THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第三十五回】
2024年02月号掲載
第三十五回「自由」
現実は現実。どうあがいても時間は遡れない。あの特別だった時間には戻れない。だけど、夢のように過ごしたあの時間も現実。それもまた同一線上にある広い世界の一部。自分が知らなかった世界の一部。この小さな日常の他に沢山の誰かの日常が同時に時間という歯車に乗って世界は動いている。経験という何事にも代えられない刺激を味わい、世界の広さを感じたことが、自分の今の立ち位置とそこから抜け出せないもどかしさをより複雑にさせる。夜が明けて朝が来て、また普通の日常が訪れる。あの三日間の仲間と過ごした特別な時間を、決して忘れまいと心に留めようとしても、日を重ねる毎に少しずつこの小さな日常に解け込んでしまう。うんざりするような毎日に塗り替えられていってしまう。あの経験を得てから少しずつ、学校生活の現実がどうでもいいように思えた。周りの皆んなにバレないように、今しかない、この場所だけが全てのように見せかけて生きなければ。目の前の現実に囚われているようなフリして、どこかぼんやりとした別の世界を生きているような感覚。大人ぶっていた訳でもない、一人だけ特別だと思っていた訳でもない、ただ、淡々としめやかに過ごす日々。そんな感覚で周りを見ると、誰もがその現状が最悪と感じていても言い出せず抜け出せず、諦めに似た形でその環境を楽しんでいるように映る。いつかは抜け出せる。あと2年この状況をやり過ごし、卒業して違う環境にいけば、その先にまた違った世界が広がっている気がして、むしろどんなことも我慢できるような希望に似た光を感じていた。現にあの三日間はそれほど輝いた眩しい世界だったのだから。
きっと根は目立ちたがり屋で、誰からも必要とされたいと思うような性格で、だけど好き嫌いが激しかったり、それが自分本位に見えて鼻に付く、周りからはそう思われていたように思う。だから、とにかく自分を押し殺してちょうどいい自分で存在しなければならなかった。
強制的に閉じ込められて生活していく学校という場所で、性格や相性や顔立ちや背丈など様々な要素が絡み合ってその集団の関係は作られる。そこに法則の正解はない。そして3年間という時間の中の大半をそこで過ごさなければならない。勉強ができても、運動が得意でも、何かがうまく噛み合わなければ、集団の中で居心地良く生きていくことはできない。多様性とは無縁の檻の中。それよりもはっきりとしたもので勝負できる、立ち位置を掴めるスポーツの世界が分かりやすく、自分を全力で表現できる場所に惹かれていたのだと思う。上手い者が勝つ。強い者が勝つ。そのシンプルな構図の世界と、もっともっと自分に刺激を与えてくれるような場所に早く行きたかった。飢えていた。全てが退屈だった。周りのヤツらも同じように、退屈で、何かに飢えていて、その持て余す何かを学校生活の中にぶつけていたのかも知れない。きっと皆んな精一杯だった。自分の居場所を見つける為に。自分もまた自分のことしか考えられていなかった意味では大きな目でみて、その渦の中の一部だったのだろう。ただ、違う世界を知ってしまった自分は、そんな世界があるのなら、例え今がどんな最悪な状況で苦しみしかない現実でも、ちっぽけなものにすぎないと受け止められるような、そんな勇気を得ることができた。何も考えずに生きる方が難しい。それは今も一緒だ。何かに諦めて、何かに縋って、でも譲れない何かを抱えて生きている。縛られた中での自由を探し、何にも縛られない自由に迷い、結局の所は、生きる場所が変わっても、環境が変わっても、自分がどう受け止めるか、どう生きたいか、それが全てなのかもしれない。
THE BACK HORN
1998年結成。"KYO-MEI"をテーマに、聴く人の心を震わせる音楽を届けていくという意志を掲げる4人組ロック・バンド。2001年、メジャー1stシングル『サニー』を発表。以降、そのオリジナリティ溢れる楽曲の世界観からクリエイターとのコラボレーションも行う。2018年に結成20周年を迎え、海外公演や日本武道館公演を含むツアーを完遂。2023年6月にリアレンジ・アルバム、10月に結成25周年記念シングル、12月にライヴ・セレクション・アルバムの"Digital Edition"を配信。2024年3月には同作の"Package Edition"をVICTOR ONLINE STORE限定で発売し、パシフィコ横浜公演を開催する。
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