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THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第十回】

2019年12月号掲載

THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第十回】

第十回「暗影」

福島の冬は寒いというより痛い。そんな記憶が甦る。肌を突き刺すような風が吹き抜け、日差しでは追い付かないくらいの冷たく凍えた空気が支配する季節。なぜか思い出すのは曇り空。樹々も枯れ果て、夏の山々の深々とした緑色や、絵具のような空の青と白の鮮やかさから一変、街はとても寂しく錆び付いた景色に染まっている。そんな冬の始まり。

放課後、毎日のように小学生最後の試合、東白リーグに向けた練習は行われていた。サッカーの専門的なコーチがいる訳でもないので、先輩から代々引き継いだ練習メニューをこなすだけではあるが、顧問の先生も交ざりながらそれなりに練習の形にはなっていた。きっとみんなサッカーは元々好きだったんだろうな。活発な子も多く、走るのが好きな子も多くて、練習方法だってどうやってやったら良いか分からなかったり、真面目にやるのがかっこ悪いと思ってたりただそれだけだったんだろう。みんな生き生きとボールを蹴っているようだった。それまで振り回されていた仲間達が少しずつ頼もしく思えてきていた。当たり前だけどサッカーは一人では出来ない。自分から仲間を信頼出来なければ誰からも信頼されない。みんなから必要とされるゴールキーパーになりたい。そんな気持ちも覗かせながら自分も練習に励んでいた。ゴールキーパーの練習メニューはみんなとは別で、下級生の同じゴールキーパーと一緒にキャッチングやキックの練習をする。そして、シュート練習になるとゴールマウスに入り、みんなのシュートを受ける。やっと好きなサッカーを真剣にみんなとやれている。どんなに擦りむいてもシュートで手が痛くても、なんとも言えない充実感がそれらを跳ね除けた。一試合でも多く勝ちたい。自分の力を全力で出せる場所がある。それだけで毎日が鮮やかだった。それが田舎だったからか、小さい頃からずっと一緒の友達だったからか分からない。ただ、誰かより目立っても、誰かと違った事をしても認められない関係性が確かにあった。その小さな社会の違和感はずっと自分の中に残っていた。今思えば、逆も同じなのかも知れない。自分がみんなに真剣にやって欲しい、同じ気持ちでサッカーに向かって欲しい。そう思う気持ちも、他の友達からすれば自分が感じる気持ちと同じだったと思うと、求める事と求め合う事は人間として必ず一緒ではないと今になって分かる。同じ気持ちでいて欲しいと知らず知らずに強要してしまう事は相手にとってどんなに苦しく辛い事か、自分が良く知っている。小学生でそれに気付くほど、自分も含めまだ世界はそんなに広がってはいなかった。寂しかっただけなんだ。この思いを誰かと共有したかっただけなんだ。自分も。みんなも。

その充実感は時として自分でも想像できないくらい凶暴でがむしゃらなプレイに繋がった。いつものシュート練習でボールに飛び込んだ時に、左脚の付け根の外側を強打してしまった。今までの横っ飛び練習で、痛みが溜まっていた所にさらに追い討ちをかける痛みに耐えきれずうずくまった。一瞬にして頭を駆け巡ったのは「試合に出れなくなるかもしれない」。足の痛みと共にこれまでの全てが崩れ落ちる恐怖が込み上げ、痛みを抑えながら立ち上がった。遠くから「晋二ー大丈夫かー?」という顧問の先生の声が聞こえてきた。「大丈夫でーす」とすぐさま返した。ここで大事になってしまってはメンバーからも外されてしまうかもしれない。徐々に痛みは減ってはいったが、ちょうど股関節の隣くらいにある骨が出っぱっている所を打ち付けてしまったので、少しでも衝撃を与えるとまた痛みが走る。その後のシュート練習は休んで、毎回最後に行われるゲームもなるべく横っ飛びは避け、無理のない動きを心がけた。すっかり暗くなった帰り道、左足の痛みと共に一ヶ月後に迫った試合へ向けてのただならぬ不安が、心の奥でぞわぞわと騒いでいるのが分かった。
<つづく>

THE BACK HORN

1998年結成。"KYO-MEI"をテーマに、聴く人の心をふるわせる音楽を届けていくという意志を掲げる4人組ロック・バンド。2001年、メジャー1stシングル『サニー』をリリース。以降、そのオリジナリティ溢れる楽曲の世界観からクリエイターとのコラボレーションも行う。2018年に結成20周年を迎え、3月にミニ・アルバム『情景泥棒』を、10月にはインディーズ作品の再録アルバム『ALL INDIES THE BACK HORN』を発表。2019年10月23日に12枚目となるオリジナル・アルバム『カルペ・ディエム』をリリースし、現在全国22ヶ所を回るツアーを開催中。

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