THE BACK HORN 松田晋二の"宇宙のへその緒"【第二十二回】
2021年12月号掲載
第二十二回「帰路」
部活漬けの毎日が続く。夜は日が暮れるまで練習をして、帰るのはだいたい夜八時過ぎ。家に着いたらご飯を食べて風呂に入って寝る。そんな平日を繰り返していた。
中学校までの距離も結構あって、二キロ弱の道を歩いて通う。今振り返ると凄く遠かったなと思うけど、あの頃は友達とわいわい話しながらそれも楽しい時間だった。その道の途中に神社に続く長い石段があって、そこに腰掛けてジュースを飲みながらみんなでいろいろ話して道草を食いながら帰った事もあった。
あんなにずっと何を話す事があったのだろう。仲の良かった時もあれば、ぎくしゃくして友達関係も変わってしまいひとりで帰ってる時期もあった。あの時は何を考えていただろう。
冬の寒い時期、凍えながら暗い夜道をひとり歩いて、寂しさにもまだ気づかずに胸の奥でそわそわする何かを感じながら家路を急ぐ。玄関のドアを開けると暖かさが溢れてくる。と同時に石油ストーブの匂いが立ち込め、何とも言えない安心感に包まれる。いまだにその石油ストーブの匂いを嗅ぐと胸がギュッとなって切なくなる。そしてそれは青春の傷の匂いのようにこびりついて離れない。
ひとりぼっちになる理由なんて、いつもはっきりしているようで明確ではない。きっと妬みや僻みや、なんとなくの気に入らなさ。鼻につく感じ。そんなところだろう。そしてまた何かのきっかけで戻ったりする。それが何度か繰り返されるともう理由も探さなくなった。またきたか。その空気を感じる敏感さみたいなものはずっと持っていた。それが自分を守る唯一の危機管理のような。
一度も誰とも話さずに一日過ごす事もあった。それでも休む事はなかった。せめてもの抵抗。時間が過ぎるのをただそっと待つ。そんな時も帰ると暖かい家があり、家族がいる事でやっていけたんだと思う。
寝る前に古びたラジカセで音量を小さくしてラジオを聴いていた。そこから流れる知らない音楽でその日を忘れるように目を瞑った。明日は何かが変わっているように。そんな淡い期待を抱きながら。
三年間逃れられない関係で過ごす毎日。ただ早く過ぎればいいと思う中、自分にはサッカーがあり身体を動かす事で、知らぬ間に心に溜まる膿みたいなものは流れていったのかもしれない。楽しさとはまた少し違う生活の一部になっていた。小学生の頃に取り憑かれた上手くなりたいという願望も少しずつすり減っていった。それでも練習だけは繰り返されていく。シュート練習の時は先輩のキーパーと代わる代わる入れ替わってゴールを守る。何度か先輩のシュートをブロックしていると、誰かが「二年のより一年のキーパーの方が上手くね?」と話しているのが聞こえた。
ここで先輩のポジションを奪ってやろうとかそんな野心があった訳でもない。ましてや友達関係がぎこちない中、張り切る事もできない。ただ彩りのない毎日を振り払うように無心でボールに飛びついていただけかも知れない。二年生のキャプテンの指示で、ミニゲームのような試合形式の練習の中、何度か二年生のチームのキーパーを任せられる事があった。相手は一年生になるので二年生よりはボールを止める事ができた。ただ、そうなると二年生のキーパーが不貞腐れてなんでお前が二年生に混ざるんだと言ってくる。実力主義の本気のチームとはまた別の部活動で、上手い方が勝ちでしょなんて当たり前に言える訳もなく、それはそれでやりづらく辛かった。
自分が逆の立場でも同じ事を思ったかも知れない。そんなに大きく技術の差があったとかではないと思っていたけれど、二年生は二年生の中でそのキーパーの子に対する何かがあったのかも知れない。そっちはそっちの関係性。二学年の部活動の中で渦巻く関係性と社会。いっその事自分が怪我でもしてしまえばいいと思った事もあったが、きっとそんな事では何も変わらない。言われるままに練習をやり過ごす日々が続いた。
田舎の部活動で試合が沢山あった訳ではないが、ある週末に隣町で何チームかが集まって行う試合形式の練習会のようなものがあった。どういう形で呼ばれたのかあまり聞かされていなかったが、主に二年生を主体に何人か一年生も参加するというものだった。ユニフォームは着ずに普段の練習する格好のままビブスを着て試合をするらしく、トレーニングジャージ的なものがないうちらのチームはみな学校の運動着で参加していた。
もちろん自分も練習用のキーパーパンツもないので、運動着の膝までサッカーソックスを上げてそれ風にしてみたけれど、今思い返してもダサい格好だった。いよいよ自分が呼ばれてグラウンドに出ると周りのチームから笑い声が聞こえた。あ、多分この格好を笑ってるんだろうなと気づいた。でも仕方がない。ダサくてもフィールドに立ったからには夢中でゴールを守るだけだ。
その後の中学生サッカーを左右する一試合になるとはまだこの時は気付く余地もなく、試合開始のホイッスルが鳴った。
<つづく>
THE BACK HORN
THE BACK HORN 1998年結成。"KYO-MEI"をテーマに、聴く人の心を震わせる音楽を届けていくという意志を掲げる4人組ロック・バンド。2001年、メジャー1stシングル『サニー』をリリース。以降、そのオリジナリティ溢れる楽曲の世界観からクリエイターとのコラボレーションも行う。2018年に結成20周年を迎え、海外公演や日本武道館公演を含むツアーを完遂。現在"マニアックヘブンツアー Vol.14"を開催中で、2021年12月5日には4年5ヶ月ぶりのニュー・シングル『希望を鳴らせ』の発売が決定している。
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