Japanese
THE BACK HORN
Skream! マガジン 2024年04月号掲載
2024.03.23 @パシフィコ横浜 国立大ホール
Writer : 石角 友香 Photographer:橋本塁[SOUND SHOOTER]
結成25周年イヤーの締めくくりとなったパシフィコ横浜 国立大ホールでの本公演。バンドで初めて作った曲からこの日のために書き下ろした新曲まで、25年のキャリアを一望するだけでなく、25年という時間が醸成したバンドの深化とアップデートを続けるフレッシュさ、それを受け取りバンドへ還流するファンとの関係も含めたTHE BACK HORNというバンドの在り方を証明した2時間半だった。
ファンから募ったキャッチコピーをあしらったライヴ写真のポスターが掲出されたロビーにはバンドの様々な時代に出会った幅広い層のファンが集まり、その情景にこのバンドの歴史のみならず懐の深さを感じる。天井の高いホールで開演を待つムードはいい緊張感と祝福に溢れていた。
オリエンタルな旋律を持つエレクトロニックなSEが流れるとクラップが起こり、メンバーが静かに登場。1音目の松田晋二(Dr)のハイハットと菅波栄純(Gt)のギターのイントロが鳴った瞬間にこぼれ出した歓声の大きさも納得。THE BACK HORNとして初めて書いた「冬のミルク」だったのだから。研ぎ澄まされた音像は"Rearrange"を経た今ならではのライヴ・アレンジだ。続いてはメジャー・デビュー曲「サニー」を披露し、色褪せないイノセンスを再認識。一転、菅波のドライヴするハードなリフで攻める「その先へ」が鳴らされるのだが、この曲も"とりあえず全部ぶっ壊そう 閃いたライブハウスで"と歌われるように、自ら運命をバンドという手段で動かす意志表明という意味で、バンドの原風景が見える。それでいて山田将司(Vo)の振る舞いは闇の支配者のような演劇性を見せる。闇雲なアクションではなく、蓄積してきたパフォーマンスである。
続くブロックはTHE BACK HORNの緊張感のあるナンバーにおけるアレンジの特異性が際立つ。メタルにも顕著ではあるけれど、「閉ざされた世界」での岡峰光舟(Ba)の蠢くフレージングに感じるクラシックの要素を軸に、4ピースと思えない世界観が現出する。さらに菅波の悲鳴のようなチョーキングで始まる「罠」に、自ずと現実の戦禍を想像せざるを得ない時代の変遷も重ね合わせてしまった。あくまでもこの曲で歌われているのは精神的な戦争状態ではあるが、心の戦争を自覚してこそ未来もあるのではないかと考えてしまった。聴き手に投げ掛けるものがこんなに奥行きを持つバンドも珍しいんじゃないだろうか。でも大事なのは隣にいるあなたの存在だよな、と次の「シリウス」で思うようなセットリスト。もちろんこれは個人的な感慨だが、カッコいい曲で拳を上げられるから彼らのライヴに足を運ぶ、それだけが理由じゃないだろう。自分への怒り、他者への怒り、諦め、葛藤。でも生きるしかない。生きたい。そうした想いと常に向き合わせてくれるのが彼らの音楽だ。
続くタームでは武道館公演などの大きな会場でもなかった演出が。背景のスクリーンいっぱいに心臓、血、肉を想起させる映像が展開した「心臓が止まるまでは」。自らの肉体の躍動がリンクするような見事な演出だ。さらに「悪人」ではデッサン人形が一方的な暴力などを振るうギリギリの表現が曲の持つストーリーを拡張。思い切った演出にチームの熱量を感じる。そして少しユーモアを含む壊れたキャラクターが曲に新たな方向性をつけた「コワレモノ」。菅波が"神様だらけの"とコールし、オーディエンスが"スナック!"とレスポンスする馴染みの場面も映像が盛り上げるというポップさだ。悪人も壊れた人も、一面だけじゃなく、愛すべき人間だ。そのことを新しい観点で気づかせる演出が挑戦的で良かった。セッション的なイントロから意外なチョイスに歓声が上がった「舞姫」ではサビで3拍子に変化するリズムの面白さも明快に表現し、続く「アカイヤミ」ではインダストリアルな冷たく重いビートとクランチなリフが心身を裂く。人間の暴力性や闇も生きる渇望のひとつかもしれない。躊躇なくそれを描出するTHE BACK HORNの真骨頂を一望するタームだった。
MCになるといきなり緩くなるのはいつも通りで、岡峰が"横浜といえば開港"と、横浜の歴史に触れ、菅波がペリーをペルーと言い間違えたりして緊張感が解ける。バンドにとっての横浜の記憶といえば赤レンガ広場でのフリー・ライヴという話題も上がったが、そのペースで話しているといくら時間があっても足りないというオチに。松田が"いろんなタイミングで出会ってくれてありがとうございます"と謝辞を述べたところで、25周年経過した現在だからこそ作り得た「Days」が、素朴な優しさを纏ったアンサンブルで披露された。まさにセットリストは温かくて安心できる場所へオーディエンスを誘う。「あなたが待ってる」の、タイトル通りの想いはリリース時以上にバンドの身についた曲に育った印象を受けたし、「未来」の透徹した美しさが沁みるのは改めてメロディの素晴らしさだと気づく。そして歌に尽くす演奏の洗練が静かに込み上げる楽曲でより冴える。彼らの純粋さが言葉にもメロディにも表れた楽曲群は「世界中に花束を」で、より遠くに放たれた。
マイナー・チューンの鼓舞される楽曲の多彩さもTHE BACK HORNの特徴であり、「涙がこぼれたら」からのタームはバンド・イメージを象徴するセットリストだ。それが最近に近いものから遡っていく流れもいい。ヴァースでは音数を絞り、岡峰のベースがフックになっているが、サビに駆け出していく体感は「Running Away」の醍醐味。今やライヴのアンセムとなった「希望を鳴らせ」は正攻法の8ビート。そして「コバルトブルー」は不滅のキラーチューンである。00年代から2020年代まで、どの時代にもアンセムがあり、魂も肉体も奮い起こしてくれるパワー・チューンがある。しかも演奏は今が最高に研ぎ澄まされている。楽曲の鮮度が落ちればこうはいかないだろう。
大ホールのライヴとは思えないぐらい感情が沸き立ち、喜怒哀楽やその隙間の精神状態にも叩き込まれた19曲を経て、本編ラストは「太陽の花」だ。祭囃子も想起させるリフや2拍のクラップが日本的な祝祭感と狂騒を巻き起こす。しかも情報量の多いネット発の音楽のニュアンスもバンド・アンサンブルに落とし込める胃袋の強さも感じた。そう。THE BACK HORNは強靭な音楽の胃袋を持ったバンドでもあることを痛感させるエンディングだったのだ。
軌跡を20曲に絞りに絞った本編の熱演を経ても、メンバーはまだまだタフだった。アンコールもTHE BACK HORNのオリジナリティを凝縮するかのように、新曲「最後に残るもの」や至高のバラード「泣いている人」などに加え、この日のために書き下ろされた新曲も披露。山田が"よくある「このあと21時に解禁」とかそういうんじゃなく、本当にこのためだけ"と話し、拍手と笑いが起きていた。そして締めくくりはこの曲が鳴らされなければ終わらない「刃」。それはまるで26年目の始まりに上がった狼煙のようでもあった。
なお、7月には対バン・ツアーと2年ぶりとなる日比谷公園大音楽堂での"夕焼け目撃者"の開催もアナウンスされた。
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