THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第十二回】
2020年04月号掲載
第十二回「運命」
小学生最後の大会当日、そわそわした気持ちと同時にぴんと張り詰めた緊張に包まれながら家を出た。冬の寒さが余計に緊張感を煽る。校庭までの道のりがいつもと違って見えた。何度も渡った橋も、国道を渡る歩道橋も地に足がついてないような感覚で歩いている。会場に着くとまばらにメンバーが集まってきた。何を話す訳でもなく、いつもの荷物置き場でそれぞれ準備をしているけど、皆んなどことなく違う表情をしている。きっと周りから見たら自分もそんな表情だったと思う。監督がやってきて、ラインを引いたり、みんなでコートを作り試合の準備をする対戦相手も集まってきた。今の自分の不安と他のメンバーの不安を比べたら誰が一番大きいだろう。こんな時にいつもと変わりなく平常心でいれるのはよほど自信があるか、あまり気にしていないか、楽しむ気持ちが勝っているかのどれかだと思う。負けても死ぬ訳じゃない。負けても何かが変わるわけではない。ましてや、3年間試合に勝つ為に練習をしてやってきたチームではない。ただサッカーが好きで友達の延長線上で集まってボールを追いかけていただけだ。ただ、自分の中では最初で最後の真剣な試合という感じがしてどうしても負けたくはなかった。勝ちたかった。とはいえ、ケガの不安や、心配性、神経質な性格も相まって試合前からいつも以上のプレイを発揮できる気持ちではないのは明らかだった。
監督がみんなを集めて何となくのポジションを発表する。何となくというのは、それぞれがそのポジションに特化している訳ではなく、例えば足が速い子が攻撃、体が大きい子がディフェンス、気の強い子が真ん中といったサッカーの適正よりもフィジカルや性格でポジションを選んでいる感じであった。それくらい各々あまり差がないチームだった。監督に名指しで決められたゴールキーパー以外は。ディフェンスの子にボールを蹴ってもらいキャッチをしながらアップを始める。ロングキックをしたり、ロングスローのアップをしてると、次はキーパーがゴールマウスに入るシュート練習が始まった。次々と打ってくるシュートにも、痛めた方の左足側にはなかなか勇気を持って倒れ込む事ができない。大丈夫。試合になればできる。ここで痛みを増す訳にはいかない。そう言い聞かせながらアップで体をほぐしていく。朝からの緊張もだいぶ和らいできて試合に臨む気持ちが高まってきている。
そして整列をしていよいよ試合が始まる。東白川郡内の小学校が4つほど集まりリーグ戦を行う。この試合は毎年行われているので、前の学年やその前の学年の結果をみると大体強いチームは決まっている。あとあと気づいた事だが、この試合で優勝すると県南地区大会、県大会へと大会が続いていたらしいが、監督がこのチームでどこまで本気で次の大会まで目指していたかは分からない。ホイッスルが鳴りボールが蹴り出された。最初の対戦相手はこのグループの中では頑張れば勝てそうなレベルのチームだ。ほぼ互角と言っても過言ではない。ボールを奪い合いながら拮抗した展開が続く。シュートというシュートも飛んでこない。いわゆる団子サッカーに近い形になっていた。こっちの選手がボールを奪ってドリブルをしても相手に取られ、また奪って取られの繰り返しであっという間に前半の20分は過ぎていった。ボールを触ったのも相手のパスミスをキャッチしたくらいと、ゴールキックを蹴ったくらいで、こんなに20分って短いのかってくらい直ぐに終わってしまったのを覚えている。ハーフタイムになり、監督がこのまま最後まで走りきれ。と相変わらずサッカーの中身ではなく精神的なアドバイスを送っていた。そうだ。僕らは試合に勝つ為の戦術的な練習などしてきていない。とにかく勝つためには一人一人が走ってボールを奪い取るしかない。そんな話をしてると後半が始まる合図が聞こえてきた。陣地を交代して配置についた。あと20分無失点に抑えて引き分けでも良い、次の試合に繋げたい。負けるよりは気持ち的にも前向きに次の試合に向かえる。ホイッスルが鳴り後半が始まった。前半より強くボールを奪いにいく仲間達。勝ちたい気持ちが伝わってくる。相手も激しく向かってくる。前半に引き続き団子状態の攻防は続く。
すると、センターラインの少し相手側の辺りでその塊から1人仲間のFWの選手が抜け出した。そのまま行けばキーパーと一対一になる。いけー!監督が叫んだ。キーパーが前に出損ねている。そのまま落ち着いて枠に打てば入る。ゴールに近づいていく。そしてシュート!左隅にボールは吸い込まれた。入った。やった。1得点。知らない間に来ていた親達からも歓声が上がる。前回の試合のような自陣にボールが来ない、キーパーの出番がない物足りなさなどない。純粋に嬉しかった。普段感情を出さない仲間たちも喜んでいた。よし、この1点を守り切れば勝てる。残り時間は10分ほど。最初の緊張など忘れ益々高ぶる気持ちが全身を程よく支配していた。
THE BACK HORN
1998年結成。"KYO-MEI"をテーマに、聴く人の心を震わせる音楽を届けていくという意志を掲げる4人組ロック・バンド。2001年、メジャー1stシングル『サニー』をリリース。以降、そのオリジナリティ溢れる楽曲の世界観からクリエイターとのコラボレーションも行う。2018年に結成20周年を迎え、海外公演や日本武道館公演を含むアニバーサリー・ツアーを完遂。2019年には12枚目となるオリジナル・アルバム『カルペ・ディエム』を発表。2020年5月からは"THE BACK HORN「KYO-MEIワンマンツアー」カルペ・ディエム~今を掴め~振替公演"の開催を予定している。
Related Column
- 2025.04.11 Updated
- THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第四十二回】
- 2025.02.12 Updated
- THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第四十一回】
- 2024.12.27 Updated
- THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第四十回】
- 2024.10.17 Updated
- THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第三十九回】
- 2024.08.19 Updated
- THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第三十八回】
- 2024.06.17 Updated
- THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第三十七回】
- 2024.04.16 Updated
- THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第三十六回】
- 2024.02.21 Updated
- THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第三十五回】
- 2023.12.20 Updated
- THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第三十四回】
- 2023.10.17 Updated
- THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第三十三回】
- 2023.08.24 Updated
- THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第三十二回】
- 2023.06.15 Updated
- THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第三十一回】
- 2023.04.17 Updated
- THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第三十回】
- 2023.02.15 Updated
- THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第二十九回】
- 2022.12.05 Updated
- THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第二十八回】
- 2022.10.04 Updated
- THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第二十七回】
- 2022.08.02 Updated
- THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第二十六回】
- 2022.06.01 Updated
- THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第二十五回】
- 2022.04.04 Updated
- THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第二十四回】
- 2022.02.01 Updated
- THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第二十三回】
- 2021.12.03 Updated
- THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第二十二回】
- 2021.10.04 Updated
- THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第二十一回】
- 2021.08.04 Updated
- THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第二十回】
- 2021.06.02 Updated
- THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第十九回】
- 2021.04.05 Updated
- THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第十八回】
- 2021.02.08 Updated
- THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第十七回】
- 2020.12.02 Updated
- THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第十六回】
- 2020.10.02 Updated
- THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第十五回】
- 2020.08.05 Updated
- THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第十四回】
- 2020.06.10 Updated
- THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第十三回】
- 2020.04.02 Updated
- THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第十二回】
- 2020.02.05 Updated
- THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第十一回】
- 2019.12.10 Updated
- THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第十回】
- 2019.10.10 Updated
- THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第九回】
- 2019.08.06 Updated
- THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第八回】
- 2019.06.11 Updated
- THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第七回】
- 2019.04.05 Updated
- THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第六回】
- 2019.02.06 Updated
- THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第五回】
- 2018.12.06 Updated
- THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第四回】
- 2018.10.04 Updated
- THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第三回】
- 2018.08.06 Updated
- THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第二回】
- 2018.06.07 Updated
- THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第一回】
- 2018.04.09 Updated
- THE BACK HORN 岡峰光舟の「アラフォー戦国時代」【最終回】
- 2018.02.08 Updated
- THE BACK HORN 岡峰光舟の「アラフォー戦国時代」【第十七回】
- 2017.12.14 Updated
- THE BACK HORN 岡峰光舟の「アラフォー戦国時代」【第十六回】
- 2017.10.13 Updated
- THE BACK HORN 岡峰光舟の「アラフォー戦国時代」【第十五回】
- 2017.08.09 Updated
- THE BACK HORN 岡峰光舟の「アラフォー戦国時代」【第十四回】
- 2017.05.31 Updated
- THE BACK HORN 岡峰光舟の「アラフォー戦国時代」【第十三回】
- 2017.04.13 Updated
- THE BACK HORN 岡峰光舟の「アラフォー戦国時代」【第十二回】
- 2017.02.10 Updated
- THE BACK HORN 岡峰光舟の「アラフォー戦国時代」【第十一回】
- 2016.12.16 Updated
- THE BACK HORN 岡峰光舟の「アラフォー戦国時代」【第十回】
- 2016.10.21 Updated
- THE BACK HORN 岡峰光舟の「アラフォー戦国時代」【第九回】
- 2016.08.15 Updated
- THE BACK HORN 岡峰光舟の「アラフォー戦国時代」【第八回】
- 2016.06.09 Updated
- THE BACK HORN 岡峰光舟の「アラフォー戦国時代」【第七回】
- 2016.04.13 Updated
- THE BACK HORN 岡峰光舟の「アラフォー戦国時代」【第六回】
- 2016.02.16 Updated
- THE BACK HORN 岡峰光舟の「アラフォー戦国時代」【第五回】
- 2015.12.13 Updated
- THE BACK HORN 岡峰光舟の「アラフォー戦国時代」【第四回】
- 2015.10.15 Updated
- THE BACK HORN 岡峰光舟の「アラフォー戦国時代」【第三回】
- 2015.08.22 Updated
- THE BACK HORN 岡峰光舟の「アラフォー戦国時代」【第二回】
- 2015.06.12 Updated
- THE BACK HORN 岡峰光舟の「アラフォー戦国時代」【第一回】
LIVE INFO
- 2025.04.22
-
片平里菜
SUPER BEAVER
THE KEBABS
HINDS
Saucy Dog
THE YELLOW MONKEY
NANIMONO × バンドじゃないもん!MAXX NAKAYOSHI
暴動クラブ
- 2025.04.24
-
PEDRO
柄須賀皇司(the paddles)
片平里菜
阿部真央×大橋卓弥(スキマスイッチ)
indigo la End
w.o.d.
BIGMAMA / cinema staff
THE KEBABS
yama
藤巻亮太
- 2025.04.25
-
古墳シスターズ
FUNKIST
そこに鳴る
w.o.d.
Keishi Tanaka
fox capture plan
chef's
ラブリーサマーちゃん
それでも世界が続くなら
斉藤和義
yama
the shes gone
Laughing Hick
miida
ビレッジマンズストア
- 2025.04.26
-
CYNHN
Keishi Tanaka
阿部真央×大橋卓弥(スキマスイッチ)
sumika
ぜんぶ君のせいだ。× TOKYOてふてふ
Novelbright
ヤバイTシャツ屋さん / 打首獄門同好会 / SPARK!!SOUND!!SHOW!! / キュウソネコカミ ほか
FUNKIST
"ARABAKI ROCK FEST.25"
GANG PARADE
サカナクション
Czecho No Republic
渡會将士
"nambar forest'25"
INORAN
ACIDMAN
Laura day romance
Bimi
Subway Daydream
Bray me
FINLANDS
WANIMA
Omoinotake
Cloudy
柿沼広也 / 金井政人(BIGMAMA)
古墳シスターズ
ハシリコミーズ
THE BAWDIES
斉藤和義
Panorama Panama Town
Ado
MyGO!!!!! × Ave Mujica
村松利彦(Cloque.) / まやみき(ank) / るい(TEAR) ほか
RAY
This is LAST
- 2025.04.27
-
原田郁子(クラムボン)
Keishi Tanaka
sumika
ぜんぶ君のせいだ。× TOKYOてふてふ
BLUE ENCOUNT / SUPER BEAVER / 四星球 / ENTH ほか
The Ravens
FUNKIST
"ARABAKI ROCK FEST.25"
THE KEBABS
GANG PARADE
ヒトリエ
緑黄色社会
サカナクション
"nambar forest'25"
Bray me
FINLANDS
Ayumu Imazu
渡會将士
Bimi
HY
バンドじゃないもん!MAXX NAKAYOSHI
Baggy My Life / Am Amp / Comme des familia
オニザワマシロ(超☆社会的サンダル) / 名雪(Midnight 90's)
Subway Daydream
THE BAWDIES
fox capture plan
トゲナシトゲアリ×ダイヤモンドダスト
Ado
MyGO!!!!! × Ave Mujica
- 2025.04.29
-
sumika
fox capture plan
10-FEET / THE ORAL CIGARETTES / 04 Limited Sazabys / Maki ほか
眉村ちあき
とまとくらぶ
FUNKIST
Omoinotake
ねぐせ。
大橋ちっぽけ
The Ravens
Ochunism
ずっと真夜中でいいのに。
豆柴の大群
フラワーカンパニーズ
超☆社会的サンダル
HY
mudy on the 昨晩
WANIMA
yutori
荒谷翔大 × 鈴木真海子
Newspeak
"JAPAN JAM 2025"
GANG PARADE
ぜんぶ君のせいだ。× TOKYOてふてふ
Laura day romance
amazarashi
- 2025.04.30
-
とまとくらぶ
超☆社会的サンダル
桃色ドロシー
THE YELLOW MONKEY
- 2025.05.01
-
PEDRO
ラブリーサマーちゃん
Hump Back
ザ・クロマニヨンズ / Ken Yokoyama / マキシマム ザ ホルモン
詩羽×崎山蒼志
Rhythmic Toy World
Maki
- 2025.05.02
-
PEDRO
[Alexandros]
indigo la End
WHISPER OUT LOUD / Good Grief / CrowsAlive / UNMASK aLIVE
あいみょん
斉藤和義
ザ・クロマニヨンズ / Ken Yokoyama / マキシマム ザ ホルモン
四星球
KiSS KiSS
THE SPELLBOUND
fhána
緑黄色社会
Omoinotake
Shiggy Jr.
フラワーカンパニーズ
- 2025.05.03
-
PIGGS
ExWHYZ
[Alexandros]
サカナクション
Baggy My Life / Am Amp / Comme des familia
奇妙礼太郎 × 君島大空
あいみょん
斉藤和義
ASP
WHISPER OUT LOUD / Good Grief / CrowsAlive / UNMASK aLIVE
アーバンギャルド
"JAPAN JAM 2025"
TOKYOてふてふ
"VIVA LA ROCK 2025"
- 2025.05.04
-
ACIDMAN
NakamuraEmi
サカナクション
清 竜人25
ASP
Baggy My Life / Am Amp / Comme des familia
ザ・クロマニヨンズ / Ken Yokoyama / マキシマム ザ ホルモン
リュックと添い寝ごはん / クジラ夜の街 / ケプラ / ミーマイナー(O.A.)
"JAPAN JAM 2025"
INORAN
ぜんぶ君のせいだ。
"VIVA LA ROCK 2025"
RAY
"革命ロジック2025"
- 2025.05.05
-
ExWHYZ
渡會将士
Plastic Tree
Bye-Bye-Handの方程式
Redhair Rosy
斉藤和義
ヒトリエ
私立恵比寿中学
"JAPAN JAM 2025"
ぜんぶ君のせいだ。× TOKYOてふてふ
緑黄色社会
"VIVA LA ROCK 2025"
豆柴の大群
RELEASE INFO
- 2025.04.23
- 2025.04.25
- 2025.04.26
- 2025.04.28
- 2025.04.30
- 2025.05.02
- 2025.05.03
- 2025.05.07
- 2025.05.09
- 2025.05.14
- 2025.05.16
- 2025.05.21
- 2025.05.23
- 2025.05.28
- 2025.05.30
- 2025.06.04
FREE MAGAZINE
-
Cover Artists
Bimi
Skream! 2025年04月号