COLUMN
THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第二十回】
2021年08月号掲載
第二十回「先輩」
そして、サッカー部はというと、最上級生の三年生の最後の試合、中体連大会が夏前に行われる事になる。もしそこで負けてしまうと、部活は引退となり、あとは受験勉強へと向かう。その試合へ向かう三年生の気合いは半端ない。その時ばかりは学校生活における先輩とはまた別の姿を見せる。ジャージや制服はヤンキー風に改造できても、ユニフォームという魔法は、全て一つの中学三年生という種類にまとめ上げ、誰ひとり特別さを演出させない。ただ違和感があるとするならば、眉毛の細さや、額の剃り込みと言ったところだろうか。カッコつけようにも、いくら威張り倒そうにも、フィールドの中では無力化され、ルールが存在するその中での勝負でしか通用しない。初めて見たその三年生の試合での違和感に面食らったのを覚えている。あんなに強そうだった先輩が、ひゅるひゅると抜かれてる。あんなに怖かった先輩が、競り合いで負けて転んでいる。どんなに怖さを醸し出してもこのフィールドでは、サッカーが上手い選手が1番強く脅威であり、そしてカッコいい。そんなギャップに戸惑っているうちに、その中でも1人、相手と互角に渡り合う先輩がいる。普段でも怖い先輩たちのグループにはいたが、めちゃくちゃ目立っていた訳ではない。ただ、クールで他のその類の人達よりは少し違う雰囲気を纏っていた。試合中も、流れを読んでボールを散らしたり、声をかけて仲間を鼓舞したりしている。良く見ると右腕にキャプテンマークを付けている。そうかキャプテンだったのか。それは何か違う訳だ。その先輩だけ本気度が違う。他の選手は、「コラ!」とかヤジを飛ばしたり、スポーツを真面目にする恥ずかしさを誤魔化そうとしたり、全力で向かい切れない照れ臭さのようなものを感じる。
そういえば、ひとつ思い出した事がある。自分がまだ小学校四年生の頃、今のこの中学三年生が六年生の最後の大会の時に、このキャプテンが試合が負けて終わったあと「お前ら、負けて悔しくねぇのかよ!」と顔を真っ赤にして叫んでいたのを思い出した。あの熱い先輩だったのか。足が速く、運動神経も抜群で負けん気が強かった印象があった。今、中学生三年生の試合を観ながらそんな事を思い出している。その先輩の気持ちはよく分かる。きっとその先輩は大好きなサッカーで勝負に勝ちたかっただけだ。そして、そんな気持ちで一人で頑張った所で勝てる訳がない。チームスポーツとはそういったものだと知りながら、でもどこにぶつけて良いか分からない気持ちが、あのセリフになったのだと思う。そして、そうなると余計に周りとの溝も広がってしまう。「なんかアイツ熱すぎねー」「かっこつけだよな」集まった仲間達の気持ちや、やる気が揃わない中での自分の居場所や、気持ちの置き場は自分自身もそれなりに分かってきたはずだと思っていた。だからこそ、この中学三年生の最後の大会が終わったあとに、あの先輩がどんな感じになるのかをこの目で見たくなっていた。つまり、試合は負けて欲しいと思っていたのだ。そうすれば、あの熱く全力で取り組んでいた先輩のサッカー熱が、他のヤンキーのちゃらついた感じや、少し大人びてきた恥ずかしさに負けてしまったかどうかを確かめる事ができる。一年生はラインから出たボールを拾いにいく為、ライン側に間隔をあけて並んでいる。運が良ければ、その先輩にスローインのボールを渡せて表情を覗けるかもしれないと、横のラインのスローインできる場所の仲間と場所を変わってもらったりしていた。
そしてそれから数分するとホイッスルが鳴り、試合が終わった。相手チームが喜んでいる所をみると先輩のチームは負けたのだろう。キャプテンの先輩を探してみる。全然悔しそうではない。僕にはそう見える。自分たちの中学校での試合だった為、そのまま部室に引き上げる。仲間たちと談笑しながら戻ってきている。変わったのだ。あの熱かった先輩も中学に入り変わったのだ。がっかりしたような、でもそうだよな、と納得したような、そんな気持ちを抱えながら、先輩たちが着替えをして帰っていくのを、僕ら後輩は待っている。続々と他の先輩たちが涼しげな表情で帰っていく中、キャプテンの先輩だけ出て来ない。少し経つと、部室からダーン!!と大きな音がした。外まで聞こえる大きな音だ。キャプテン一人しか居ないはずなのに。そのあと、部室から項垂れたキャプテンが出てきた。一年、二年がそれぞれに先輩へ「さようなら」と挨拶をする。通常、先輩は誰一人挨拶を返さないけれど、この時のキャプテンは、「お前ら来年は頑張れよ。」と聞こえる声で呟いた。そしてその目はうっすら赤みがかっているように見える。あー悔しかったんだ。ずっと堪えていた悔しさを誰もいない部室で吐き出していたんだ。先輩は何一つ変わっていなかった。先輩の姿を見送りながら思った。この中のどれだけの後輩が、キャプテンの言葉を強く胸に響かせていただろうか。
<つづく>
THE BACK HORN
1998年結成。"KYO-MEI"をテーマに、聴く人の心を震わせる音楽を届けていくという意志を掲げる4人組ロック・バンド。2001年、メジャー1stシングル『サニー』をリリース。以降、そのオリジナリティ溢れる楽曲の世界観からクリエイターとのコラボレーションも行う。2018年に結成20周年を迎え、海外公演や日本武道館公演を含むツアーを完遂。2021年5月には約4年ぶりの映像作品『KYO-MEI MOVIE TOUR SPECIAL 2020』を発売し、10月からは"マニアックヘブンツアー Vol.14"の開催を控えている。
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