THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第三十九回】
2024年10月号掲載
第三十九回「個性」
中学生の部活動は、早ければ三年生の夏休み明けには引退となり、そのあとは高校受験に向けて勉強へとシフトしていくこととなる。一回戦で敗退したサッカー部も三年生は引退し、一、二年生が主体となり新たなチームでの活動へと移っていった。結果的に三年生のポジションを奪い、試合にも負けてしまった悔しさと申し訳なさが消えないまま数日間を過ごしていたが、ふと学校内で見かけた先輩キーパーが「おう!」といつも通りに声をかけて来てくれて、一人だけ抱え込んでいつまでも気にしている自分に益々腹が立ったりもした。でも、時間はそんな気持ちもなだらかに忘れさせ、自分が最後の試合に出る時には先輩の分まで悔いのないプレイをしたいと、少しずつ前向きな気持ちに変えさせてくれた。思えば、臆病で気にしすぎる性格はこの頃から健在だった。
先輩キーパーとは別に仲良くしてくれていたサッカー部の先輩がいた。その先輩はファッションにもこだわっていて、他の人とは違う雰囲気を常に醸し出していた。と言っても校則は厳しく、冬場のジャージの上に着る上着をどう着こなすかだけが唯一の個性を出す術で、一、二年生は学校指定な訳でもないのにこぞって黒のMA-1を着るのが暗黙の決まりになっていた。そんな中、その先輩はグレーのSchottのMA-1を纏い、ドクターマーチンのブーツを履いて一際目立っていた。数少ない町内の洋服屋にも、冬になると大量の黒の安いMA-1が入荷されていて、どんな奴も黒いMA-1を着させられた。今思うとどこまでも自由とは程遠い中学校生活だったと思う。そして坊主頭。個性や主体性は完全に封印されていた。ファッションに詳しい友達が、俺も三年になったらSchottのMA-1を着るんだ、といつも意気込んでいた。
ある日の放課後、その先輩に呼び出され部室へ向かった。「いらないCDあるんだけど安く買わない?」と5枚ほどのアルバムCDを差し出された。そこには見たことないバンド名が書かれていた。兄の影響で小学生から音楽は好きで聴いていたが、テレビから流れてくるいわゆるJ-POPしか知らなかった自分にとって、憧れの先輩が聴いている音楽にとても興味があった。「買います」と即答し、そのCDを受け取り帰って部屋のステレオで再生した。今でも忘れはしない、それはブルーハーツ(THE BLUE HEARTS)のアルバム「TRAIN-TRAIN」だった。歌詞とメロディーがすんなり入ってきて、心が踊るような、視界がはれるような、そんな衝撃を受けた。その日から繰り返し繰り返しTRAIN-TRAINを聴いた。定期的にその先輩からCDを譲り受け、少しずつ聴く音楽の種類も増えていった。町内にはCDショップはなく、唯一電気屋の隅に演歌やJ-POPのコーナーがあるくらいだったので、きっとその先輩は1時間半ほど離れた街まで出かけて、苦労して好きなCDを手に入れていたんだと思う。退屈な学校生活が終わっても帰ったら好きな音楽を聴けると思うと、暗い日々に少しだけ光が灯るようなそんな感覚だった。
そして、サッカーへの情熱と音楽への興味が拮抗しながらの残りの中学生活が始まる。部活では今度は後輩のゴールキーパーと一緒に練習をする。あの先輩キーパーがしてくれたように、自分もできるだけ緊張させないように優しく振舞った。とはいえ、一つのポジションを争うライバルにもなり得る。三年の最後の試合には自分が出場し、悔いのないプレイをするにはもっとプレイを高めなければ......。と思いながらも、練習中はずっと頭の中でTRAIN-TRAINがリフレインしていた。
<つづく>
THE BACK HORN
1998年結成。"KYO-MEI"をテーマに、聴く人の心を震わせる音楽を届けていくという意志を掲げる4人組ロック・バンド。2001年、メジャー1stシングル『サニー』を発表。以降、そのオリジナリティ溢れる楽曲の世界観からクリエイターとのコラボレーションも行う。2024年3月にはライヴ・セレクション・アルバムの"Package Edition"をVICTOR ONLINE STORE限定で発売し、パシフィコ横浜公演を開催。現在"光と影"をテーマに掲げたコンセプト・シリーズを配信中。2025年1月には自主企画"マニアックヘブンVol.16"を開催する。
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