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Hakubi 片桐の"ひと折りごと" 第3回

2026年02月号掲載

#3[言葉選びのひと折り]

「夢の続き」という曲で「言葉選びを間違えて また人を傷つけて」という歌詞を書きました。
この曲は随分前に書いた曲ですが、当時と同じ感覚で歌っています。
今も私は、言葉選びを間違えてしまう怖さを抱えながら、人を傷つけたくない、嫌われたくないと考えながら会話をしている気がします。
でもそれは、最初からそうだったわけではありませんでした。

私の人生の「折り目」を綴る「Hakubi 片桐のひと折りごと」。
第3回となる今回は、「言葉選びのひと折り」を綴っていきます。

小学生のころ、「きもい」「うざい」という言葉が、友達の間で流行り始めました。
もちろん良い言葉ではないことはわかっていたのだけれど、当時はそんなインスタントな言葉が新しくて、少し大人になったような気がして、友達の間で平然と使ってしまっていた気がします。

ある日、父に反抗した時、そんなことを言うつもりはなかったのに、その言葉を発してしまいました。
その言葉を発する口の動きはとても軽く、その重さや強さを理解しないままに。

ちゃんと話して、ちゃんと向き合えたら良かったのに、対話の途中でぽろっと出てしまっていた。
きっと、自分の気持ちを説明する言葉を考えることを、その時の私は放棄してしまっていたんだと思います。
ひどい言葉を使ってしまっていました。

違う、そんなこと言いたいんじゃない。そう心の中で思った時にはもう遅くて、謝るその前に、いつも優しい父は今までに見たことがないくらい怒っていました。
父があんなふうに怒った姿を見たのは、後にも先にもあの一度きりです。
その場の空気が、一瞬で変わったことを今でもはっきりと覚えています。

軽はずみに言ってしまった一言が、誰かを深く傷つけてしまうことがある。
今まで何度も、言葉に救われたり、力をもらったりしてきたけれど、言葉は人を守ってくれる盾になってくれることもあれば、とても鋭い刃となり、凶器になってしまうこともあるのだと、あの時はじめて気づきました。

言葉で傷つけてしまったとはっきりと自覚したあの瞬間、私は「もう人を傷つけてしまう言葉は使わない」と心の中で誓いました。

父の表情や、あの一瞬の気持ちは、一生忘れられないと思います。
悲しい顔を二度とさせないように、言葉を選ばなければいけない。
そんなふうに思った私の人生の折り目でした。

けれど、慎重に言葉を選んできたつもりの人生の中で、言葉を選ぶことの「影」も知るようになります。
言葉を選んで話すことを心がけていれば、確かに人を傷つけてしまうリスクは減ったけれど、考えすぎて、本当の私じゃないと思われてしまっている気がする時があります。
傷つけないようにと、まっさらな言葉にベールを被せてしまうことで、誰かとの間に距離ができてしまう。慎重に、慎重にと言葉を選んでいたら、どこかから借りてきたような、本当に自分の言葉なのかわからなくなってしまうこともありました。
ありのままで、まっさらなそのままの言葉で差し出せている人を見て、きっと人に愛される人だろうなあ。と感じて、羨ましく思えてしまうこともあります。
でも、ここまでこうして言葉を選びながら生きてきた私は、もう簡単には変えられないし、もしかしたらないものねだりなのかもしれません。

この少しの距離感も、かけてしまったこのベールも、きっと私の言葉の一部なのだと思います。

言葉を選ぶことは、悪いことじゃない。ただ、自分を消さないように選びたい。
傷つけないように、嫌われないようにと選んできた言葉を、
今度は自分を嫌わないように、私だけの言葉を、選んでいきたい。

こうして言葉について考えている、この瞬間にも、またひとつ折り目ができたのかもしれません。

Hakubi

片桐(Vo/Gt)、ヤスカワアル(Ba)からなる京都発ロック・バンド。2021年9月、メジャー・デビュー。2023年11月にはZepp Haneda(TOKYO)&なんばHatch公演を成功。飾らない言葉で綴られた内省的な歌詞と、弱さを押し隠す力強い歌声、繊細さと激情を併せ持つ楽曲とライヴ・パフォーマンスが多くの支持を集めている。2025年12月にデジタル・シングル「何者 (Mandarin ver.)」をリリース、8月には主催イベント"京都藝劇2026"を2日間にわたり2会場で開催する。