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LIVE REPORT

Japanese

THE BACK HORN

Skream! マガジン 2022年07月号掲載

2022.06.10 @Zepp DiverCity(TOKYO)

Writer 石角 友香 Photo by 橋本塁[SOUND SHOOTER]

13thアルバム『アントロギア』を携えたツアー全15公演の7本目、Zepp DiverCity(TOKYO)を目撃したが、今後のライヴ参加を迷っている人には観たほうがいいと断言したい。コロナ禍で先延ばしにされていた前作『カルぺ・ディエム』をようやく体現した昨年3月のUSEN STUDIO COASTでは、再開のキックオフに流す涙があり、6月のZepp Haneda(TOKYO)で観た『リヴスコール』を軸としたストリングスを導入したライヴでは、作品の普遍性と新たな解釈にこみ上げるものがあった。また、12月、クローズが近づいたUSEN STUDIO COASTでの"マニアックヘブンツアー Vol.14"ではこのシリーズならではのレアな選曲が現在進行形の演奏で展開された。そして今回。自信作である新作を作り上げたバンドのツアーはまた異なる熱さに満ちていたのだ。ツアーを行うこと自体が困難な状況に一切言い訳せず、毎回新たな発見をもたらすTHE BACK HORN。むしろ現在、凄まじいモチベーションでバンドが駆動しているのではないか。

椅子席スタイルでまだ制限があるとはいえ、発声せずとも熱量を溢れ出させるファンの姿に胸が熱くなる。2階席はスローな曲や静かなナンバー以外はずっと揺れているほどだ。メンバーも話していたが、若いファンも循環するように足を運んでいることも、THE BACK HORNのライヴの現場がずっとヴィヴィッドである証左だろう。今回はアルバム・ツアーであり、もちろん『アントロギア』収録曲がメインになっているのだが、近作で導入しているメンバー各々のアイディアをセッションではなく、DAWに落とし込んでそれを各人で磨き上げる制作手法が今回は特に多かった。ゆえに楽曲の多彩さも増し、従来なかったトーンの楽曲も増えている。

すでにこれまでのツアーでも披露されていたとはいえ、各地でファンの表情を見て、心と心で向き合い、確信を持って演奏する「希望を鳴らせ」の一語一句、一音一音は説得力がさらに増していた。菅波栄純(Gt)が持ってきた"希望を鳴らせ"という言葉を山田将司が歌い、演奏でそれをより濃く遠くに放出すると、同じエネルギーがフロアから返される。シンプルな言葉の背後にあるつらさや厳しさもすべて抱きしめて放たれるこの曲の強さは、現場ならではの体感だった。

リズム隊の研ぎ澄ましたアレンジと、そのことでより効果的に伝わる全体像という意味では岡峰光舟(Ba)の"ドッ、ド、ド"という鼓動のようなイントロからスタートする「ユートピア」は、その音圧に反応することで直感的に自分の命を確認したし、タイトに刻まれる松田晋二のビート、切り込んでくる菅波のリフのタイム感にゾクゾクした。これはどの曲にも言えることだが、演奏に曖昧さがない。エンディングも音源のアレンジを踏襲して、1曲の世界観を凝縮して潔くスパッと終わる。

目まぐるしくリズム・チェンジする「疾風怒濤」も、さらにブラッシュアップされ、山田のラップ調のフロウも冴え、言い放ちたい言葉を代弁してくれる感覚が増す。リズム・チェンジやテンポ・チェンジに食らいつき、腕を振ったり緩く横ノリしたり、自在に曲に反応するファンの姿もバンドにエネルギーを送っているのだろう。MCで感想を聞かれた菅波が"めっちゃ気持ちいい"としか言いようがなかったのも納得。本人いわく漫画の吹き出しのようにギザギザした、大声を表現するフォントの"めっちゃ気持ちいい!"らしいのだが、"シンプルな言葉だけどほんとにそうだね"と岡峰も笑いながら同意していた。

菅波が、自分でフレーズを作っておきながら、岡峰のベース・プレイを"化け物みたいな手の動き"と、MV撮影で驚いたと語っていた「ヒガンバナ」を生で目撃して、その化け物ぶりを確認できたのも大きい。全体的にリズム楽器で基底となるグルーヴと情景を作り、空間を上物であるギターや同期で拡張する、アップデートされたバンド・サウンドも『アントロギア』完成以降さらに顕著になった。また、アルバムの新曲以外の、ライヴの流れを効果的に作り上げていくこれまでの楽曲や、かなりレアな選曲にも期待してほしい。今のTHE BACK HORNが生きていることそのものを祝福するに至った根拠となるような、20代の葛藤や、青春時代の瑞々しい思いを表現した楽曲が並走するセットリストだからだ。

困難な時代にツアーを敢行するにはそれだけのモチベーションが必要なのだろう。特にTHE BACK HORNのように誠実なバンドにとっては。ここから7月30日のファイナルである金沢公演まで、さらにセットリストの必然性が研ぎ澄まされていくのではないだろうか。

また、言わずにいられなかったというテンションで発表された、約5年ぶりの野音公演が決定。今年は初めて大阪での開催も決まった。毎回、吟味した選曲で届ける"夕焼け目撃者"。早くも秋が楽しみでならない。

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