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INTERVIEW

Japanese

岩ヰフミト

2017年07月号掲載

岩ヰフミト

Interviewer:秦 理絵

-純粋に音として音楽が持っているパワーだけじゃなくて、そこに負荷する想いが曲を強くする。いま岩ヰさんはそういう音楽を求めてるのかなって思いました。

たしかに自分が音楽の世界を若干窮屈に感じたのもそこなんだと思うんですよね。もっと掛け算をしたいんですよ。新しいアイディアをゼロから生み出すこと――いわゆるゼロからイチって言われるものと、そのイチを100にしたり1,000にしたりする部分があると思うんですけど、僕はずっとイチから100を作る方が得意だって思ってて。だからゼロとイチを作る人との掛け算をしたがってるんですよね。今回も友達が動機になって曲を作ったんですけど、曲を作る前にインタビューをしたんです。

-それは面白いですね。

その出会いとかプロポーズまでの出来事を聞いて曲にしたんです。お母さんに曲をプレゼントするってなったときも、お母さんの思い出を聞いたりしたし。それがゼロからイチになって、掛け算になるっていうことだと思います。だからこのエグサポもたぶんゼロからイチをお客さんに作ってもらって、それを自分で大きくしていくっていうことなんですよね。......うん、いま自分の中で整理できた気がしますね。

-だから単にクラウドファンディングが流行ってるからやるわけじゃないんですよね。

これも最近思ってたことなんですけど、iTunesとかで曲が1曲150円で売ってるじゃないですか。Apple Musicでは980円で聴き放題ですよね。それ自体を否定するわけではないんですよ。むしろ"ヒットの崩壊"っていう柴(那典)さんの本を読んだときにCDは売れなくなってるけど、音楽産業自体は膨れ上がってるって書いてあって。めちゃくちゃ夢のある話だからどんどん広がっていけばいいと思うんですけど。でも、それと同時に1曲の価値を考えてしまうんですよね。さっきの付加価値の話と繋がりますけど。150円は自動販売機のジュースと同じ値段だし、シングル1曲はランチの値段と一緒だし、みたいなものに疑問もあって。音楽っていうのはアーティストとリスナーの関係によって価値が違うじゃないですか。その間にあるのはストーリーだから。それが俺はクラウドファンディングの良いところだなと思うんです。僕とあなたの関係のなかで音楽の価値はどれぐらい? っていう。そのために面白いストーリーを作っていきたいと思うんです。

-ぶっちゃけるとミュージシャンにとって1曲150円はどうなんですか? 安い?

......安いですね。150円だけの想いではないような気がする。でも、だからと言って150円で出したくないわけじゃないんですよ。

-みんなが聴きやすい値段であることも大事ですからね。

音楽自体がビジネスだっていうふうに思ったときにその金額なんですよね。さっき本当に気づかせてもらったんですけど、僕は音楽だけじゃなくて、その周りにある付加価値みたいなものを探してるんだろうなって。それと一緒で、アーティストとファンの関係は音楽だけじゃないと思うから、それ以外のいろいろな価値をライヴとかで作っていきたい。そのうえで1曲150円っていう価値に統一されてるだけなんだと思います。

-なるほど。今回エグサポで用意されてるリターンもユニークですよね。

これはチームで考えましたね。

-支援者のために曲を作るっていうのもありますけど。

これは......誰が提案したとかを言う必要はないかもしれないけど、僕がやりたいって言ったんです。もともと曲をプレゼントするのが好きなので。中学のときとか曲を作ってプレゼントすると、恥ずかしいことだと思われるじゃないですか。

-黒歴史になってる人もいますよね(笑)。

それは自分の想いだけをぶつけるからだと思うんですよね。でも僕は自分の想いじゃなくて、お互いにとっての最大の価値になるような曲を書きたいなと思ってて。

-そうなると、さっきの親友みたいにインタビューもしないと。

あぁ、そうですよね。その人にとって一番機能する曲にしたいですね。

-曲はガチで作るんですか? その完成度という部分では。

ガチで作りますよ。もともと僕は家でレコーディングもミックスもするので。ちょっと弾き語りで作ったのを録音して、じゃないですね。ちゃんとその人の日常で聴けるものにしたいから。俺、このシステムが面白いと思うのが、普通は誰かもわからない人にリリースするわけじゃないですか。でもこれは誰に届けるか明確にできるんですよ。ファンとミュージシャンの関係を作る新しいかたちだなと思います。僕はずっと誰に向かって活動をしているのか疑問に思うことがあって。一昨年、僕らが自主レーベルを立ち上げるきっかけになった["In Bloom" Tour]っていうワンマン・ツアーがあったんですけど、そこにいたお客さんは自分が想像していたのとは全然違ったんですよ。お客さんは俺の根本的なところに魅力を感じてるんだなって思ったんですよね。

-それまでFOLKSのライヴにはどんなお客さんが多いと思ってたんですか?

もっと"オシャレな音楽聴いてます"みたいな人たちが来ると思ってたんです。自分もかっこつけてたから、そういうお客さんに来てほしいと思ってたし。洋楽好きで、みたいな。でも、そんな僕の考えも見透かされてたんだろうなって思うぐらい、もっと深いところで響いてくれてたんです。それがすごく嬉しくて、1対1でちゃんと繋がりたいっていう意味で「クロマキードーナッツ」(2016年リリースの両A面シングル表題曲)っていう曲を書いたんです。僕から君へ、君から彼へ、彼から彼女へ、彼女から僕たちへ伝染していくような感じで、ひとりに対して強く響くような表現をしたいと思った。それがいまに繋がってるんですよね。