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INTERVIEW

Japanese

daisansei

2020年11月号掲載

daisansei

Member:安宅伸明(Gt/Vo) 小山るい(Gt) フジカケウミ(Ba) 川原徹也(Dr) 脇山 翔(Key)

Interviewer:蜂須賀 ちなみ

-フジカケさん、小山さんはいかがですか?

フジカケ:個人的に最初は、(曲を聴いて)勝手に"自分に向けて歌ってくれている"という感じがしたのですが、「しおさい」や「ざらめ、綿飴」ぐらいから、景色が浮かぶような曲、きれいだなと思う曲に変わっていった感じがしていて。その変化、進化が感じられるアルバムかなと思っています。そういう曲の変化と共に、例えば"ここは波打つように弾いてみよう"というふうに、自分の弾き方も変わっていっていますね。

小山:さっき脇山さんが"聴きすぎてリスナー側には回れない"と言っていたけど、私は途中から入ったから、たぶん、まだちょっと(リスナーとしても)考えられていて。「ショッポ」が入っているEP(2019年12月リリースの2nd EP『ショートホープ』)や、『箱根』を聴くと、未だに作っていない側の気持ちになれるんですよ。『箱根』は結構好きでよく聴いているんですけど――

安宅:ありがとう。

小山:(笑)だから、その2作品の続きとして今回のアルバムも捉えていますし、バンドとしての成長、歩みみたいなものをすごく感じられるなと思っています。本当にその時々の、リアルタイムで変わっていっている様子がいっぱい残っていると思うので。

-先ほど、バンドの現状が、"居場所のないあなたに添えるポップミュージック"というコンセプトから離れつつあるかもしれない、という話が一瞬出ましたが。

安宅:活動の姿勢として、"中2のときの俺みたいな人に届けばいいな"ということはずっと思っているんですけど、曲単体で見ると、後半にできた曲はそうじゃないと思うんですね。今一番やりたくなっているのは、ファンタジーを書くこと。物語を書いて、その物語がしっかり季節と風景を持っていて、なおかつ、歌詞として成立している。そういうものを作るのが今一番楽しいです。だが、その前により濃い"居場所のないあなたに添えるポップミュージック"的な曲を作った手前、僕が、俺に嘘をつけなくなっている状態になっているんですよね。だから"完全な創作なのだが、まるで俺の話みたいだ"という曲ができていっているのが現在です。

-そういうご自身の変化を受け入れようという方向性なのでしょうか。

安宅:いや、変化とかじゃないんですよ。心拍数のグラフの、その時々で一番浮き出ているところをちゃんと捕まえていく作業なんですよね。心をおろし金でゴリゴリやらなくちゃいけないような、破滅的な作り方じゃなくて、自然に浮き出てきたものをちゃんと受け取ったり、抱きしめたりする作業だと思っています。だから、変化とはあまり思っていないです。

-なるほど。収録曲の中から特に思い入れの深い曲をおひとりずつ挙げていただけますか。

小山:個人的には3曲目の「北のほうから」。「北のほうから」は私が入ってから最初にレコーディングした曲なんですよ。レコーディングしたのが5人になってすぐの時期で、結構バタバタしていたんですけど、そういう"ちゃんと活動し始めたなぁ"という楽しさを、その時期はすごく感じていました。

フジカケ:私が初めて参加したのは「ショッポ」だったんですよ。なので、もちろん全曲好きなんですけど、やっぱり一番印象が強いのは「ショッポ」ですね。今まで全然聴いたことのない音楽だったんですけど、何回も聴くことによって、どんどんハマっていく感じがありました。

安宅:もともとポスト・パンクみたいな音楽やっていたんだよね?

フジカケ:違います(笑)。だけど、ずっとベース・ヴォーカルをやっていて、ピック弾きで8ビートだったので、まったく違う音楽を弾くのも楽しいなって思いました。

脇山:私は「便箋」ですかね。安宅君だけじゃなくて、女子ふたりも順番に歌っていて。それがかわいいなって思います。

-他の曲にも言えることですが、小山さんとフジカケさんも歌える=曲の中に女性の声も入れられるというのが、いいアクセントになっていますよね。

安宅:実は"女性のコーラスがいると楽しいだろうな"、"メンバーにはそういう人がいてほしいな"と思っていたんですよ。なぜなら、僕は宅録でコーラスを乗せるのが好きだったから。で、そのコーラスが俺の声じゃなくて、女性の声だったらもっと良くなるなぁとずっと思っていたんです。そこに対して"そろそろやっていいかも"と思えたのが「しおさい」で謎の朗読をしてもらった時期で、そこから徐々に徐々にやっていき......。脇山が触れた「便箋」は、そういうなかでの今年のゴールじゃないですかね。

脇山:歌詞はもともとあったものなんですけど、ちょうど3ブロックで、偶然それぞれのキャラクターに合っている感じで。

-キーも半音ずつ上がっていますね。

安宅:キーに関しては、前日にLINEで"どこが歌いたいですか?"と聞いたんですけど、ふたり共歌いたいところが同じだったので、"じゃあフジカケさんは1個上げます"みたいな(笑)。

小山:そのLINE、深夜2~3時にいきなり来たんですよ。

フジカケ:そういえば「しおさい」の朗読もレコーディングの当日に急に言われました。

-急なお願いパターンが結構多いんですかね。川原さん、1曲挙げるとしたら?

川原:全曲好きなので"この曲が特に"という感じではないんですけど、聴きどころで言うと、「ラジオのカセット」。これ、スネア2台使っているんですよ。歌があるところは普通のスネアで、そうじゃないところは、太鼓の上にタバコの箱を置いて叩いています。そうすると、"ダゥン"っていう変な音がするんですよ。そこに注目して聴いてみてください。

安宅:僕は「ラジオのカセット」と「ざらめ、綿飴」です。「ざらめ、綿飴」は詞が上手くいきすぎました。

-おっしゃる通り、「ざらめ、綿飴」は歌詞が非常に素晴らしいです。全編美しいけども、"凌霄花"と"温泉雑誌"を並べてくる言語センスは特にヤバい。

安宅:だろ(笑)?

-すみません、砕けた言い方になってしまって。

安宅:「ざらめ、綿飴」の歌詞は、そうですね、すごく上手くいったなぁ......。答えのない、単調な会話劇が歌詞として成立したらヤベーなと思って。且つ、一人称、二人称を出さずに人の影を感じさせたら勝ちだなと思ったんですけど、それも上手くいっている気がします。最初は日常の幸せを描いていたんですけど、"切なさが足りない"とこのへん(※川原のほうを向きながら)からずっと言われていて。それに、聴かせた人、聴かせた人に"寂しげだね"と言われていたので、"これは幸せではなく、喪失のほうを描くべきなのかな"と思ったんです。それで、そっちに寄せてみたら、凌霄花とか温泉雑誌とか、そういう話になっていきました。そこでさらに脇山が"これ、祭りだよね? 綿飴買うよね?"みたいなことを言い出して。

脇山:(笑)

安宅:最初"この人何言ってるのかな"と思ったんですけど(笑)、それがきっかけで"ざらめ、綿飴"というタイトルが途中で決まり、そしたら俺も"ちょっと飴のことも入れたいな"と思って。さらにこれはたぶん夕方だから、夕陽が落ちてて、ざらめっぽくて、溶けたら綿飴かな、それが祭りとかかって......みたいな感じで、全部わしゃーっとなって。

-そうして発想が連鎖していったんですね。

脇山:それこそひとりで作っていたら違う形になっていただろうね。

安宅:うん、100パーセントこうなっていなかっただろうね。僕がひとりで作っていたら......サビで単純なことを言っているので、たぶん、もっと変なことを言いたくなりますよね。"血反吐吐いたヤマネコが~ 峠を越えてこちらにやってくる~♪"みたいな(笑)。

脇山:危なかったね(笑)。

小山:"血反吐吐いた"はヤバい(笑)。

川原:そのヤマネコは、前に見たときよりまた尻尾が短くなっているかもしれない......。

安宅:何それ、こっわ! 尻尾減るのって頑張った証なの?

川原:ケンカする野良猫とか尻尾短かったりするじゃん。

安宅:そうなんだ。だけど、そのあとに続くのが"そうだね 静かになったかね"って! 怖いわ!

-バンドによっては、"ソングライターの領域に他のメンバーは手を出さない"という方針の人たちもいますけど、daisanseiの場合、メンバーの手によって曲がどんどん広がっていっていくんですね。私が曲を聴いて"面白い"、"聴いたことない"と感じた理由もそこにある気がします。

安宅:実は、最初はめっちゃ泣きそうになってました。自分の子供がめちゃくちゃにされているみたいで。だけど、(メンバーに)任せて膨らんだ部分は、明らかに俺の想像の外にあるものだったんです。それは広がりだし、曲の成長なので、やっぱり嬉しいですよね。だから今は、俺が決めたものが全部そのまま演奏されるとしたら、逆に怖くてしょうがない(笑)。人が前のめりに言ってくれることは基本的には受け入れたいし、たぶんそのほうが合っていると思っています。この作業をもっと深めていきたいですね。

-最後に、バンドとして目指している姿を教えていただけますか。

安宅:ちゃんとお金になることですね。関わってくれた人にちゃんと還元して、"関わって良かったな"と思ってもらう。そういうバンドになれたらクリアだと思います。......他の答えのほうがいいですか?

-いや、変える必要ないです。人の手を借りて、貴重な労力と時間を割いてもらっているのだから、という話ですよね、すごく大事なことだと思います。

脇山:MVに出てもらった人が、全然違うジャンルで頑張っている姿を見ると、すごく嬉しくなるし、誇らしい気持ちにもなるんですよ。また何年後かに一緒にお仕事をして、それこそお金とかでちゃんと返してあげられたら、お互い、いい関係になれると思いますね。