COLUMN
THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第二十一回】
2021年10月号掲載
第二十一回「社会」
中学生は、子供から大人へと変わりゆく季節の扉を初めて開く時期だったんだと今になると思う。小学生の頃の無邪気さも薄れ、あどけない表情を残しながらも骨格や体つきはしっかりとしてくる。体も心も大きく変わり始めるその扉を開けるのはほんの些細なきっかけであるし、他からの影響が大きい。というかそれが全てであると思う。あまりにも情報を得る手段が少なすぎたあの時代では、他からの影響とは友達や先輩、それしかない。親や兄弟、家族という集合体の中で生きていた自分から、友達同士の繊細で微妙なさじ加減の社会を知り、先輩達から圧倒的な上下関係の序列を学び、なんとか自分自身を確立していこうとするそんな時期。温かく、恵まれすぎるほど贅沢な家族の愛情の中で育った自分は、その知り得る全ての情報や経験が、裏切り行為のようで毎度毎度心が苦しく、後ろめたくあった。とはいえ友達同士の社会は、その時に生きている自分の世界の全てであり、向きあわなくてはならない現実でしかない。初めは小さな嘘から、これくらい大丈夫かなという気持ちから、少しずつ慣れてしまい、罪悪感も薄れその好奇心や友達社会での立場を優位にしようとどんどんエスカレートしていく。自分自身の生きる場所が完全に家族の中から、友達の社会へと移行した。家族には分からない社会が存在する。それは確かにそうだった。部活にも参加するとなれば、365日の内、寝てる以外300日以上、その友達らと学校や校庭でずっと一緒にいる。しかもどこへも逃げる事のできない小さな町で。今振り返っても中学の三年間は本当に鮮明に思い出せる。それくらい、敏感で焼けつくような心と今よりも何十倍も速いスピードで一秒を一日を一年を感じていた時期だったように思う。
サッカー部はというと、三年生が引退をしてからというもの、部活では先輩のいない二年生がイキイキとしながら指揮を取り練習が行われる。上と下に挟まれた微妙な位置から解き放たれ、いわゆるシゴキにも似た無謀な練習メニューを押し付けてきたりもする。一年生の僕らは全力でそれを受け止めなくてはならず、三年生がいた時の球拾いしかできないけど楽な練習と、ちゃんとした練習はできるけどとにかくキツい練習、どっちがいいのかと何度も帰り道で友達と話していたのを思い出す。キーパーは最初のキツいウォームアップ的な練習が終わると、フィールドプレーヤーと別れての練習になる。基礎練というメニューを二年生のキーパーと一緒に行うのだけれど、それほど面識のなかった先輩と一対一で、パントキックとキャッチの練習をする。先輩にボールを投げてもらって自分がそのボールを蹴って相手の胸へと返す。それがとにかく緊張して、緊張すればするほど真っ直ぐに返せなくなり、ボールは違う方へ飛んでゆく。先輩は「何やってんだよー」と怒りながらボールを拾いにいく。毎練習、一、二回はその失敗を繰り返していた。そのうち、夢にまでそのパント練習が出てくるようになった。まっすぐ飛ぶように。先輩に怒られないように。思えば思うほど、ボールは違う方へ飛んでゆく。練習ができる喜びよりも、怖い先輩の怒号よりも何よりその練習の憂鬱さに一時期は支配されてしまっていた。時々、先輩達の裁量でウォームアップのあとからすぐにゲームの日があって、その時は本当に縛られた糸が解けるような安堵とともに、楽しんで練習ができた。そんな状況がしばらく一ヶ月くらい続いてから、急にパント練習が上手くやれるようになる瞬間が訪れた。それは、機嫌の良かった先輩がたまたま、話しながらやっていた練習の時だった。「松田の家はどの辺りなの?」とボールを投げながら聞いてきた。その瞬間に蹴り返したボールも、考えながら「〇〇商店の道を入った所です」と応えて蹴り返したボールも全て真っ直ぐに飛んでいった。その10分くらいの練習で一回もボールが逸れる事なく出来た。なるほど、話をしたり違う事を考えたりすれば、こんなに上手くやれるんだと気付いた時は本当に嬉しかった。次からの練習もなるべく自分から話しかけて、意識を違う方へ向けながらやるようにした。リラックスする大事さ、本当に些細なきっかけで変わるものがある。そして今のドラム演奏にも繋がるものがある。そんな大切な事に気付けた中学一年生の部活はそれだけで意味があったと今なら思える。
<つづく>
THE BACK HORN
1998年結成。"KYO-MEI"をテーマに、聴く人の心を震わせる音楽を届けていくという意志を掲げる4人組ロック・バンド。2001年、メジャー1stシングル『サニー』をリリース。以降、そのオリジナリティ溢れる楽曲の世界観からクリエイターとのコラボレーションも行う。2018年に結成20周年を迎え、海外公演や日本武道館公演を含むツアーを完遂。2021年5月には約4年ぶりの映像作品『KYO-MEI MOVIE TOUR SPECIAL 2020』を発売し、10月2日からは"マニアックヘブンツアー Vol.14"を開催中。
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