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THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第四回】

2018年12月号掲載

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第四回】

第四回「練習」

子供の頃、僕の街には目新しい遊び場は何一つなく、夏は川遊び、秋や冬は山遊び、それ以外は公園や駐車場で鬼ごっこやボール遊び。それが基本的な学校以外の時間の過ごし方だった。塾やスポーツ教室などもなければ習い事といえばそろばん塾が一つあったくらいで、とにかく学校以外の時間をどう使うか暇を持て余していた。

遊ぶ約束をしなくて済む部活動は、そんなに社交的じゃなかった自分からすると、自動的にみんなと一緒にいれる最高の時間だった。ましてや、サッカーをやりながら過ごせる放課後。

今思うと、子供時代の社会は残酷で、「今日遊べる?」って聞いても「遊べない」って言われてその友達は平気で別の友達と遊んでたり、見かけたから近付いていくと走って逃げられたり。悪気があったのかなかったのか、今考えるとそんな事しょっちゅうされてたなって思う。あと、何もない田舎だから、新しいカンペンケースを買っただけで、「それは学校で買っちゃいけない筆箱だよ」といじめられたり、とにかく自己主張や変わった事をするとシカトされたり、いじめられたりがよくよく頻繁にあった。どうやらみんなからすれば鼻につく存在だったのかもしれないと気付いたのは中学の頃だった。何もない田舎町に転がっていたのは、真っ黒い絶望だけだった。

「晋二は今度からゴールキーパーな」の監督の一言からだいぶ日にちが経って、いつもいないのにたまたま気分で来たであろう監督からキーパーは別れて練習しろという指示がでた。

上級生のゴールキーパーから古びたキーパーグローブを譲り受け、ペアでパントキックやキャッチングなど基礎的な練習を始めた。ドッジボールが得意だったせいかキャッチングは慣れたもんだった。キックも体格のおかげかボールはイメージ通り遠くへ飛んだ。最初戸惑ったキーパーへの転身も思ったよりすんなりとやれていた。長距離は苦手だが、短距離は速くて体が大きい。跳躍力もあって肩も強い。今考えると、サッカーでは完全にキーパーだけにしか向いていない運動能力だった。誰か一人やらなくてはいけないゴールキーパーを僕に指名した監督は実は選手の特性をしっかり把握してたんだと思う。キーパーだけ別メニューの練習なのも何か特別感があって嬉しかった僕は、六年生から譲り受けたキーパーグローブを常に持ち歩きキャッチングの練習に励んだ。

魔球の練習に懸命に励んだあの日から、ゴムボールからサッカーボールに変わり弟はまた僕の練習相手となった。YouTubeは無かったがビデオデッキはあった。インターネットは無かったが図書館はあった。プロの選手はどういうキャッチングをしてるのか、録画した三菱ダイヤモンドサッカーの試合映像を何度も繰り返しスーパープレーを目に焼き付け、ゴールキーパーの基礎的な姿勢や捕り方などは、図書館に置いてあった「初めてのゴールキーパー」を読みながら自己流で学んだ。中でも横っ飛びの練習は校庭でやるのもキツく、擦りむいたり足の付け根の外側の骨がもの凄く痛いので、畳の家で座布団を敷いて、ばぁちゃんにボールを投げてもらいながらの練習なんかもしていた。

ある日、晩御飯を食べた後にキーパーグローブが無いと大騒ぎになり、半べそをかきながらカバンやバックを何度も何度も探しても見つからず、校庭に置き忘れてきたかもしれないと、寝ていた親父を起こして小学校まで車を走らせ、ライトで照らしてもらったその先に、サッカーゴールの横に寂しそうに置き去りにされてたキーパーグローブを見つけたという事件もあった。その時は、いなくなってしまったペットが帰ってきた気持ちというか、本当にいなくなった相棒が見つかった喜びで今までにないくらい号泣したのを鮮明に覚えている。

そんなゴールキーパーに取り憑かれて何ヶ月目かのある日、初めての対外試合が行われる事となった。

<つづく> 


THE BACK HORN

1998年結成。"KYO-MEI"をテーマに、聴く人の心をふるわせる音楽を届けていくという意志を掲げる4人組ロック・バンド。2001年、メジャー1stシングル『サニー』をリリース。以降、そのオリジナリティ溢れる楽曲の世界観からクリエイターとのコラボレーションも行う。2017年、2枚目となるベスト・アルバムをリリース。2018年に結成20周年を迎え、3月にミニ・アルバム『情景泥棒』を発表。10月17日には、インディーズ作品の再録アルバム『ALL INDIES THE BACK HORN』をリリースした。現在、全国ワンマン・ツアーを開催中で、そのツアー・ファイナルとして2019年2月に日本武道館公演を行う。

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