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LIVE REPORT

Japanese

9mm Parabellum Bullet

Skream! マガジン 2016年08月号掲載

2016.06.19 @日比谷野外大音楽堂

Writer 石角 友香

すでに公式に発表されたが、この日、滝善充(Gt)の腕がライヴの途中で不調をきたし、予定曲目や内容を変更しつつも約2時間のライヴが完遂された。そして滝のぶんまでというより、自然と他の3人がいつもとは違う責任感というベクトルのエネルギーを放っていたのも事実だし、何が起こるかわからないライヴの現場をタフに乗り越えた9mm Parabellum Bullet(以下:9mm)というバンドが表現していることの本質を実際に行動で示したこともまた、彼らがかけがえのないバンドであることを再認識させてくれたのだ。よりこのバンドを好きになったファンの方が、きっと多いだろう。

さて、9割9分雨が降ると予想されていたこの日、崩れ落ちそうな空はギリギリ持ちこたえ、18時5分、いつもどおりATARI TEENAGE RIOTのSEが鳴り響き、赤いライトが発光し、6thアルバム『Waltz on Life Line』のジャケット仕様のバックドロップがせり上がってくるともはや野音は歓喜と興奮一色だ。1曲目は「生命のワルツ」。普段のライヴとは違ってCDどおりのストリングスの同期のあと、バンド・サウンドが放たれる。音がデカいし重い。野音でこの圧はなかなか得がたい経験だ。もう冒頭から生命力が爆発しまくり、この曲がここ最近の9mmの讃歌になったことを笑顔のオーディエンスが証明していた。そのまま展開が多い「Lost!!」、滝も中村和彦(Ba)も楽器をぶん回しての「Discommunication」、「Mad Pierrot」では中間部のジャジーなプレイに冴えを見せ、"かつてないショータイムが君たちを待っている"のところで会場に向けてパンチを繰り出す滝。しかも4人の楽器の音の分離が良く、そのことにより菅原卓郎(Vo/Gt)の歌もより通るのが気持ちいい。菅原の短いMCを挟んで、ライヴは新作6thアルバム『Waltz on Life Line』収録曲を中心に進行。中村が作曲したこれまでの9mmにはなかった王道8ビートの「湖」、そして「誰も知らない」、「ロンリーボーイ」が続くとこのバンドのセンチメントとイノセンス、つまり9mmのメンタリティの心臓部に触れることになる。それにしても菅原の声がすごく出ていて、どこかクラシック的なメロディに乗る、自分でもわからない自分の真実や闇が解像度高く浮かび上がるのだ。また、ラウド/ヘヴィの2ビートと言うより民族的な2拍子を交えるかみじょうちひろ(Dr)のアイディアを凝らしたドラミングと呪術的な滝のフレージング、中村の地を這うようなベースのアンサンブルが生で立体化した「モーニングベル」。複雑なことをやっているけれど、ごく軽妙に感じる。そういった部分も今の9mmのタフさだと思う。

菅原がアルバムからの新曲を披露することについて"15曲もあるし、メンバー全員が曲を作ってるからいろんな景色が見えると思う。カラフルなアルバムっていうところから、かみじょうちひろ作の「Kaleidoscope」"と、曲紹介と共にラテンとマス・ロックが合体したようなリズム・パターンと歌謡な菅原の歌メロ、時にエレジックに、時にクランチに変幻自在な滝のギターのアイディアの閃き。実際、様々な世界にできるアルバムだと実感する場面だった。そしてもしかしたらこの曲だけは雨が降っていてもいいかもと呑気なことを考えていたロマンチックな「Lady Rainy」は、マイナー・フォーク調に似合う菅原の歌が映え、ラストの転調に乗り切るところはことさら素晴らしかった。が、この曲中、滝の左腕に異常が発生し、一旦ステージから下がる。急遽曲目を変更して臨むことになったようだ。急な変更で中村も最初はベースでサポートするつもりだったのか、というのも菅原の弾き語りに中村も参加してるからなのだが、菅原の機転なのか、ひとりで"8年前の野音ではアコギの音が小さすぎて聴こえないトラブルがあったんだけど、滝のお父さんにはいい音だと褒めてもらって......そのためにアコギ用意したんじゃないんだけど、1曲やります"と、しばし考えたあと"みんな「The Revolutionary」は好きか?"と尋ね、"もちろん!"というニュアンスのリアクションに応え、ファンも歌詞やメロディを改めて噛み締めながら"世界を変えるのさ"というシンガロングが自然と起こったのは美しい光景だった。ライヴの進行がまだ決まらないようで、ストレイテナーの「シーグラス」を一節歌うも"ダメだ、次までに練習しとく"と場内を沸かせ、"何ができるんだっけな"と考える彼にオーディエンスからの「黒い森の旅人」のリクエストが挙がり、"ナイスだね"と、しっとりした弾き語りバージョンがごく自然に都会の森にグッと響き渡り、思わぬ展開をしっかりモノにする。予期せぬ2部構成になってしまったと言いつつ、"野音でやるSPECIAL OTHERSの2部構成のライヴがいいんだよね。こんなことならみんなビール買いに行ってって言っとけばよかったな"と、起こったことを好転させる自然さを身につけた菅原卓郎という人の強さに正直感動した。

再び4人がステージに戻ってくると安堵と期待の拍手と歓声が湧き上がる。そして"ベルセルク"には少なからず影響を受けている旨と、アニメのオープニング用の尺どおり90秒しかないことを念押し(?)気味に告げ、新曲「インフェルノ」が披露される。実際、滝のライトハンド、かみじょうのツイン・ペダルが怒濤のように押し寄せ、"命を燃やし尽くせ"というメッセージが強烈に刻まれて終幕! みたいな凄まじい演奏だった。滝は定位置でしっかりギターを弾くことに集中している。個人的にはいつも滝が具体的にどういう演奏をしているのか追いきれないこともあって、彼の確実なプレイをじっくり見てしまった。
民話的な歌メロを持ち、リズム・パターンは複雑怪奇な「火祭り」でのリズム隊の確かさに唸ってしまった。そしてかみじょうがドラム・ソロを披露。トライバルとかジャズ的な部分など、今の9mm、そしてかみじょう作曲のアイディアの一旦も垣間見られるソロだ。予定どおりに進行することはたしかにアルバム名を冠したライヴである以上、大事なことだが別の意味でこのドラム・ソロは『Waltz on Life Line』をひもとく要素にもなっていた。ドラム・ソロに続いては、さらに滝コールが大きくなり「Black Market Blues」が全員参加のハンドクラップとシンガロングで展開。そして9mm流の夏の情景や心象がうかがえる「スタンドバイミー」。この曲だけじゃなく、新曲はまだまだ育っていきそうだ。それは、いい意味で解釈の余地も消化の余地も大いにあるからだ。
終盤に向けて菅原が珍しいぐらい長いMCをした。アルバムのインタビューでも話してくれていたが、"別に何不自由なく育ってきても、どうしても諦めきれないことや「お前は何なんだ?」というブラック・ホールみたいなものがある"と。"それに出会って生まれた曲をこれからもみんなの前で演奏できればと思います"と、さらに命を燃やし尽くすようなレパートリーが連投されていくのだ。"おまえの瞳の奥にある 太陽が欲しいだけ"と勇敢なメロディに乗せて歌われる「太陽が欲しいだけ」は2016年以降、これまでいくつも肝心なところで自分を鼓舞してくれる曲を生み出してきた9mmの今の代表曲。力を振り絞ってソロを弾く滝、いつも以上にアクティヴに動きながら演奏する中村。「ハートに火をつけて」では滝のコーラスが力強く、「反逆のマーチ」ではワーミー系のエフェクトがこの曲の不敵感を煽る。当たり前のことだが曲の完成度の高さで私たちは血をすでに沸騰させているのだ。ラストの「新しい光」で起こった大合唱に込められたニュアンスは、与えられて反応する類の歌声じゃなかった。ステージ上のタフなメンバーの姿に触発された、まさにひとりひとりの生命力だ。

悔しさも残るライヴだったかもしれない。だが、それ以上にメンバーの信頼関係を目の当たりにし、9mm Parabellum Bulletという人間味溢れるバンドの魅力が、まさしくバンドの包容力となっていることを奇しくも実感できたことは貴重だった。それと同時に、リベンジも願う。

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