Japanese
夏のSHIKABANE~日比谷場所~
Skream! マガジン 2018年09月号掲載
2018.07.22 @日比谷野外大音楽堂
Writer 石角 友香
普段はハードなサウンドを鳴らす当代きってのロック・バンドのヴォーカリストが一堂に介して、弾き語りを行う。ジャンルを超えて"歌うのが好き"な男たちが屍になるまで歌い続ける、ものすごく大雑把にいうとそんな趣旨を持ち、2017年の夏、東京キネマ倶楽部で開催されて以来の"SHIKABANE"である。その歌い手たちは佐々木亮介(a flood of circle)、菅原卓郎(9mm Parabellum Bullet)、村松 拓(Nothing's Carved In Stone)、そして山田将司(THE BACK HORN)。入場口にはこの日4人が着用する浴衣のモチーフの幟が立ち、観客も浴衣や甚平着用の場合、限定うちわを貰えるという特典があるなど、相撲の"夏場所"的なお楽しみも。それにしても15時30分開演の野音は暑い。ただ座っているだけでも刺すような日差しで汗が噴出する。蝉時雨も風流を超えて、ノイジーですらある。
ステージ上はいたってシンプル。何しろ弾き語りイベントなのだから。そして昼間のステージに浴衣姿の4人が登場する。まずは4人でラグタイムやシャンソン風の「SHIKABANEのテーマ」を披露。そして一番手は佐々木だ。"暑いね。でも俺は夏でも革ジャン着てるからね、「なんて涼しいんだろう」ってこういうボケをやるんだな"と、弾き語りならではのいいゆるさでスタート。山田の"涼しげなやつを"というリクエストで「Blanket Song」、この地球上で自分が最もファンであることを自認するというスピッツの「涙がキラリ☆」のカバーではハスキー・ヴォイスが切なく響く。最後は佐々木ソロ作品から「無題」でソロ・パートを締めた。
ソロに続いてはひとりずつを招き入れてのセッション・タイムだ。ティアドロップ型のサングラスでパリピ扱いを受けつつ登場した村松は、同じサングラスを佐々木にもかけさせ、ラッツ&スターの「め組のひと」を歌う。お互いのソウルフルな部分や佐々木のジプシー音楽にも精通したギターが映える。続いては山田が登場。佐々木が(山田の)浴衣姿を"背中見せようもんなら斬られそうじゃないですか"と、侍ぶりを面白おかしく褒め称える。選曲は山田がafoc(a flood of circle)との対バンで特に感動して涙したという「Honey Moon Song」をチョイス。男の純情が美しい顔合わせである。そして佐々木セッションの最後は、"SHIKABANEのお父さん"と呼ばれているという菅原が登場。たしかにどんなことでも柔らかく受け止める包容力はある種の父性かも。佐々木が菅原のコンセプト・アルバム『今夜だけ俺を』をいたく気に入っているという流れから、昭和歌謡の金字塔、沢田研二の「勝手にしやがれ」をふたりで熱唱。だが、この時点ではエロスよりふたりの少年性が際立っていた印象も。
そして再びソロに戻り登場したのは菅原。お父さん扱いも納得の菅原は、観客への暑さの心配と気軽に声を上げられるように配慮してくれる。1曲目は中島みゆきの「糸」。歌詞の奥行きが彼の作詞家としての色合いにも通じる印象だ。そして35歳になったばかりという彼が、今この年齢でようやく肩の力を抜いて歌えるからだろうか、奥田民生の「イージュー★ライダー」をカバーする。だが、さすが民生曲。コードとメロディが独特で難しい。"どこ弾いてんのかわかんなくなった"と仕切り直して歌い切る場面も。さらにブルース・ハープも吹きながらラテン・テイストで「The Revolutionary」のセルフ・カバー。弾き語りでも拳が上がる。
菅原のセッションの1番手は佐々木。お気に入りの菅原のソロ曲から「捨て台詞」を歌う。女性目線の歌がふたりの異なるセクシーな歌い手によって届けられるのだから、昼間っからなかなかに乙である。このあと、佐々木が付けた菅原のあだ名"エロ涼しい"が定着した。さらに村松とは9mm(9mm Parabellum Bullet)の「ハートに火をつけて」をどこかヨーロッパの民謡というか、バックビートのエキゾチックなアレンジで聴かせ、様々なカバーの中でも最も原曲から飛距離のあるアレンジで驚かせてくれた。このステージの最後に登場した山田は、菅原がこの日、サングラスをかけ楽屋にいたところ"(井上)陽水がいる!"と直感したらしく、あらかじめ決まっていたとはいえ、「飾りじゃないのよ涙は」での井上陽水リスペクトをお互いに目一杯表現していた。"SHIKABANE"は去年からある種、シリーズになってきた印象はあるが、菅原の歌謡曲テイストに振り切ったアルバムのリリースというトピックが、歌謡曲のカバーの意義を鮮明にした部分も大いに感じた。ここで休憩を挟み、第2部へ。
山田がソロ・コーナーを始めると、まっすぐで柔らかな歌声が映える山田のソロ曲「きょう、きみと」、THE BACK HORNの「キズナソング」を披露し、目線は異なるが、愛の歌が素直に聴こえるときの嬉しさが、観客に染みわたっていくようだった。曲が終わると聴こえる蝉の大合唱に対し"1週間ぐらい地上に出るために、8年ぐらい卵で地中にいるってすげぇな"と、蝉の命の強さを讃える。弾き語りではあるのだが、まるでバンド・サウンドかのような、あの夏の匂いやTHE BACK HORNならではの八百万の神様が出現しそうな「夏の残像」を披露してくれた。
山田のセッションには菅原をまず招き入れ、涼やかさが意外でもあるTHE BOOMの「風になりたい」。サンバのリズムはギターのボディを叩いて表現するなど、自由度が高い。そして佐々木との共演には、宇多田ヒカルのプロデュースで話題になった「あなたが待ってる」を。"冬の曲なんだけど"と山田が注釈を入れたのもなんだか愛らしかった。そして浴衣にビールが最高に似合う村松とは河島英五の大名曲「酒と泪と男と女」を。山田はブルース・ハープと歌で村松の熱唱を支えた。
山田とのセッションでは昭和の男ぶりを見せた村松。打って変わってソロではシリアスな顔を覗かせる。"2年前、ナッシングス(Nothing's Carved In Stone)でここに立たせてもらったとき(2016年5月15日に開催した"Nothing's Carved In Stone Live at 野音")、ダブル・アンコールで初めて弾き語りで歌った"という「Adventures」、そして弾き語りと思えないスケール感を作り上げた「青の雫」、「朱い群青」で、ひとりのヴォーカリストとしての底力を見せつけてくれた。
村松とのセッションはまず山田を誘い入れる。山田の方が先輩だが"拓と飲んでるといいんだよ、落ち着く"と序盤でのパリピ扱いを返上するような褒め言葉。そしてナッシングスのナンバーでも特に好きだという「シナプスの砂浜」を共に歌う。ようやく照明が映える時間になり、ふたつのバックライトに浮かび上がるふたり(山田、村松)は、まるで海辺にいるようで美しかった。"4者4様の素晴らしい歌声"と、そろそろライヴも大団円を迎えていることを示唆する村松。続いて菅原とともに歌うことを選んだのはOASISの6thスタジオ・アルバム(『Don't Believe The Truth』)に収録されている「Let There Be Love」だ。"OASISといえば「ドンルク(Don't Look Back In Anger)」とか「Wonderwall」だと思うでしょ? でもこれがいい曲なんだ"とどうしても村松と歌いたかった様子の菅原。唯一、洋楽曲を持ってきたのは偶然かもしれないが、"村松と歌うなら"という必然は感じた。そして、ファンキーなギターもお得意の佐々木が夏らしさを盛り上げた真心ブラザーズのキラー・チューン「サマーヌード」で、各々のソロとセッションの総当たり戦は完結。それにしても暑い以外は死闘とか屍という言葉は似合わない。普段の彼らからは窺い知ることのできない、だが、確実に彼らのルーツにある歌心を明らかにしていく選曲がこの上なく豊かだった。
再び4人揃ってのセッションでは、夏のエロティックなナンバーが選ばれた。まさかの松任谷由実の「真夏の夜の夢」、そして井上陽水・安全地帯の「夏の終りのハーモニー」。何を歌っても空間を切り裂くような佐々木のヴォーカルはマイナー・チューンでより映えるし、最も後輩であることからソロやリフも遠慮なく入れる。いや、後輩だからというよりもこの人の音楽的なレンジと表現力は実際高いのだ。そして年齢に関係なく自身でレコーディング場所を海外で探してきたり、海外のプロデューサーと渡り合う彼のタフさが非常に印象に残った。4人全員が同時にバンド以外での歌い手としての個性や、ジャンルに拘泥しない"いい歌"に改めて光を当てる役割が様になってきたとも言えるだろう。各々のバンドのライヴでも2世代で参加する人も多いかもしれない。だが、オリジナル以外の歌を2世代で共有するのもまた、4人のこのような試みがあってこそ。
休憩を挟みつつ、4時間近くにわたった"夏のSHIKABANE"のラストは、再びテーマ・ソングをオープニングよりタフに楽しく野音全体で歌い、真夏の宴は終演した。
[Setlist]
1. SHIKABANEのテーマ
(佐々木亮介SOLO)
2. Blanket Song
3. 涙がキラリ☆
4. 無題
(佐々木亮介SESSION)
5. め組のひと
6. Honey Moon Song
7. 勝手にしやがれ
(菅原卓郎SOLO)
8. 糸
9. イージュー★ライダー
10. The Revolutionary
(菅原卓郎SESSION)
11. 捨て台詞
12. ハートに火をつけて
13. 飾りじゃないのよ涙は
(山田将司SOLO)
14. きょう、きみと
15. キズナソング
16. 夏の残像
(山田将司SESSION)
17. 風になりたい
18. あなたが待ってる
19. 酒と泪と男と女
(村松 拓SOLO)
20. 青の雫
21. Adventures
22. 朱い群青
(村松 拓SESSION)
23. シナプスの砂浜
24. Let There Be Love
25. サマーヌード
(ALL MEMBER SESSION)
26. 真夏の夜の夢
27. 夏の終りのハーモニー
28. SHIKABANEのテーマ
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