THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第三十四回】

2023年12月号掲載

THE BACK HORN

第三十四回「成長」

結局、我々のチームである県南選抜は、6チーム中5位という結果に終わった。県内にも沢山の強豪がいることを目の当たりにした大会だった。大会会場からバスに揺られて約二時間、家から一時間ほど離れた町でそれぞれ解散となる。バスの中では皆んな流石に疲れていたせいか、言葉を発しているものは誰もいない。流れゆく景色を見ながら、生まれて初めての経験をした三日間を振り返っていた。他のチームとの明らかな違いはやはり技術や走力、まあ全てと言っても過言ではない。思い返せば小学校時代、技術的な練習をしていた記憶はなかった。顧問の先生もサッカーに詳しかった訳ではないので、とにかく日が暮れるまでゲームをさせるというような練習方法だった。

そして中学に入ってもそれは同じで、先輩から脈々と受け継がれてきた練習をこなしていくだけで、それが本当の意味で練習になっているかどうか判断する監督もそこにはいなかった。きっと他の選抜チームの選手達は、小学年代から技術的なトレーニングを沢山積んできたに違いない。それぐらい基礎技術の違いは結果以上に僕らのチームと雲泥の差があった。今からどれだけの時間をサッカーに費やせば、彼らと同じ所に辿り着けるのだろうか。同じ中学生でありながらきっと縮まることのない果てしない差に、諦めに似た絶望のような感覚が渦巻いていた。

そんなことを考えながら、バスは解散の場所へと到着した。監督の先生が最後に皆んなに向けてこう話した。「結果は奮わなかったが良い経験になったと思う。また来年もあるから、少しでも成長してまた集まりましょう。お疲れ様でした。」そうか、この選抜大会は来年もあるのか。それまでに自分がどれだけ成長できるのだろうか。平等に流れる時間の中、一年という限られた時間の中で彼らに追い付く事はできるのだろうか。生まれた場所や環境は自分では選べない。そこに圧倒的なハンデがあったとしても、努力というもので超える事はできるのだろうか。まだこの三日間を整理できぬまま、解散場所で自宅からの迎えの車を待っていた。あの当時、携帯もスマホもない時代にどうやって連絡を取り合っていたのか思い出せないが、だいぶ待って父の車が到着した。「どうだった？」車に乗るよりも早く父が尋ねてきた。自分でも整理がついてない中で答えられる訳がない。「うーん、皆んな上手かった」とだけ答えた。

そして沈黙の車は一時間ほど走り自宅へと到着した。二泊家にいないのは、小学校のころのキャンプとかスキー合宿ぶりだっただろうか。毎度その時は家に帰ってくると、何故か家の中が違って見える感覚があった。そしてそれは今回もそうだった。今思えば、自分が味わった事のない経験をした時、今まで当たり前に見えていたものが、違って見えたりするのではないのだろうか。視野が広がるというか、一皮剥けるというか、大人になるという事はきっとそういう事なのかも知れない。この時、家族に自分の姿はどういう風に映っていただろうか。まだまだ幼い中学生のままだっただろうか。少しは逞しくなって帰って来れただろうか。その日の夜はなかなか寝付けないでいた。見たもの、感じたもの、失点シーン、経験したもの全てがぐるぐると何度も頭を駆け巡った。その中で、ぼんやりと残る感情はやはり悔しさだった。またこの選抜チームに選ばれるかどうかも分からないが、一年後、必ず彼らに追い付き必ず勝ちたい。無失点に抑えたい。その想いを強く抱きながら深い眠りへと落ちていった。
〈つづく〉

THE BACK HORN

1998年結成。"KYO-MEI"をテーマに、聴く人の心を震わせる音楽を届けていくという意志を掲げる4人組ロック・バンド。2001年、メジャー1stシングル『サニー』を発表。以降、そのオリジナリティ溢れる楽曲の世界観からクリエイターとのコラボレーションも行う。2018年に結成20周年を迎え、海外公演や日本武道館公演を含むツアーを完遂。2023年6月にリアレンジ・アルバム、10月4日に結成25周年記念シングルをVICTOR ONLINE STORE限定で発売した。2024年3月にはパシフィコ横浜公演を行う。現在、アニバーサリー・ツアーを開催中。

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