THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第十九回】
2021年06月号掲載
第十九回「中学」
中学生になると言っても、この町から出る訳でも電車で遠い場所に行く訳でも無い。今までより通う距離が少し遠くになるだけで、小学校で六年間過ごした同じ顔ぶれが、そのまま中学校でも続く。そこへ別のいくつかの小学校からも生徒が集まってきて、学年のクラスも小学校の倍くらいの人数で、少しだけ賑やかな学校生活が新しく始まる。小学校の卒業式は取り分け特別な気持ちもないまま終わった。この感じのまま、中学校も三年間続くんだろうなと思うと、寂しさも切なさもなかった。変化のない生活を想像しても、ワクワクもドキドキも生まれなかった。少し違うのは、制服を着る事。靴は白しか履けない。坊主頭。共通のカバンを背負っていく。堅苦しいいくつかの決まり事が増えただけだ。
しかし、実際に入学してみると思ってた以上に違う生活が待っていた。過酷、そんな言葉以上に緊張感のある生活だ。まずは上下関係の厳しさ。いつどこでも先輩がいれば挨拶をしなくてはならない。時代も時代だったので、その先輩の怖さたるやは半端ない。とりわけ三年生は体も大きく、最上級先輩なので校舎ですれ違うもんなら、廊下の端に避けて頭を下げなくてはならない。どこかで聞いた事のある、劇団の専門学校の厳しさみたいだ。その指導は二年生が行う。入ったばかりで何も分からない一年生は、入学もそこそこに徹底的に叩きこまれる。小学生までは近所の優しい兄ちゃんだったのに、みんな恐ろしい先輩に変わっていた。そして、それはサッカー部においてもそうだった。一年生は球拾いから始まり、ジュースなどを買に行く使いパシリや、片付けや準備をするだけの雑用要因に過ぎず、まともな練習なんて出来なかった。もちろん部室も使えない。ただ周りに立っているだけで、三年生が帰るのを見送り、二年生が帰り、最後に一年生は帰宅する。帰る時間も夜8時くらいになる日が続いた。三年生は直接一年生に何かをする事はないが、何か気に入らない事があると、二年生が呼び出されしごかれる。それが二年生から一年生に降りてきて、ほぼイジメや体罰に近い仕打ちを受ける。今考えると、よく不登校や病院に行く生徒がいなかったなと思うくらい凄まじい環境だった。ただ、僕らもそれが普通なのかなと、中学校ってそういう所なのかとそれなりに受け入れていた。時々仲間と愚痴りながら、なんとなくやり過ごしていた。勉強やサッカーどころではない毎日。休みの日でさえも、土日の部活が朝から昼前に終了すると、午後からは三年生の家に弁当を届けたり、ホームセンターで頼まれたものを買っていったりと、学校外でもその上下関係は続く。友達何人かと、先輩が溜まっている家へ弁当を5、6個買って届ける。10km以上ある坂道の多い距離を自転車で運ぶ。サッカーに置き換えればいいトレーニングだが、なかなかキツイものがあった。三年生の先輩は意外に優しくて、弁当を届けると部屋に上がっていけと言ってくれ、一緒にゲームをやらせてくれたりジュースをくれたりして可愛がってくれた。
ところが、その情報が二年生の耳に入ると、今度は先輩に可愛がられていい気になっているといびられる。何をしても地獄だった。中学や高校の一、二、三年生の関係は兄弟にも似ている。長男と三男は歳も離れていて可愛がり、可愛がられるが、真ん中は上と下に挟まれてどちらともギスギスする。まさに、まだ一年の頃は良かったと二年になると思うのだが、それはもう少し後の話として、とにかく平凡な三年間が続くと想像していた世界はそこにはなかった。そして、それは同級生の仲間同士にも変化が起きた。小学校六年間ずっとリーダーだった子が中学に入ってしばらく経ち、それまでの仲間達から省かれるようになった。今まで散々振り回されてきた腹いせだったんだと思う。その子とは幼稚園からの幼なじみで、何をするにも一緒に遊んでいたが、大きくなるにつれ、その関係も少しずつ変わってしまっていたが、心の中では昔から変わらない幼なじみだったので、その振り回しやリーダー的な立ち振る舞いも別に嫌いではなかった。
しかし、他の子達からすると気に入らなかった所もあったようで、他の小学校の子達が交ざるタイミングを見計らって、いわゆるクーデターを起こしたようだった。そして自分もその省く側の方へ交ざってしまっていた。なんとも言えない気持ちのまま、リーダーが居なくなった清々しさで、仲間達ははしゃぐ毎日が続いた。そこからまた三年間かけて、壮絶な出来事の数々が待ち受けているが、まだ桜が散ったばかりの中学校で僕らはその気配には気づけないでいた。
<つづく>
THE BACK HORN
1998年結成。"KYO-MEI"をテーマに、聴く人の心を震わせる音楽を届けていくという意志を掲げる4人組ロック・バンド。2001年、メジャー1stシングル『サニー』をリリース。以降、そのオリジナリティ溢れる楽曲の世界観からクリエイターとのコラボレーションも行う。2018年に結成20周年を迎え、海外公演や日本武道館公演を含むツアーを完遂。2021年5月には約4年ぶりの映像作品『KYO-MEI MOVIE TOUR SPECIAL 2020』を発売し、現在9thアルバム『リヴスコール』を中心に構成するツアーを開催中。
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