Japanese
Hakubi
Skream! マガジン 2022年12月号掲載
2022.11.03 @恵比寿ザ・ガーデンホール
Writer 稲垣 遥 Photo by 翼、
"味方でいてくれて、仲間でいてくれて、一緒にこの時間を共有してくれて、本当にありがとう"――片桐(Vo/Gt)がフロアへ訥々と伝えたこの言葉が、この夜を共にしたオーディエンスの気持ちでもあったと思う。
京都のHakubiが初めてのホール・ワンマンを恵比寿ザ・ガーデンホールで開催した。"Noise From Here"という本公演のタイトルは、コロナ禍になった2020年にバンドが行った配信ライヴのタイトルでもある。これまで進んできたやり方では立ち行かなくなった彼らが、大事にしてきた"ライヴ"という居場所を守るためにと実施したその公演から、今日この日まで。理不尽な世の中に抗い、必死に新たなことにもチャレンジし、確かに進んできた。その軌跡がホール・ライヴという新たな挑戦の場に刻まれた一夜だった。
ソールド・アウトの会場にノイズ交じりのギターの音が鳴り、仄暗いステージにヤスカワアル(Ba)とマツイユウキ(Dr)、最後にフリルの白ブラウスを纏った片桐が表れ、彼女が手を上げると拍手が湧く。そのまま片桐がすぅっと息を吸うと「悲しいほどに毎日は」からライヴを始めた。深い夜のような空気感を纏ったギターのアルペジオが印象的なミドル・チューンに乗せ、無常な日々を無情なまま痛感させながらも、"もう立ち止まりたくないんだ"と届ける。バンドのアティテュードを示す1曲で幕を開けると、ささやくように"よろしくね"と片桐。テンポアップし、ソリッドな3ピースのバンド・サウンドとレーザーの演出がマッチしてクラップが起きた「どこにも行けない僕たちは」まで4曲を演奏した。じわじわと聴き手の身体の内側から熱を高めていく感覚だ。
人が行き交う都会の街中を想起させるSEを挟んで、「在る日々」へ。歌い出しから生きることにもがく切実すぎるリリックがぎゅっと心を締めつけるが、サビ終わりでシンセサイザーが大胆に投入されると同時にぶわっと光がなだれ込むような演出が、ホールのムードとも相まってとても美しかった。
Hakubiは、葛藤や苦悩、寂しさを抱えながらその日その日をなんとか持ちこたえて繋いでいくような生活を、ただ身を削るようにして歌う。片桐の声は透明感を携えているが、そこには意志が強く宿り、フィクションではなく彼女自身の歌であるように響いた。そして、その歌を中心に据えるように徹底されたヤスカワとマツイの音作りがある。だからこそ、私たちは片桐の歌に自身の現実を重ねて没入すると同時に、彼らのステージングに"今彷徨っているのは自分だけではない"と感じさせられるのだ。
弾き語りから始めたバンド初のラヴ・ソング「あいたがい」。抜き差しを意識した繊細なドラムと一音一音に力を込めたベース、後半の歪んだギターが胸をうずかせた。別れを告げたあとの後悔を歌うナンバーだが、そこには相手を想う温かさが滲む。2022年のHakubiの新境地のひとつだ。そこからステージと客席の間には紗幕が張られ、寒くなるこれからの季節の風景と思しき映像とリリックを投影しながら、新曲「32等星の夜」が披露された。ひと足早いHakubi流クリスマス・ソングに浸らせると、次ぐ「サーチライト」では幕いっぱいに怒濤の言葉の羅列が映し出される。それは自分の存在意義の希求や、"こんなはずじゃなかった"という挫折など、内に秘めた苦悶の想いがとめどなく漏れ出たかのよう。そこに片桐のポエトリー・リーディングとバンドの演奏が重なり、鬼気迫るパフォーマンスに息をするのも忘れるほど飲み込まれる。
幕が開くとその緊迫感のまま初期曲「薄藍」、丸みを帯びたエレピのSEから静かに「アカツキ」へ。親しい人への大切な手紙のような筆致で綴るこの曲を、マーチング・ドラムやストリングスを取り入れた壮大なサウンドでさらに物語性を増して聴かせる。最後の"こっちはようやく歩き出したよ"の一節に辿り着いたときは、感動的ですらあった。
そんなホール編にぴったりなステージはさらに続き、ここで彼らはOfficial髭男dismのサポート・キーボーディストとしても活躍中の善岡慧一を呼び込んだ。"これまで自分の弱さを吐き出して歌を作ってきたんですけど、メンバー、家族、スタッフ、目の前のあなたに支えられてるって気づいて、初めて心から感謝を伝えたいと作った曲"(片桐)と、とっておきの編成で始めたのは「栞」だった。流麗なピアノのアレンジと共にストレートに想いを乗せた歌を届けるHakubiと、見逃すまい、1音も聴きこぼすまいと頷きながら見つめるオーディエンス。曲終わりの片桐の"ありがとう"には微笑みがこもっていたような気がした。
鍵盤の音色から"久しぶりにこの曲を。すごくすごく大切な曲です"と「22」。今にも消えてしまいそうな繊細なヴォーカルから、ホール中に響き渡るようなありったけの力を込めた歌唱まで、片桐の表現力が炸裂する。そして、想いを通わせたフロアに向けて冒頭に記した言葉が放たれたのだった。"幸せな気持ちに......なってしまってもいいか。あなたがいてくれて、本当に嬉しいわ"。素直な言葉に温かな空気が流れる。
ここからは再び3ピースに戻り、いよいよラスト・スパートだ。「ハジマリ」から彼らがライヴハウスで鳴らしてきたまっすぐなロック・サウンドをぶっ放すと、「フレア」ではバンドが疾走すると同時にフロアも一瞬で火がつき強く手を打ち鳴らす。片桐は"少し強くなった自分と――自分たちと、何も変わらない根っこ。変わらなくてもいいよ。弱いままでも私はいいと思うよ。でももし、何かのために強くなりたいなら、一緒に歩きだしてみませんか"と語り掛け、スポットライトを浴び"あなたがいるから、心から強くなれた"と「mirror」へ。"あなた"がそこにいることを肯定する、言葉にしつくせない想いを歌に、叫びに乗せ、アーティストとファンと言うよりも"仲間"と言ったほうがまさに相応しく思えるほどに、聴き手と同じ目線に立ったまま全力で届けてゆく。
最後は、"声を出せなくてもひとつになれるように作った"と、観客にスマホのライトを照らすように伝え、現時点での最新シングル「君が言うようにこの世界は」を投下。シンプルで明快な同じフレーズのリフレインと"トゥルル~"のコーラス・パート、そのなかで大きく盛り上がっていく楽器隊の演奏が、"今、共にいる"感覚を増幅させる。それはどこかTHE BEATLESの「Hey Jude」を彷彿させるぬくもりがあり、パーソナルな曲でありながらみんなが自分事に受け取れる愛の歌という意味でも、Hakubiの鳴らす音と共通するのだと、ひとりひとりの光めがけて歌う片桐の姿を見て筆者はそう思った。
アンコールでは「辿る」、「光芒」を鳴らし、最後まで勢いが衰えることなく轟くHakubiサウンドと歌声で、またここから互いの道であてどない一日一日を進むためのパワーを贈った。そして、またその先での再会を願い、"Noise From Here - HALL edition"は幕を閉じたのだった。
[Setlist]
1. 悲しいほどに毎日は
2. Twilight
3. 夢の続き
4. どこにも行けない僕たちは
5. 在る日々
6. Friday
7. あいたがい
8. 32等星の夜
9. サーチライト
10. 薄藍11. アカツキ
12. 栞
13. 22
14. ハジマリ
15. フレア
16. mirror
17. 君が言うようにこの世界は
En1. 辿る
En2. 光芒
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