THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第三十二回】
2023年08月号掲載
第三十二回「闘志」
あっさり負けてしまった予選リーグの2試合が終わり、最後に1試合だけ出場しなかった選手たちのフレンドリーマッチが行われた。ベンチから見ていた強者たちの勝負に挑む緊迫したムードとはまた違い、試合に飢えていた血気盛んな者たちの、ある意味フレッシュな気迫が両チームに漲っている。とは言っても、相手の力もさっきの主力メンバーよりは1段落ちるが、今まで味わったことのないスピードで目まぐるしく試合が展開する。そして驚くことに、あまりキーパーまでボールがまわってこないのだ。それほどチーム力が拮抗していたということかも知れないが、どちらか一方にピンチやチャンスが偏るわけでもなく、激しいフィールド上での奪い合いが続く試合展開となった。
僕らの当時のサッカーは現代と違い、戦術やチームのシステムなどはあまりなく、基本的なポジションのみでとにかく蹴って走る。というようなシンプルなサッカーだったように思う。プロの世界では、戦術やシステムは時代と共に変化し、欧州の各国のリーグを勝ち抜いたチームで戦う、世界最高峰のリーグ戦であるチャンピオンズリーグで優勝したチームのサッカーがトレンドになる傾向がある。ある年はパスを繋いでそこから崩して得点を狙うポゼッションサッカー。ある年は、中盤で人数をかけてボールを奪い素早く攻撃を仕掛ける、ショートカウンターサッカー。現代はそれらが混ざり合った、繋ぎながらビルドアップして中盤でボールを奪ったらショートカウンターという、ハイプレス、ハイスピードサッカーが主流になっている。また、国によって伝統的に築いてきた、そのスタイルを崩さずに戦い抜くのもまた面白い。日本のサッカーも代表監督の手腕や各選手の海外経験も豊富になり、今や世界とも戦えるチームになってきているように思う。この自分の頃の中学年代のサッカーには、Jリーグすらなかった時代の中で、当たり前だがそう言った育成年代までビジョンが浸透するはずもなく、とにかく体力があり、スピードが速く、キック力が強い選手が多く集まっている選手が強い。そんなイメージだった。この時の試合も、明らかに今までに味わったことのないスピードと試合展開の速さに、これが県内の強豪選手が集まる試合か、と肌でひしひしと感じていたのを覚えている。
フレンドリーマッチが終わって夕方になり、宿舎に戻って風呂に入ったり、夕食を食べたり、各々リラックスしながら次の日の試合に備える。最初は何となく距離感のあった選手たちも今ではすっかり仲の良いチームメイトだ。中学生の距離の縮まり方は、牽制期間が長いものの、解けた瞬間に異常なほど速いスピードで一気に距離が近くなる。同じ中学校の友達以外とは出会う機会のない町の中で、今となればこの経験は自分にとってとても大きく大事な経験だったように思う。上手い下手、スタメン、補欠、身体の大きさも関係なく、輪を作ったりまとめたりする子はやはりいるし、あまり馴染まずに1人でいる子もいる。割と自分はいろんな人と話しながら気の合う友達を探すような感じで接していたように思う。その中で1人特に仲良くなった友達がいて、その大会中ずっといろんなことを話していたのを覚えている。サッカー以外の話や家族、学校生活など、ある意味同じ学校ではない良い距離感が心地良かったのだと思う。あの時の光景と、淡く残っている気持ちの破片みたいなものは、今でも思い出せるくらい新鮮で忘れられない経験だった。
そして、いよいよ順位決定戦が始まる。翌日の朝のミーティングの中で1試合目のスタメンが発表になった。なんとそこで自分が先発で出ることが告げられた。一気に緊張が込み上げてきたと同時に、眠っていた闘志のような蠢きを心の中に感じていた。いよいよ勝負の時が来たのだ。
〈つづく〉
THE BACK HORN
1998年結成。"KYO-MEI"をテーマに、聴く人の心を震わせる音楽を届けていくという意志を掲げる4人組ロック・バンド。2001年、メジャー1stシングル『サニー』を発表。以降、そのオリジナリティ溢れる楽曲の世界観からクリエイターとのコラボレーションも行う。2018年に結成20周年を迎え、海外公演や日本武道館公演を含むツアーを完遂。2023年6月にリアレンジ・アルバムをリリース。10月には結成25周年記念シングルをVICTOR ONLINE STORE限定で発売し、アニバーサリー・ツアーを開催。2024年3月にはパシフィコ横浜公演を行う。
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