったヘヴィ・ロックなど、THE BACK HORNというフィルターを通してしかなし得ない、ミクスチャーを一度ぶっ壊して新たな能力を追加したような新曲群。ライヴでどう表現されるのかが当然、興味の最優先事項としてあるのだが、これまで以上に同期との見事なシンクロを見せ、しかもそれが過剰になることなく、あくまでも4人の演奏と歌で牽引していく。エレクトロニックなロー感だけじゃなく、今回は岡峰光舟の、生音のベースなのか? と驚くほど明快且つ地鳴りがするような音像に圧倒される演奏が散見された。例えば、「心臓が止まるまでは」の雷鳴の轟のようなニュアンスや、空間を生かした浮遊感のある「I believe」なども、アレンジの一翼を担うイマジネーションに溢れたフレージングと音像だった。また、スラップの安定感も、それがテクニックを見せるためじゃない、楽曲にとっての生命感を増幅する最強の選択肢であるというように、何もかもが研ぎ澄まされている。

そういえば開場BGMがBillie Eilishの一連の作品だったのだが、コースト(新木場USEN STUDIO COAST)で体感する重低音は最高だ。そして、バンドの演奏はこのハコの魅力を最大限に生かしていたのも確かで、開場BGMにBillieを選んだことにちょっとニヤついてしまった。

演奏とアンサンブルの研ぎ澄まし方は全員に言えることで、『カルペ・ディエム』に全員が作詞作曲で絡むことを計画し、ディレクションした菅波栄純(Gt)のリフ、フレージング。カッティングの細部にわたる緻密さと、それを保ったうえでの豪放磊落さは確実に他のメンバーに伝染していく。ソリッドなヘヴィネスの塊のような「フューチャーワールド」では、主にクランチなギターだが、1曲の中でも一瞬透明な光を見せるような音色も差し挟む。また、単音の美しさを選び抜いてこそメッセージが伝わる「I believe」のような曲での繊細さ。何かにとり憑かれたようにギターと同化している印象の強い菅波だが、すべての曲をディレクションして音源として完成させ、ライヴでは驚異的な集中力で最も効果的な音を選び、弾いている。その選択の精度が格段にこれまでより高い。エンディングがスパッと潔い楽曲が最近多い彼らだが、この日も胸のすくような痛快なエンディングを何度も決めてみせた。

単にバンド・アンサンブルが練りこまれているというよりも、メンバーが一曲一曲を楽しみ、クリエイティヴィティを発揮したアルバム楽曲を誰よりも楽しんでいるのが痛快だ。菅波、岡峰はもちろん、松田晋二のドラミングもパワーで押す以外の緩急が進化したアレンジが目立つ。まず初っ端から明快に4人の音が意志を持っているのがわかるぐらい、分離がよく届くのが快感だし、嬉しかった。猪突猛進のスピードや、苦しいほどの圧で攻める楽曲は今のTHE BACK HORNには意外と少ない。そして、生きていることを掴み取るという能動的なメッセージもあれば、雨の匂いが好きな人のことを思い出すことで、自ずとこちらも自然が五感にもたらしてくれる何かを共有したりもする。かと思えば宇宙に投げ出されるような浮遊感をサウンドや、音像で表現もする。しかも演出はイマジネーションに富む照明ぐらいだ。いや、そのことがむしろ想像力を膨らませる。加えてライヴのキラーチューンや、意外性のある楽曲をアルバム曲の間にニクい配置で届けていくのも、今回の醍醐味と言えるだろう。

『カルペ・ディエム』という、いわば今回初めて触れる新曲もまだ多いライヴにもかかわらず、そして人数にも制限があり、フロアにはスツールが間隔を開けて置かれているにもかかわらず、オーディエンスは暗転と共に立ち上がり、それどころか全身で音に反応し、その場でジャンプし、腕が外れるんじゃないかというぐらい拳を前へ前へ掲げ続ける。声を出せない代わりに拍手が大きく長くなるのは、前述の"鰰の叫ぶ声"のときも感じたが、今回はさすがにワンマン。終盤に向かって、むしろ満員で動きが取れないライヴ以上にファンそれぞれの躍動を目にしたし、その姿がバンドに火をつけていたように感じた。

MCではバレンタイン・チョコの意外な顛末――事務所に届いているチョコの数に関するユルいトークでの岡峰の正直な申告と、菅波のどれだけの量を期待しているのだ? という部屋の片付けの話、それを収拾しようとする松田、そんなみんなを楽しそうに見守る山田。全員、素朴と言えば素朴で変わっていないし、相変わらず可笑しい。その4人の妥協なき産物である音楽に対するファンの愛情と信頼。その掛け替えのなさを再認識し、普段ならわりと冷静に聴ける楽曲に感極まったりもした。

山田はこの日、上京して20年来の友人から再振替公演に際し、激励と共にBob Marleyの「No Woman, No Cry」の歌詞である、"Everything's gonna be all right!"というメッセージを送られたと話した。そして、"信頼してる人に大丈夫って言われるのはいいね"と言い、フロアに向けて"大丈夫。大丈夫だよ"と伝えたのだった。不安や焦り、生きていることの意味を見失いそうなときももがいてきたこのバンドは、今はこのご時世の中、肩の力を抜いてやるように、今、ここで音が鳴っていることをよすがに楽しもうと伝えているのだ。バンドとファン双方に栄養がみるみる行きわたり、心の底から泣き笑いできた約90分。
山田の"生きてまた会おう!"には次の約束があったのも嬉しい。そう、ライヴ中に松田が発表したように、5月からツアーが開催されることが決定。10年を数える東日本大震災のあと、バンドが転生したとすら言えるアルバム『リヴスコール』を、ストリングスを交えた編成で届けるツアーだ。バンドそのもののスタンスは変わらないが、今、これほどあらゆる人に届く音楽、歌があるだろうか。先の見えない不安や、払拭できないもやもやと共に、これからも生きていこうとしているすべての人に、THE BACK HORNはきっと届く――そう確信したキックオフだった。

LIVE STREAMING INFORMATION
"THE BACK HORN「KYO-MEIワンマンツアー」カルペ・ディエム~今を掴め~ 再振替公演"

※3月4日(木)新木場USEN STUDIO COAST公演の配信
[チケット]
StreamPass【視聴チケット】:¥3,500
販売期間:~3月11日(木)21:00
アーカイヴ(見逃し配信)期間:~3月11日(木)23:59
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