Japanese
HAMMER EGG vol.7
Skream! マガジン 2017年10月号掲載
2017.08.25 @渋谷eggman
Writer 沖 さやこ
Skream!、TOWER RECORDS、新人やインディーズの支援を行う音楽プラットフォームEggsがタッグを組み、次世代のアーティストをサポートするライヴ・イベント"HAMMER EGG"。第7回となる今回はircleを慕うバンドが多く、加えてWOMCADOLEとLOCAL CONNECTは滋賀に京都と地元が近く親交も深い先輩後輩同士ということもあり、開場前はかなり和気あいあいとした雰囲気だった。だが、本番となれば話は別。それぞれが自分たちのライヴに誇りを持ち、時には他出演者に噛みつく場面もあった。その本気度の高さからも、出演バンド全員の今後の活動にも刺激をもたらした1日になったのではないだろうか。
kobore

オープニング・アクトに抜擢されたのは府中出身の4人組・kobore。"ビクターロック祭り2017"の出演権をかけたオーディションでグランプリを獲得するなど注目を集めている。この日は初の全国流通盤をリリースする直前というタイミングもあってか、バンドの気合も十分すぎるくらいだった。メンバー全員がドラムの前に集まり小指を繋いで気合入れをすると、「涙のあと」でスケールの大きな、エネルギッシュでゆとりのある音を鳴らす。正統派ギター・ロックかと思いきや、リズム隊、特にドラムにはオルタナやポスト・ハードコアの持つ破壊力的な要素があるところがいいアクセントになっていた。歌詞の内容がフィーチャーされた音作りの「幸せ」、ミディアム・ナンバー「ヨル ノ カタスミ」を披露し、"eggmanに言いたいことがあって来ました"という口上のあとには"ありがとう"と"愛してる"という言葉がシンボリックな「当たり前の日々に」を届ける。これまで積み上げた経験を20分に凝縮したステージだった。
The Floor

メイン・アクトのトップバッターを務めたのはThe Floor。ササキハヤト(Vo/Gt)の"このフロアを世界一ハッピーな空間にしに来ました"という掛け声から「Wannabe」で軽快且つ骨太な音を繰り出していく。4人全員の演奏力が格段に増したことで、地に足のついた音になり、音の粒立ちの良さが際立つことでアンサンブルにもさらに心地よさが生まれていた。懸命に演奏し、歌う姿からも彼らの音楽への愛や、根にある真面目さが伝わってくる。「Cheers With You」はミヤシタヨウジ(Ba)のメロディアスな低音が作るしなやかなグルーヴが非常に頼もしく、アウトロの永田涼司(Gt)の透明感と高揚感のあるギターは、青空に浮かぶ飛行機雲のように美しかった。
永田はMCで"見放題2017"にて行ったircleのコピー・バンド"ircle大好き芸人"でギターを弾いたエピソードを明かし、ircleとの初対バンへの喜びを露わにする。そのあとササキが"僕たちはみなさんに会いたくてライヴをしています。いつかまたどこかで会いましょう"と語り「内緒話」へ。彼らの持つエモーショナルな部分が繊細且つダイナミックに響き、間奏のコウタロウ(Dr)のドラミングと永田のギター・ソロも雄大だった。The Floorは熱い心意気をぶつけることも、フロアを笑顔にするハッピーな空間を作ることもできる。その精度が上がれば上がるほど面白いライヴができるバンドになるのではないだろうか。
LOCAL CONNECT

壮大なSEをバックにメンバーがひとりひとり入場したのはLOCAL CONNECT。ISATO(Vo)がマイクを通さず"eggmanついてこいや!"と叫ぶなど、演奏前からすでに臨戦態勢だ。「スターライト」からISATOとDaiki(Vo/Gt)の体幹のしっかりした圧倒的な歌唱力が存在感を放つ。彼らふたりの歌の脇を固めるような楽器隊の演奏には隙がなく、なのに殺気立った気配もなく、ただただ無邪気で楽しそうという生き生きしたコンビネーションだ。ISATOはピン・ヴォーカルとしての華を持ち、メイン・ソングライターのDaikiは自分が作った歌をISATOに託し、それをサポートしているようにも見える。この独特のグルーヴと結束は、5人の仲の良さが不可欠なのだろう。「優シイ人」はISATOとDaikiの熱い歌声にハーモニーを作るような楽器隊の演奏も胸に迫るものがあった。
MCではISATOが事前に行われた4バンドのフロントマン座談会に触れる。"バンドに対する真剣な熱い想いがばんばん飛び交うなか、俺はかしこまった場所が苦手な(WOMCADOLEの)樋口(侑希)がちゃんと喋れるのか心配で(笑)。あいつはフィーリング男なので、あいつと対談するときはちゃんと現場に行こうと決めました"と話すと観客からも笑いが起きた。あの座談会がきっかけでこの日のライヴに対するイメージが湧いたと語るISATOは"ここには5バンドのファンが集まっているわけで。全員が最高やと思ってくれるライヴを心掛けたい"と堂々と告げる。ラストの「コスモループ」は全力を振り絞るような熱演で、優しい笑みを浮かべながら歌詞を口ずさむ楽器隊の姿もあたたかい。"1ミリも手を抜きません"の言葉に偽りなし。彼らの心が隅々にまで溢れたステージだった。
WOMCADOLE

ARCTIC MONKEYSの「Brianstorm」をSEに登場したWOMCADOLE。樋口(侑希/Vo/Gt)はギターを抱えると、自分の首元にペットボトルの水をかけだした。SEを切り裂くように4人が一斉に爆音を轟かす。殺気立った鋭利な音は、4人が互いを罵りながらもタッグを組んで、見えない大きな敵に中指を立てるようだ。黒野滉大(Ba)は軽妙な身のこなしで優雅な低音を奏で、安田吉希(Dr)は客席もメンバーも挑発するように強靭な音を繰り出す。特に安田は目も常人のそれではなく、血走り方がヤバい。樋口の咆哮、それに引けを取らない攻撃性の高い古澤徳之(Gt/Cho)のギターと、4人とも蹴散らす、ぶっ潰すと言わんばかりの振る舞い。演奏というよりは4人の鬼が本能的に暴れまわっているようにしか見えない。これが彼らなりの、他バンドに対する敬意の表し方なのだろう。とにかく痛快で豪快だ。静と動を生かした音作りの「69」はギミックが効いたアプローチに。「アオキハルヘ」は血を噴き出しながら火花を散らして疾走するような躍動が、感傷的であり非常に頼もしくもあった。 ギターを弾きながら、"そうです、俺は喋るのが苦手です。ろくなことが言えねぇんだよ" 、"俺ら風情が、あんな会議室で何を伝えられる"と話し出す樋口。先のISATOのMCを受けたもののようだ。"生ぬるい場所じゃねぇぞ、ここは。あんたたちが生きていることを、最後俺たちと勝負してほしい"。彼はそう言って最後に「アルク」を歌い出した。瞬間、瞬間に湧き上がる気持ちで節回しを変える樋口に、ドラムのみならず絶叫して感情を吐き出す安田。つんのめる演奏も生々しくいびつで美しい。命を突きつける音像に奮える30分だった。
ircle

"バキバキで締めくくろうと思ってるけど、覚悟の方はよろしいでしょうか!?"と河内健悟(Vo/Gt)が叫び、「呼吸を忘れて」で幕を開けたircleのステージは、キャリアも相まって貫禄があるサウンドスケープ。と思いきやそれは助走だったのか。「バタフライ」からメンバー全員が衝動的に音を繰り出し、その温度はどんどん沸騰していくことがわかった。それはircleが他の出演バンドを一切ナメていない証であることはもちろん、先輩バンドとしての意地だろうか。いや、先輩後輩関係なく、体当たりで真剣勝負を挑んでいただけだったのかもしれない。噛みつくような側面もあれば、余裕さも感じさせるという、キャリアを総動員させたアクトはとにかくとても眩しい。
2曲終えた河内はすでに息が上がっている様子。"全開でいくんで最後まで受け取ってください"という言葉のとおり、彼はこの日ひと際感情を剥き出しにしていた。新曲「瞬」は特にその"青いモード"が如実に反映された曲で、いまこの瞬間のために命を燃やすような渾身の演奏だった。今年30代になる彼らがいまもこれだけ青くいることはとても美しくもあり希望だ。加えていまの彼らが放つ青は、様々な色や経験を含んだうえで成り立つもの。"全然ロック・スターでもないし、かっこ悪くてもいいし、ヒーローでなくてもいい。全部抱えてどこまでも走り続ける"という覚悟を決めたということは、どこまでも自分を磨き続けるということだろう。ゴールがない彼らは生涯青春なのだ。「セブンティーン」の絶唱と白熱の演奏はその宣言のようでもあった。アンコールは彼らの歴史を支える曲のひとつである「本当の事」。終盤、ギターを下ろしてマイクを手に持ち、柵に上って叫びながら歌う河内の姿は、傷だらけながらにまだ見ぬ日々へと勇敢に立ち向かう、まさしくヒーローだった。この日の締めくくりに相応しい熱量に、しばらく拍手は鳴り止まなかった。
[Setlist]
■kobore
1. 涙のあと
2. 幸せ
3. ヨル ノ カタスミ
4. 当たり前の日々に
■The Floor
1. Wannabe
2. ハイ&ロー
3. Cheers With You
4. 内緒話
5.リップサービス
6.ノンフィクション
■LOCAL CONNECT
1. スターライト
2. Gold
3. Power Song
4. 優シイ人
5. コスモループ
■WOMCADOLE
1. ドア
2. 人間なんです
3. 69
4. 夜明け前に
5. アオキハルへ
6. アルク
■ircle
1. 呼吸を忘れて
2. バタフライ
3. 瞬
4. 光の向こうへ
5. セブンティーン
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