Japanese
爽
2019年05月号掲載
Interviewer:石角 友香
-爽さんの曲もほんとジャンルの振り幅が広くて。2曲目の「gravity」は、アレンジャーさんとどんな話をしながら最終形になっていったんでしょうか。
ギター・ロックの中にピアノを際立たせたいんだけど、ピアノの割合が多くなるとどうしてもピアノ・ロックに聴こえてしまうから、そのバランスだけはしつこく話し合いました。それと、私が高校生ぐらいのときにRADWIMPSとか邦楽のロック・バンドが盛り上がって、よく音楽雑誌とかも端から端までいろんなバンドを見たりしてて。私たちの上ぐらいの世代からフェスがどんどん加速していってるんですね。そういう"私が学生時代の頃の音楽の空気感、疾走感があって、擦り切れそうだけど、すごく高揚することができる楽曲にしたい"って言って。それぐらいの年代の曲をいっぱい聴いて、こういう音にしたいとかは言ってましたね。あとは、ミックスをしてくれたエンジニアの人も、"こういうエフェクトをかけてみて"っていうのを当日言ってくれたりして、それもいいスパイスになってます。その3人で、音楽好きのキッズみたいに楽しみながら制作したっていうのは思い出深いです(笑)。
-そして3曲目の「BLUE」はアルバム『FEARLESS』の雰囲気と近いと思って。自然と出てくるのはこういう感じの曲なのかな? と。
あぁ、ほんとにそうです。「BLUE」って曲は、ちょっとだけライヴとかを控えてた時期が半年ぐらいあったんですけど、そのあと復帰したときに弾き語りのCD(2017年に会場/店舗限定でリリースしたミニ・アルバム『pray』)を自主で1枚作ってて、その中に収録されてた曲なんですよ。なので、他の2曲と違って、ただ自分の言いたいことと、自分の作りたい音だけで作ってる感じかもしれない。
-でも共通してるのは、先ほどもおっしゃっていたように自分ごとより、人に向けての内容なのかなと。
誰かに向けて書いてる曲の方が、最近は特に多いかもしれないです。規模を問わず、やっぱり役に立ちたいなって気持ちが大きいですね。せっかく何かを作るというのをやれているから。自分ひとりだけがハッピーになりたいわけじゃないし、そういうのはすごく考えてるかもしれないです。
-それを実感する場所はライヴだと思うんですが、最近は慣れてきましたか?
そうですね(笑)、最近は慣れてきました。慣れてきたし、それこそ誰かに伝えたいって気持ちをしっかり持てるようになってからは、一個一個のライヴがすごくかけがえのないことだなと思うようになって。目の前にいるお客さんの、こっちを見てるときの表情がすごく好きになって、ライヴをだいぶ好きになりました(笑)。
-エンターテイメントが好きでステージに立ってる人もいるけど、爽さんの場合は物作りがまずあり、人前で歌うことがあとからついてきた?
そうですね。自分の納得いくもので音楽が一番好きだから音楽をやっているけど、音楽以外のものとかも巻き込んでアートとしてやっていけたらなっていうのは思います。
-舞台とかも好きですか?
舞台は数回ぐらいしか観てないですけど、インディーズ映画とかが好きで。映像は好きです。
-映画はどういう質感のものが好きですか?
私、音楽もそうなんですけど、作品単体とか曲単体で好きになっちゃうので"この人が好き"っていうのはないんですが、原点は、"ライフ・イズ・ビューティフル"っていう昔の戦争映画とか、"ショーシャンクの空に"とか。一筋縄でいかなかったり、こちら側が考えなければいけない余韻を残すものがすごく好きで。っていうのも、すごくリアルだなと思うんですよね。映画ならではのダイナミックな展開とか、びっくりするバッドエンドもハッピーエンドも、フィクションとして作ればいろいろ作れるんでしょうけど、どちらかというと時の流れとか主人公の心模様とかがリアルなものの方が、私はすごくすっと入ってしまうんです。"アリー/ スター誕生"もアメリカに行ってるときに観たんですけど、結構テンポが遅い映画なので私の周りでは好き嫌いが分かれてたんですよ。でも特別な事件が起こらなくても、その人にとっては日々の中ですごくつらいことがあったり、耐えきれない感情があったりするっていうのは、すごく普通のことだなと思うから、そういう題材のものばかり観ちゃうんですね。
-自分で考えたことによって、自分の頭の中に"考えた"って事実と手応えが残りますからね。
音楽もそういう余白のあるもの――"背中は押せるけど、考えるのはリスナー"って切り離してるものの方が好きだし、私もそういうものを作りたいなっていうのはありますね。
-ところで、来年上京するんですね。
来年上京してみます。今年からは元号も変わっちゃうし、大きな渦が起こりそうな気はしてるので、一生東京に住みたいとかは思わないけれど、自分も大きく動いていくタイミングかなと。『FEARLESS』をリリースしたあと1ヶ月アメリカに行ったときに、そういうことをすごく感じて。もっと自分がアクションを起こすことで得られるかもしれない経験を、掴みに行きたいなって気持ちで東京に行きます。
-ちなみにアメリカはなんの目的で?
私、もともとロスの西海岸のヒップホップやR&Bがすごく好きで、よく聴くアーティストがみんなロス出身っていうのがあって。で、KIMBRAっていうニュージーランド出身のシンガー・ソングライターがいるんですけど、彼女が初来日した公演を、札幌からBillboard Live TOKYOまで飛行機を取って観に行ったんです。素晴らしくて感動したんですけど、日本人みんなが知ってるようなアーティストじゃないし、自分が想像してたものと会場の空気感が全然違って、なんか悲しくなっちゃったんですね。"なんでこんなに素晴らしいのに誰も熱狂しないんだろう?"って。
-申し訳なさを感じますよね。
いやー、ほんとに。で、彼女のパフォーマンスも、ホームでやってるときの方がいいものを観られるんじゃないかなと思って、そのライヴの帰り道に"海外でライヴ観たい"と考えて、1年間お金貯めて、それで行きました。
-すごい。
で、KIMBRAもロスで観れたんですごく良かったです。まぁ、私はもともとロスの音楽とか文化に興味があるっていうのもあったけど、実際に見て素晴らしさもいっぱい体感してきたし、日本に帰って来て"頑張れることってまだまだあるな"っていうのを感じたんですね。そういうことをいろいろ考えてたときに"上京する"っていうワードも出てきました。だからアメリカに行ったのは大きいですね。
-アメリカにひとりで行ったんなら東京は大丈夫ですよ。
過度な期待も持っていないので。ただ自分のやりたいことを実現するために自分の頭と手と足を使って、最短ルートでやれるように努力するっていう思考回路だから、今は早く動きたいし、早く東京に行っていろんなことを感じたいっていう気持ちの方が大きいですね。あんまり寂しいって感情もないし、いい気持ちで行ける年齢になったのかなと思います。
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