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INTERVIEW

Japanese

向井太一

2016年11月号掲載

向井太一

Interviewer:吉羽 さおり

華奢でソフトな佇まいからは想像のつかない、甘さとクールさを湛えた都会的なヴォーカルと、エクスペリメンタルな音響やビートによる先鋭的なトラックで、ソウル・ミュージックの新たな地平を切り拓くシンガー・ソングライター、向井太一。10月26日にはTOWER RECORDS限定シングル『SLOW DOWN』を、そして11月16日には2nd EP『24』をリリースする。レーベルメイトのstarRo、また若手の注目株であるyahyel、grooveman Spotなどジャンルレスな音の探求者たちとのタッグで、多彩にしてディープな作品が完成。クラブ・シーンのみならず、J-POPシーンにも深く切り込んでいける意欲作だ。

-シンガー・ソングライターというと、いわゆるギターを持って歌う人を想像してしまいますけど、まったく違いますね。バリバリのブラック・ミュージック、R&Bサウンドです。

そうですね、ゴリゴリのブラック・ミュージックです。アー写を見ただけで、弾き語りのアーティストをイメージされている方が多いんですよね(笑)。

-どういった感じで音楽を始めたんですか。

もともと音楽をやりたいという気持ちはそんなになくて。家族が音楽好きで、家でずっと音楽が流れているような家庭だったんです。その家で流れていた音楽も、家族がブラック・ミュージック好きだったので、ルーツ・レゲエやヒップホップばかりだったんです。Maxi PriestやDiana Kingとか。Maxi Priestは母親が好きで、僕がまだお腹にいたときから家で流れていたらしいです。最初は、具体的に音楽をやることは考えていなかったんですけど、自分の将来や進路を考える時期になって、自分がやりたいのは音楽だなと初めて認識して。高校は音楽系の学校で、より音楽に向けて真剣に考えるようになっていきました。

-言わば小さいころから、音楽の英才教育を受けてきたわけですね。

知らず知らずのうちにですけどね(笑)。でも音楽の専門的な高校に行ったら、歌謡曲を歌っている子もいて。それでまた新しいジャンルを取り入れられたので、そこでの出会いは大きかったですね。家にいるだけだったら、偏った音楽性になっていたと思います。

-高校時代には、自分で曲作りも始めていたんですか。

まったくやっていませんでした。高校時代はボランティアで、お祭りや病院でカバーを歌っていたんですよ。作詞作曲や制作活動を始めたのは上京してからですね。

-家族の影響もあって聴いていた音楽から、自分自身で踏み込んで掘っていった音楽はどういうものですか。

広がりだしたのは中学時代の後半からで、特に進路を決めてからが大きかったですね。もともとR&Bが好きだったので、そのあたりの音楽から始まって。でもそのころ、動画サイトで60年代の"紅白歌合戦"をよく観ていたんです。それで坂本九さんが好きになって。

-そうなんですか(笑)。

もともと、当時はモータウン・サウンドにハマッたり、ジャズを聴いたりもしていたので。その流れで坂本九さんも好きになったんです。

-たしかに当時の歌謡曲は、よりダイレクトに、アメリカならアメリカの音楽の影響が色濃いですね。

あとはヴォーカルにしても、きっと録音の機能も関係していると思うんですけど、パワーが強い人が多くて。そのうえで、"日本語で歌っている"というのが、自分にとっては面白かったんですよね。

-そこまでは日本の歌手、曲をあまり意識して聴いていなかったんですね。

もちろん聴いていたアーティストもいるんですけど、基本的にはR&Bやヒップホップを聴いていました。例えば、Crystal Kayさんとかは今でも好きなんですけど。あと、ずっと聴いているのは宇多田ヒカルさんですね。

-ソングライターとしては、どんなふうに曲作りをしていったんですか。機材を揃えて、自分でトラック作りを始めたとか。

上京したころはバンドをやっていたんです。そのときは、自分で作詞作曲をというよりも、セッションをしながら自分でリリックを書いていた感じですね。作詞作曲を完全にひとりでやりだしたのは、インディーズで1st EP『POOL』(2016年3月リリース)を出したときくらいだから、ここ1、2年くらいなんです。それまではセッションをしたり、もともとある曲にリリックを乗せたりしていて。そこから自分の作りたい音楽が明確になって、自分で作った方が早いなという理由で、最終的にシンプルに作詞作曲をしようと思ったんです。

-いきなり曲ができていくんですか?

できないですね。ベーシックなコードを押さえたものに、いいメロディを乗せて。そこで、一緒に音楽を作ってくれる人たちと肉づけしていくという方法で制作しています。今はセッションで作ったり、もともとあるトラックにメロディを乗せたり、いろんな方法で作っていますね。

-『POOL』の制作時のヴィジョンはどういうものでしたか。

バンド時代はファンクやジャズをベースにして、生音でやっていたんですけど。そのころ、FKA TWIGSが出てきたり、アンビエントとかオルタナティヴ、フィーチャーR&Bが盛り上がっていたんです。僕もそういうジャンルをよく聴いていたので、じゃあやってみるかっていう(笑)。僕自身、自分で"R&Bシンガー"とか、ジャンルでは括っていなくて。そのときそのときの自分が好きな音楽とか、いいヴァイブスを感じたら、それを自分の曲として落とし込んでいきたいというのがあって。ずっとそういう感じなんです。だから、生音でやっていたときは生音の曲ばかり聴いていました。

-10月26日には、TOWER RECORDS限定のシングル『SLOW DOWN』をリリース。この「SLOW DOWN」もビートで攻めている曲ですね。

ループ感やヒップホップの要素があって、且つメロディはロー・テンポで。今回の「SLOW DOWN」と、11月にリリースするEP『24』はトラックが無機質で、クラブ・ミュージックの要素も入れているんですけど、リリックは逆に人間っぽい、生々しい部分が出ていますね。僕の中での人間の生々しさは、幸せな部分というより、悔しさや怒り、反発する力が大きかったので。それを映し込む歌詞が多かったですね。