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THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第十五回】

2020年10月号掲載

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第十五回】

第十五回「鼓動」

弁当を楽しんでいる時間が終わり、食べ終わった人からボールを蹴ったり、走り回ったりしている。みんなまだまだ体力はありそうだ。前半後半15分ずつ。合わせて30分を3試合。このリーグ戦で2位までに入れば、次の県南大会に進む事になる。後々聞いて分かった話だが、このリーグ戦は全国少年サッカー大会の地区予選も兼ねていて、ここで上位になると、県南大会、県大会、全国大会と小学生最後の全国に繋がる大会のようだった。
いわゆる小学生年代の集大成の大会となる。

しかし、放課後の遊び感覚で集まっていた僕らのサッカーチームでは、この大会がどういう意味を持つのか、この先がどうなっているとか自分も含め理解しているメンバーは1人もいなく、親や周りの人達からも聞いた事はなかった。もしくは、この試合の意味を理解していた監督や親達も、子供達にはあまり考えずに目の前の試合だけを楽しんで欲しいと、あえて伝えない優しさだったのかもしれない。次の対戦相手は、何度か郡の連合運動会や陸上大会で記録を出している、運動神経が良い子達が集まっているチームで身体も大きく、1試合目のチームよりも明らかに手強いイメージを持っていた。そして、監督も次の相手は強いと選手達に伝えていた。

今、大人になってからたまにYouTubeやテレビ番組で、飛び抜けてテクニックのあるサッカーが上手な小学生の映像を観たりすると、これを時代の違いというのか地域の違いというのか、到底自分達の小学生の頃とは比べものにならないくらい、小さな頃から専門的なサッカーとの向き合い方をしている。サッカーに限らずスポーツ全般においてもそうかもしれない。何か情報を仕入れたり、技術を磨くにもインターネットやスクールなどがあり、好きな物をとことん突き詰めてやれる環境が備わっている。図書室の古びた少年サッカー図鑑や、本屋に1冊だけ売ってたゴールキーパーのキャッチの仕方を読んでいた自分からすると、もうすぐそこに分からない答えをくれる場所があるし、そういう仲間とも共有し繋がる事もできて羨ましく思う。自分が憧れたり、刺激を受けたり、真似したくなるようなプレイは画面の中ですぐに出会う事ができる。あの時にそんな物があれば毎日かぶり付くように見ていただろう。そして、今はそれが当たり前で普通なんだと思う。よく、上手い選手の真似をするのが一番の練習だと聞く。できない悔しさや、できた時の達成感、真似した選手に少しでも近づけた喜び。そんな中でもっと上手くなりたいという気持ちも湧いてくるし、楽しみながら技術を学べる。しかし、限られた情報でとにかく手探りでこんな感じかな?これで合ってるかな?と想像したり考えながら練習する事で、間違えていても自分なりの形や技術が身に着いて、それがその選手の魅力や個性を形作る原型にもなったりするのではないかとも思う。上手さやプレイのセンスには正解がないのもスポーツの面白い所で、ディフェンスが好きな子、走るのが好きな子、とにかく蹴るのが好きな子、様々な好きが特徴となり強みとなり成長していくのかもしれない。そういった環境的にも情報的にも貧しかった僕らは、ほぼ身体能力的なもので個人の上手さは決まり、テクニックで人一倍凄い選手が集まっているとかではなく、キック力のある体がでかい子か、スピードのある小柄な子の混ざり具合で、チームの総合力が決まっているようだった。次の対戦相手にも、足も速く身体が大きくてキック力のある子が1人いる。この選手を止めなければ勝てないのは明らかで、僕のチームのディフェンス陣も「あいつヤバイな」とか「ロングシュート気をつけよう」と話している。

さあ、いよいよ2試合目が始まる。監督の具体的な指示もあまり無く、とにかく思いっきりやってこいとだけ伝えられた。整列するとその大きい子がキャプテンだった。声も大きく明らかにチームを束ねている。「お願いします!」礼をしてグラウンドのそれぞれのポジションに散り散りになる。前のチームと相手の気迫が違うのが分かる。サッカーの試合を何度も経験してきたチームだ。キックオフから走り回る準備ができている。自陣のゴール前まで、試合に勝ちたい気迫が伝わってくる。キーパーグローブの中にじんわり汗が滲んでいる。ひとつ大きく深呼吸をした。ホイッスルが鳴る。相手ボールで試合は始まった、瞬間、センターサークルでちょこっと触ったボールをそのキャプテンが思いっきりロングシュートを蹴り込んできた。ヤバイ。キックオフで前めにとっていたポジションの隙をつかれた。慌てて後ろに下がる。ダメだ。間に合わない。思いっきり斜め後ろにジャンプして、ボールを見上げながら手を伸ばす。届かない。あー、入ってしまう。頼む、触ってくれ。更に手を伸ばした瞬間、カツンと音が聞こえた。倒れながら見送ると、ボールはバーをかすめてゴールマウスの外に出た。危なかった。まさに間一髪だった。起き上がりながら、落ち着けと言い聞かせる。心臓がバクバクしている。高鳴る鼓動を抑えながら、想像していなかったキックオフと共に2試合目は幕を開けた。

<つづく>

THE BACK HORN

1998年結成。"KYO-MEI"をテーマに、聴く人の心を震わせる音楽を届けていくという意志を掲げる4人組ロック・バンド。2001年、メジャー1stシングル『サニー』をリリース。以降、そのオリジナリティ溢れる楽曲の世界観からクリエイターとのコラボレーションも行う。2018年に結成20周年を迎え、海外公演や日本武道館公演を含むアニバーサリー・ツアーを完遂。2019年には12枚目となるオリジナル・アルバム『カルペ・ディエム』を発表。2020年6月、配信シングル「瑠璃色のキャンバス」をリリース。10月19日には住野よるとの"小説×音楽"の新感覚コラボ作品となるEP『この気持ちもいつか忘れる』を配信予定。

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