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INTERVIEW

Japanese

THE BACK HORN

2022年03月号掲載

THE BACK HORN

Member:山田 将司(Vo) 菅波 栄純(Gt)

Interviewer:石角 友香

4月13日にニュー・アルバム『アントロギア』をリリースするTHE BACK HORN。2020年5月の緊急事態宣言の最中に制作した「瑠璃色のキャンバス」、ともに歌える日を希求する「希望を鳴らせ」や、タフな実験性を発揮した「疾風怒濤」、そして今年2月に先行配信リリースしたシンプルであるがゆえに強い「ヒガンバナ」や、ロック・バンドが試行するダンサブルな第2弾先行配信曲「ユートピア」など多様な全12曲を収録する。今回は「ユートピア」の制作過程や歌詞の意図、そしてアルバムのサウンド志向や前作『カルペ・ディエム』からの変化を中心に山田将司と菅波栄純にインタビューを実施した。


変われてる部分も変われてない部分もあるけど、引き連れたまんまでユートピアを目指したい


-まず「ユートピア」のお話を訊きたいなと。すごい曲が来たなと思って。これからの代表曲になりそうな印象がありました。

菅波:あ、嬉しい。

-どういう発端から出てきた曲なんですか?

菅波:前回のアルバムのときも多少そうだったんですけど、どんな曲をアルバムに入れるかをメンバーで最初に話し合って、大雑把に曲の役割を10曲分ぐらい取り揃えてからやり始めて。この「ユートピア」がアルバムの大事な曲になるであろうって、ポジションは最初から決まっていたんです。そのポジションになる、ロックだけど速いロックじゃなくてミディアムで、踊れて、洋楽感もあるというテーマだけが先にありました。でもそれってよく考えたらすごくハードル高いなと思って(笑)。ただ、自分が担当だったんで、しばらく寝かせてたんですよ。そしたらちょくちょく将司から、"あの曲どうなった?"と聞かれて(笑)。将司は心配してた? ハードル高すぎてどうすんのかなと思ってた?

山田:どれぐらい進んでいるのか気になって。ツアーもやりながらの制作だったので、そこはちょっとつついてましたね。

菅波:会うたびに、"あれはどうなった?"って(笑)。

山田:会うたびに、"いや、なんもできてない"(笑)。

-山田さんが歌詞を書くことが決まってたからですか?

菅波:それもあって気にしてたと思う。で、結構将司から背中を押されてたこともあり、そろそろ向き合うかと思って向き合ったときに、自分の中ではROYAL BLOODが流行ってて。ROYAL BLOODの1st(『Royal Blood』)がすごく好きで、俺と将司でタワレコ回りかなんか行ったときに試聴機に入ってたのが1stだったんですよ。

-THE BACK HORNはなんのタイミングで回ってたときですか?

菅波:なんのタイミングですかね? 前作(2019年リリースの12thアルバム『カルペ・ディエム』)より前で。その頃からハマってたんですけど、最近はゴリッとしたリフもののロックから、ちょっとダンサブルな感じになって、その感じがいいなってハマってたのもあって、自分の中では最近のROYAL BLOOD味が少し入ってるんです。音の隙間が多ければ多いほど、曲は堂々として聴こえるし。あと、うまくいけば隙間があればあるほどダンサブルに仕上げられることに最近やっと気づいたので、それに思い切り挑戦しようと思ってやったんです。

-これはダンス・ミュージックじゃないですか?

菅波:ですよね。ギターのリフがウン、チャッチャッて1拍休んでから入ってくるので、イントロ入った瞬間にキックしかいない(笑)。これは俺らのセオリー上、今までありえなかったから、結構度胸がいりました。でも今までやってないことをやんないと殻を破れないと思って、チャレンジしてみて良かったですね。

-最近THE BACK HORNは音源もそうですけど、ライヴの各楽器の役割というか、すごくあるべきところにあるなと。べたーっと来なくて、すごく分離がいいので、音源でも自然に聴こえるというか。

山田:それはみんな作曲することが増えてきて、パートの役割とか極力シンプルなところでしっかり見せれたらなっていうのがありますね。

-アルバムに関して言うと一曲一曲の役割があるぐらいの意識で作っていたと。

菅波:そうですね。ただ、なるべくシンプルにっていうのは今回あったかもしれない。あの、かたまってる音が豊かな曲もあるんですけど。

山田:ちゃんと4つの楽器のアンサンブルとしての、それこそべたーっとしすぎないとかね。豊かに見せられる空気感を意識したところは......毎作あるけどね?

菅波:毎作あるけど、さっき前作の『カルペ・ディエム』聴いてきて、『カルペ・ディエム』は結構派手というか、ある意味、絵画のような。a flood of circleの(佐々木)亮介(Vo/Gt)に"『カルペ・ディエム』聴いたとき、絵画に圧倒されるみたいな聴き方になったけど、次はどんなやつが来るんですか?"って聞かれたけど、そういう意味では次のアルバムは、肉体的な部分も大きいし、シンプルに聴こえる曲も結構あるんじゃないかなと思います。

-佐々木さんが絵画的な音って言ったのは大きい絵みたいなイメージなんですかね?

菅波:大きい絵みたいなイメージ。たしかにそうだなと思った。あとはある意味、演劇的というか、そういう曲も多かったから。「心臓が止まるまでは」から始まって、「ペトリコール」とかも入ってて。それでいうと、前作からの違いを楽しみにしてほしいですね。

-印象として、「ユートピア」はすごくポジティヴな曲だと思ったんですよ。

菅波:歌詞によるところもあるんじゃないですか。

-山田さんが作詞する段階での印象はどういうものでした?

山田:なんだろな? THE BACK HORNとしては今までにないアプローチだし、サウンドだなと思って。でも、アルバムの1曲目ということが決まってたので、先行曲として前向きな気持ちは出したいなっていうのはありました。ここ数年で感じてる、"ま、どうにかなるさ"って気持ちも含めた、"考え方ひとつで、逆にラッキーじゃない?"という想いを込めたい感じ。

-まず"ユートピア"ってタイトルに驚きました。穿った意味で付けてないというか。

菅波:あぁ(笑)、ひねくれて言ってるわけじゃなくて。

-タイトルは最後に付けたんですか?

山田:タイトルは一番最後ですね。

-歌詞で面白いのがTHE BACK HORNの歴史がいろいろ散りばめられているところで。

山田:あぁ。"ヘッドフォンチルドレン"とか(笑)。

-『ヘッドフォンチルドレン』(2005年リリースの4thアルバム)を作っていた頃と、青年像、少年像は山田さんの中で変わりましたか?

山田:その言葉を使ったのは15年以上前の自分と比べてて、その自分があって、今変われてる部分も変われてない部分もあるけど、引き連れたまんまで理想、ユートピアを目指したいというのがあったんです。それで出てきましたね、"ヘッドフォンチルドレン"は。

-その頃からファンの人は、自分もしんどさを解決はしてないかもしれないけど、山田さんがおっしゃったように、それも連れて行くというので年齢重ねてきてると思うので、また出会えた感じがするんじゃないでしょうか。

山田:それは嬉しいですね。

-最近のTHE BACK HORNの曲には、過去には考えられなかったぐらい前向きな曲があるわけで。違うタイプの前向きさというか。この曲は全部インクルードしてる感じがします。

山田:うんうん。良かった。説得力になってくれたらいいですね。

-そういう20年を俯瞰してる感じもわりとあるし。

山田:どっちもある感じですね。俯瞰しながら、盲目になりながら、行ったり来たりしながら。「ユートピア」みたいな歌詞を書くのは初めてなんですよね。叙情的な感じがないというか、泣きの要素で書く歌詞が結構多かったから。いろんなふうに見せられるぶん、THE BACK HORNとしてどういう意識を最近持ってバンドやってるかとか、イメージをしながら書きましたね。

-泣きの部分ではないけど、ちゃんと物語や喜怒哀楽がしっかり描かれてる印象でした。 あとは細かいアレンジやSEの部分も面白くて。

菅波:あぁ、良かった。シンプルに聴こえるけど意外と入ってるんだよね。普通に聴こえるけど意外と入ってる。

山田:何が入ってるかわからない、もはや(笑)。

-今までも展開自体がプログレッシヴな曲とか、そこで入ってくるSEも曲がプログレッシヴだからという納得の仕方をしてたんですけど、この曲はアンセミックでもあるので、面白いSEの使い方だなと思います。

菅波:あぁ、そうですね。『情景泥棒』(2018年リリースのメジャー1stミニ・アルバム)あたりから少しエレクトリックな音を入れ始めたけど、まだ試行錯誤があって。今ある程度自分のセンスとして身についてから出してるような、音のチョイスだなって自分で思います。さりげなくも入れられるし、印象的にボン! と入れるのも反射的にできる。あとは、最近、自分の嗜好としてだんだん長い曲が聴けなくなってきて(笑)。

山田:結構、前からだよね(笑)。"せっかちだな"と思うときがある。イントロ短い、間奏弾かない(笑)。

菅波:"間奏は足そう"って、将司に言われたよね(笑)。で、この曲もしっかりサビ3回ぐらいやっちゃうと結構な長さになっちゃうんで、真ん中をバン! って。どうやったら縮まるかなと思ってたら間奏のあの展開を思いついて、それでやったら思いの外、今度は短くなったんで、後奏をつけました。なんかこんな言い方だとなんのロマンチックさもないですけど(笑)。

-(笑)菅波さんはリスナーとしてもどんどんアップデートされていってて。リスナー脳もすごくあると思うので。

菅波:そう、リスナー脳は完璧にそう。

山田:ディレクションが得意になってきてるんじゃない?

菅波:自分の中にふたりぐらいいるんだろうね。作家の自分と、横で"いや、お前これ長いよ"とか言ってる自分がいて。でも俺、バンドの音楽としてはイントロ長いほうが好きなんですよ。

山田:言ってることがわかんないよ(笑)。

菅波:リスナーとしてよ。ライヴではイントロで1回盛り上がりたいって気持ちがリスナーとしてはあるんで。意外とイントロ、2段階あったりするんです。
山田:そうだね。逆にイントロない曲は栄純、作んないもんね。

菅波:イントロは毎回ある。で、1回拳上げたくなるっていう。今回もそうだし。最近、ライヴでやってる「太陽の花」(『カルペ・ディエム』収録曲)とか、実はイントロ長い。

-今回はベース・ラインがその役割を担ってますね。

菅波:そうですね。あれ、凝りましたね。凝りましたって言っても、シンプルなラインなんですけど、カッコいいですね。