Japanese
THE BACK HORN
Skream! マガジン 2021年07月号掲載
2021.06.11 @Zepp Haneda(TOKYO)
Writer 石角 友香 Photo by Rui Hashimoto[SOUND SHOOTER]
リアルでオーディエンスに会いに行く――その覚悟と純粋な意志が表れているかのように、THE BACK HORNはコロナ禍を掻い潜るようにツアーに奔走している。前回、『カルペ・ディエム』を軸としたツアーを4月に終了したあとは、山田将司(Vo)のソロでの活動や、どこまでも予想不可能な表現活動を行う菅波栄純(Gt)のソロ活動"eijun"、またバンドとしてもイベントに出演。2020年のライヴが行えない息苦しさを反転させるが如く精力的だ。そして、5月からスタートした今回のストリングスをフィーチャーし、東日本大震災のあとの2012年にリリースした『リヴスコール』をセットリストの軸にしたライヴも、2、3ヶ所ではなく、全国ツアーである。総勢9名で構築するグルーヴは日を追うごとに変化してきたに違いない。ストリングス・ツアーは、2016年の"THE BACK HORN「KYO-MEIホールツアー」~月影のシンフォニー~"以来。当時は結成20周年に向かう途上の音楽的な深化を様々な時代の楽曲で披露してくれたが、ストリングス・アレンジにも独自の美学を持っていることは証明済みだ。
『リヴスコール』は端的に言って、THE BACK HORNの音楽やライヴが、誰かにとっての"帰れる場所"としての自覚を強めた作品で、現在は今作リリース時と世相は似通っているけれど、もはや音楽は不要不急か? と問われて萎縮している段階にない。気負うことなく、そういう態度で生きている。今回のツアーの意図は非常に明確だと感じる。
メンバーとキーボードの曽我淳一、めかるストリングスの4人の総勢9名が位置につき、青いライトが照らすなか、菅波の透明感のあるギター・リフから「トロイメライ」でスタート。風を運ぶぐらいの繊細なストリングス・アレンジがいい。一転、サスペンス色すら差し込んでくるドラマ性が映える「シリウス」。そこから意表を突く印象で「ブラックホールバースデイ」に接続するのだが、バンドだけで命の蠢きを表現するようなこの曲に、鍵盤とストリングスが入ることに違和感はない。特にエンディングに向かって弱さを吐き出しながら前進しようとする歌詞を絶唱する山田の熱量を、鼓舞するような血の通ったアレンジはツアーを経てきた塊感がある。菅波のフィードバック・ノイズも相まって、弦を入れたバンド・アレンジの定石を打ち破っている。
いったん、ストリングスと曽我が捌け、バンドだけで緊張感に満ちた曲が続く。菅波のマシンガン・ギターがガレージ調の「超常現象」、物語として聴けるようになったとはいえ、相変わらず自分のどこかに怪物の存在を感じる、少年の頃を想起させる「ジョーカー」は、4人の演奏の生々しさを毎回更新しているようにすら思えた。この曲から「自由」に繋ぐ流れで発生する、実際に生きてみないとわからない自分にとっての自由の感触が、演奏されることで蘇る。
再びストリングスと鍵盤が入る「グレイゾーン」は、岡峰光舟(Ba)のメロディアスなラインが牽引しつつ、菅波のリフとストリングスが呼応し、スケールを増していく。透明感のあるオルタナティヴ・ギター・ロックな趣きの「いつものドアを」では、ストリングスのアンサンブルが曲に浮力を与えるようで、アウトロのギターのアリア進行的な展開とも相まって、祈りのニュアンスを深めていた。山田の語りから入る「シュプレヒコールの片隅で」は音源よりも、素朴なマイナー・フォーク的で、様々な戦いの渦中に身を置くような楽曲が続く。基本的にTHE BACK HORNのレパートリーは日常の喩えとしての戦場でも、それがもたらす緊張感に共振して高められる部分があるが、この日は緊張感のある楽曲も演奏の手応えが強かったのだろう。ステージ上のムードが開かれているし、なんなら楽しそうですらあった。
じっくり時間軸の異なる楽曲を繋いできた前半の区切りには、現在の最新曲のひとつである「君を隠してあげよう」を披露。音源通りのピアノとストリングスであることで自然に聴こえると同時に、文学性とは違う身近な言葉遣いの歌詞がことのほか、温かく心に迫る。ご存知の通り、作家 住野よるの小説"この気持ちもいつか忘れる"と、互いにインスパイアされて誕生した楽曲のひとつで、小説の内容と分かちがたい存在だが、やはりここでも彼らの音楽は誰かにとっての避難所なのだ。この曲をセットした意味は大きい気がする。前半を終えて"楽しいとシールド絡まりがち"という菅波の話に始まり、松田晋二(Dr)の、ポケットのあるボトムにゴミが入るのが嫌で表に出して着ていたという合宿での話題など、MCになるとゆるゆるになるのも楽しさゆえか。
後半はエレピが加わり都会的なアレンジに印象が変わった16ビート・ナンバー「夢の花」、これまたピアノのイントロで、発表当時、チャレンジングだった「星降る夜のビート」と続き、THE BACK HORNの中にあるブラック・ミュージック的要素を、グッとアップデートして聴かせる。今聴くと、この独特なミクスチャー感はちょっと他のバンドにはないアイディアだ。しかも、この曲の"今夜最高の時を刻むミュージック"というフレーズは、『リヴスコール』の「ミュージック」にも繋がるではないか。改めて気づきが多いアルバムだ。
終盤は再びストリングスを迎えてハードに疾走する「コバルトブルー」。ビッグ・バンド風のエンディングのアレンジが新鮮だ。何度も何度もライヴのクライマックスを作ってきたこの曲は今も変化の余地を残している。しかし、アレンジがどうなろうが、オーディエンスのステージに送る熱量は不変。全身でエネルギーを放出し、椅子席でありつつ空気感はカオスだ。畳み掛けるように「シンフォニア」では、ギター・リフと対決するぐらいのストリングス・リフの強靭さ。滑空するようなサビがさらに大きく膨らむ。9人全員のギリギリの抜き差しがせめぎ合って見事に決まったエンディングも見事だ。さらに、ギターと弦で作る音の壁がオーケストラ的な「戦う君よ」。より立体的になった音像は嵐の渦中にいるような体感である。単にアッパーでハードな曲というより、激烈な状況に身を置くようなアンサンブルが効果的な3曲でもあったのだ。
本編ラストを前に、山田が会場に来る道中、ファンと思しきふたり組と遭遇し、Tシャツやグッズで身を固めた姿が嬉しく、ワクワクしている姿に元気を貰ったと素直に話していた。自分から話し掛けるのも怪しいので遠目に見ていたところ、結局気づかれたらしいが、一連のエピソードが彼らしく、泣き笑いのライヴに温かさを添えた。
そこからのラストの「世界中に花束を」。メンバー全員のコーラスや、丁寧に奏でられる一音一音が、どんな状況でも自分自身の心と向き合う歌詞とリンクしている。震災後もそうだったが、性質を変えながら、今も生きることで精一杯だったり生きる意味を見失ったりする現実がある。この歌が響く状況や背景はさらに混沌としてきたとも言える。それを無視することはできないし、自然と向き合える場を作ってくれた彼らに感謝したい。
アンコールの「ミュージック」、「ラピスラズリ」で、それでも前に進む気持ちをタフに後押しされ、ど定番の「刃」もタンゴ的なアレンジを弦がよりドラマチックに盛り上げ、我々オーディエンスの中から勇敢な何かを引き摺り出す。まだいける。いや、まだまだこんなもんじゃない――いい意味で、いつものTHE BACK HORNのライヴ後の感情が溢れた。きっちり構成されたセットリストの先に、明日からも生きるための道筋ができていたのだ。
[Setlist]
1. トロイメライ
2. シリウス
3. ブラックホールバースデイ
4. 超常現象
5. ジョーカー
6. 自由
7. グレイゾーン
8. いつものドアを
9. シュプレヒコールの片隅で
10. 君を隠してあげよう11. 夢の花
12. 星降る夜のビート
13. コバルトブルー
14. シンフォニア
15. 戦う君よ
16. 世界中に花束を
En1. ミュージック
En2. ラピスラズリ
En3. 刃
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