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THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第九回】

2019年10月号掲載

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第九回】

第九回「距離」

2学期が始まると、クラスはいつもの雰囲気とは違いどこかよそよそしさが漂っているようだった。いやひょっとしたら、みんなは何も変わらなくて自分だけが感じていた距離感なのかもしれない。仲が良かった友達とも水泳練習のおかげで1ヶ月も会わなかったのだから、流石に久しぶり感がある。そして、自分から積極的にその距離を埋めようとするも、怖さの方が勝ってしまっていて縮められずにいる。きっと友達たちは、自分がその水泳に参加してなかった事や会っていなかった事なんて何とも気にしていないと思う。久しぶりだな。とか、夏休み何やってた?とか、向こうからもそんな会話もなく無理矢理通常運転に戻っていくような空気に、自分がみんなの中にどれだけの存在として残っているのか、察するには十分な2学期の始まりの日だった。でも仕方がない。これで自分から強引に入っていって、あれ?泳げないんだっけ?とか、可哀想だなーとか言われて余計に傷付くのであれば、時間と共に何となくその距離がなだらかになるのを待つしかないのだ。

そして、通常の学校生活が始まっていくと同時に、サッカーの部活動も始まる事になる。ゆるいチームの流れもあり、今日練習があるとか無いとかはサッカー部の先生が決めるのではなく、リーダーっぽい友達とその仲間の独断で決められる事が多かった。7人ほどの仲間達がどこかの山に探検に行く日は休みになり、誰かの家でファミコン大会がある日も休みになった。というよりも、その7人ほどのメンバーだけが練習に来ないという事なので、11人丁度くらいの人数しかいないサッカー部員で、残された4人では練習にもならず、しかもやるかやらないかは直接そのリーダー的な彼に聞く以外にないので、グラウンドに出てその子達が来るか来ないかを待って判断するしかなかった。来なければ1時間とか適当にボールを蹴ってそのまま帰る。来れば、その子らが飽きるまで試合を繰り返し付き合わせられる。そのやるかやらないかを彼らの気ままな判断に左右されたり、今日はどっちだろうと心配するのがもの凄く苦痛で、毎日練習はやりたいし上手くはなりたかったけれど、それ以上に気を遣わなければいけないのがとにかく辛かった。かと言って自分からは聞けない。そんな自分もいい加減変えたかったけれど、なんだかその勇気はいつまでも持てないでいた。朝から雨が降っていると良かった。校庭を見ながら、これならグラウンドがぬかるんで使えないから無条件に練習は休みになるので、彼らの様子を伺う事無く家に帰れる。予防接種や、親子面談などで校庭が駐車場になる時もそれにあたるので、気を揉む事がなかった。つまり、彼らがボールを蹴りたい時にはちゃんとした練習になり、それ以外は自主練。みんながいる時には先生もグラウンドに出て混ざりながら練習っぽい事をやったりする。今考えればサッカーのチームとは程遠い曖昧な集団だった。そんな2学期がしばらく経ちある変化が訪れた。サッカー部員全員が先生に集められ、毎年12月に、郡の小学生のサッカー大会があり、郡内の4、5チーム集まってやる大会がある。そしてそれが事実上の小学生最後の大会となる。勝てれば県南大会に進めるのだけれど、負ければそのまま納会的な感じになる事が先生から部員に告げられた。

そしてその次の日から、その試合に向けて公式な練習が行われるようになった。今までのような気ままな判断は許されなくなり、一応毎日しっかり練習をやるという流れになったのだ。とは言え先生もサッカーは素人で、いわゆる基礎練とゲームの繰り返しでしかないのだけれど、みんなにもやる気が宿っているようだった。そして、何にせよあの地獄のような気を揉む必要がなくなった。みんな正式に練習をやるような流れになったのだから。大好きだった雨も試合が近づくにつれ、早く止むようにと願うようになった。ようやくしっかり練習を続けられる。今まで堪えてたサッカーを全開でやりたい気持ちと、試合に勝ちたい欲求がふつふつと湧いてくるのが分かった。小学校最後の試合までにどれほどチームとして強くなれるのか。試合まではあと2ヶ月を切っていた。
<つづく>

THE BACK HORN

1998年結成。"KYO-MEI"をテーマに、聴く人の心をふるわせる音楽を届けていくという意志を掲げる4人組ロック・バンド。2001年、メジャー1stシングル『サニー』をリリース。以降、そのオリジナリティ溢れる楽曲の世界観からクリエイターとのコラボレーションも行う。2018年に結成20周年を迎え、3月にミニ・アルバム『情景泥棒』を、10月にはインディーズ作品の再録アルバム『ALL INDIES THE BACK HORN』を発表。2019年10月23日に12枚目となるオリジナル・アルバム『カルペ・ディエム』をリリースする。11月からは全国22ヶ所を回るツアーを開催予定。

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