THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第二十四回】
2022年04月号掲載
第二十四回「世界」
そんな世界が変わるような一瞬の感触を味わえた非日常の喜びから一転、月曜日になればまた現実の世界に引き戻される。今でも中学校生活の厳しい縦社会の日々はずっと記憶の底にこびり付いて離れない。
絶対的な先輩の存在。同級生でも男女問わずハッキリした上下関係。なんだろうか、逆に忘れられない夢でも見ていたのかのように、あの当時の風景は色褪せる事なく浮かび上がっては消える。教室では、教壇と最前列の生徒の机の間に実際の何百倍もの距離があるように感じるほど、遠く離れた世界からの先生の眼差しが向けられる。こちらの世界を覗き込もうとしてくれてる目なのか、もしくは覗くのを諦めてる目なのか、本当は全てを把握している目なのか。その目には心理までは映らない。
混ざり合う事のない世界と世界。その境界線で屈折して歪んだ空気が立ち込める四角い箱。そこに押し込められた大人と子供たち。集団生活の中でいつ自分が切り離されてしまうか、理不尽な仕打ちに苛まれるか、ただ怯える恐怖に自分自身を殺すように息を潜めていた。その苦しみにも似た抑圧された感情だけが沸々と心の中に溜まっていく。
今思えば、先生と生徒。様々な経験をした大人と、まだ大人の入り口に入ったばかりの過敏な子供との世界の共有など、成り立つはずも無いし重なる訳も無い。
そもそもこっちがその扉を開けてはいないのだし、この世界を知られたらそれはそれでもっと厄介な事になってしまう。自分自身も大人の世界に救いを求めていた訳ではないのだけれど、黒板の前で当たり前のようにただただ繰り返される現実味の無い授業風景に、例え子供たちより知ってる事は多くても、僕らの世界の縮図は知るはずもないんだと、こぼれ落ちるチョークの粉を眺めながらぼんやりと考えていた。
終わりのチャイムが鳴れば野放しの子供たちだけの社会がまた蛇口の水のように溢れ出し広がっていく。むしろ授業中だけが何も起きない平和な時間のように。入学して半年も経たないうちに、これが3年間続くのかという絶望にもすでに飽きていた。だからまだその中でも運動という本能を使う部活の時間は、唯一の息抜きになっていたのだと思う。殺さなければならない自分自身を少しだけ解放できる場所。その場所には、自分一人ではなく、皆が集まっていた事を考えれば、ひょっとしたらそんな思いは皆一緒だったのかも知れない。腹が減ろうが辛い事があろうが放課後になればほぼ皆毎日グラウンドに集まっていた。
抑圧されたエネルギーを発散するかのように。誰も望まずにできあがってしまっていた世界。先輩から後輩へと。後輩からまた後輩へと。その波に逆らえる事もできずに呑まれてまた続いてゆく。選んだ訳でも無い。選ばなかった訳でも無い。ただただ自然に、それぞれが居場所を見つけるように、その居場所を守るように、自分自身を保つように作られてゆく世界。大人になった今でも相も変わらずそう。
生きてゆく事とはきっとそういう事なのかも知れない。時には面倒でもきっと大切なはずの人と人との繋がりを学ぶには、刺激的過ぎて強烈な経験だった。ましてや十代の真綿のようなふにゃふにゃな心に刻まれたのなら、こうして傷跡のように残り続けるのも分かる気がする。
そんな日常を過ごしていたある日、選抜選考会で味わった一瞬で世界が変わるような興奮と喜びの先に、一つの道が続いていた事を知る。選考会で選ばれたメンバーが集まり、他の地域の選抜チームと戦う大会の為の練習会が近々あるとサッカー部の顧問から伝えられた。
続くその道が平坦なのか、曲がりくねっているのか、眩しく照らされているのか、何処に繋がっているのか、まだこの時点では想像できないでいた。
<つづく>
THE BACK HORN
1998年結成。"KYO-MEI"をテーマに、聴く人の心を震わせる音楽を届けていくという意志を掲げる4人組ロック・バンド。2001年、メジャー1stシングル『サニー』をリリース。以降、そのオリジナリティ溢れる楽曲の世界観からクリエイターとのコラボレーションも行う。2018年に結成20周年を迎え、海外公演や日本武道館公演を含むツアーを完遂。2021年12月には4年5ヶ月ぶりのシングル『希望を鳴らせ』を発売し、2022年2月にシングル「ヒガンバナ」、3月に「ユートピア」を配信。4月13日には同2曲も収録した13thアルバム『アントロギア』の発表を控えており、5月からは同作を引っ提げたツアーを開催する。
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