Japanese
HAMMER EGG vol.6
Skream! マガジン 2017年07月号掲載
2017.05.31 @渋谷eggman
Writer 秦 理絵
フリーマガジン&WEBにて展開するクロスメディア"Skream!"とCDショップ"TOWER RECORDS"、新人・インディーズ活動支援を行う音楽プラットフォーム"Eggs"がタッグを組み、次世代のアーティストをサポートするイベント"HAMMER EGG"の第6回が渋谷eggmanで行われた。今回そのステージに立ったのはウソツキ、ココロオークション、THURSDAY'S YOUTH(ex-Suck a Stew Dry)という、メロディと歌詞に絶対的なアイデンティティを掲げる3バンドだった。ゆえにフロアのムードも穏やか。もちろんバンドがハンドクラップで煽ったり、お客さんが思い思いに手を上げる場面もあったが、基本はその歌にじっと耳を傾けて、いずれも"歌モノ"と呼ばれながら、三者三様に異なる輝きを持つバンドの世界に酔いしれる時間だった。
ザ・モアイズユー
![](https://skream.jp/livereport/2017/06/img/hammer_egg_vol6_1.jpg)
メイン・アクトの3組に先駆けて、オープニング・アクトとして大阪発の3ピース・バンド、ザ・モアイズユーが登場した。"まずは挨拶代わりに旅立ちの歌を聴いてくれ!"。純朴そうな風貌の本多真央(Vo/Gt)の声を合図に軽快なスネアのリズムに乗せた新曲からライヴはスタート。飾らない言葉で大切な人への想いを届けた「君がいれば」、夏の夜の甘酸っぱい思い出を綴ったミディアム・バラード「花火」と、そのセンチメンタルなメロディに否応なく惹き寄せられてしまう。MCでは本多が"オープニング・アクトという名目だけど、前座をやりに来たつもりはありません。今日出てるバンドと俺らは思ってることは一緒です。歌の力を、言葉の力を信じてます"と力強く言うと、前のめりな姿勢で未来へと駆け抜ける「光の先には」で締めくくったザ・モアイズユー。決して奇をてらわないストレートなバンド・サウンドだが、その枠からぶわっと想いがはみ出すような本多の歌唱が熱かった。
ウソツキ
![](https://skream.jp/livereport/2017/06/img/hammer_egg_vol6_2.jpg)
ザ・モアイズユーのあとに登場したウソツキは、静まり返った会場にギターのカッティングをぽつんと落として「惑星TOKYO」から幕を開けた。淡々としたビートにスペイシーな音色を絡ませながら、まるで自分はこの地球上ではエイリアンのようだと綴る切ないフレーズ。軽やかなサウンドがフロアを一気にウソツキの色へと染め上げた。自ら正直に"ウソツキ"を名乗り、人との距離感を掴むのが苦手な捻くれ者の孤独を歌いながらも、竹田昌和(Gt/Vo)はステージの上では"ついてこいよ、抱きしめてやるからさ"なんてキザなセリフを投げ掛ける。なんだろう、このギャップは。竹田による"決して嘘をつかないバンド、ウソツキが銀河鉄道に乗ってやってきました"という彼らのお決まりの挨拶から、集まったお客さんが恥ずかしがらずにライヴに参加できるような仕掛けを持つ「旗揚げ運動」では、吉田健二(Gt)が率先してフロアを盛り上げていた。海外の最先端のポップ・ミュージックを意識してキラキラとしたシーケンスを多用した楽曲は、メロディアスでありながら、自然と身体を動かしたくなるようなビートが心地いい。心と身体を刺激する楽曲の中で、特に印象的だったのは後半に差し掛かって披露された「本当のこと」だった。"言いたいことは、俺はまだまだ音楽をやっていきたい、これだけです。いつもかっこつけて生きてきたけど、本音の歌を"。そう言って、まるで自分の内側から絞り出すように"嫌いな自分を愛せたら"と綴った竹田の素っ裸な本音の歌を歌った。続けて届けたバラード曲「ハッピーエンドは来なくていい」でも、フロアのお客さんはじっとステージを見つめて歌に聴き入っていた。この日のライヴではそういう瞬間がこのあとも何度もあった。歌モノ対バンならではの穏やかな会場のムード。その空気感を決めたのがトップバッターのウソツキだった。
THURSDAY'S YOUTH
![](https://skream.jp/livereport/2017/06/img/hammer_egg_vol6_3.jpg)
女性ヴォーカルのかわいらしいSEに乗せてステージに姿を現したTHURSDAY'S YOUTH。昨年12月にフセタツアキ(Gt)が脱退したことで活動休止していたSuck a Stew Dryが改名して4人で再始動したバンドだ。この時点で彼らが新しい名義で開催していたライヴはまだ数えるほどで、楽曲としては「さよなら」、「はなやぐロックスター」という曲がYouTubeで聴けるだけとあって、THURSDAY'S YOUTHがどんなライヴを見せるのか注目が集まるなかでのステージだった。1曲目はその新曲「さよなら」。暗めのトーンで篠山浩生(Vo/Gt)が紡ぎ出すメロディ。陰りを帯びたバンド・サウンド。まるで過去と決別するように繰り返される"さよなら"というフレーズ。それがTHURSDAY'S YOUTHの音だった。そしてロック・スターへの憧れを抱きながら、それを凌駕する劣等感を剥き出しにした「はなやぐロックスター」へ。これら2曲は6月7日リリースの1st EP『さよなら、はなやぐロックスター』に収録されたが、この日このあとに披露された楽曲はすべてが未発表曲。ファンキーで躍動感のあるサウンドを聴かせた「新曲(タイトル未定)」、妖しげでスリリングな香りが漂うマイナー調の「新曲(タイトル未定)」、ジャジーなビートが弾んだ「新曲(タイトル未定)」。篠山が綴るネガティヴな歌詞をあえてポップに包み込んでいたSuck a Stew Dry時代とは異なり、ブラック・ミュージックのテイストを色濃く感じさせながら、歌詞とサウンドにより強い一体感を持たせたのがTHURSDAY'S YOUTHの音楽だろうか......いや、1回のライヴでそんなふうに言い切るのは早計かもしれない。MCで篠山が"花がきれいだと思うのは人間だけなのかなと思いました。だから命あってのことだなと。そんな歌です"と紹介して届けた「花と命」には、美しい色彩に包み込まれるような多幸感が溢れていた。MCで篠山は、"表現をすることは恥ずかしいことだと思う。これからも恥を晒して音楽をやり続けたい"と言っていた。まだまだ始まったばかりのTHURSDAY'S YOUTHの新たな物語。その夜明けのエネルギーを見る貴重なステージだった。
ココロオークション
![](https://skream.jp/livereport/2017/06/img/hammer_egg_vol6_4.jpg)
予想していた以上にメロディと言葉、それらが織り成す歌の力に心を揺さぶられる場面の連続だったこの日のイベントのトリを任されたのは、関西から招かれたココロオークションだ。‟最後ですよ、楽しむ準備はできてますよね?"という粟子真行(Vo/Gt)の言葉を合図に、アップテンポな「ヘッドフォントリガー」でライヴは煌びやかにスタートした。渋谷の地下にあるライヴハウス。その無骨な天井に満天の星空を描き出すような「星座線」では、フロアのお客さんが一斉に頭上高くへと手を上げて、その音楽と一体になっていく。‟守りたいものがここにある"と添えてから力強く歌い上げた「ここに在る」や、"自分だけに見える目的地"へ向かおうと鼓舞する「フライサイト」。どこまでもまっすぐで一生懸命な歌の訴求力で聴き手の懐へとスッと入り込んでいく。それがココロオークションの大きな魅力だ。MCで粟子は"言葉が歌に乗って心を震わせる瞬間を作っていきたい"と、自分たちの鳴らす音楽に対する誇りを滲ませながら語り掛けた。そしてアンコールでは、"この時代に言葉を大事にして闘っているバンドと一緒に出られて嬉しいです。もっとこの勢力を強くしていきましょう(笑)"とも言った。もしかしたら、フェスを始めとするロック・シーンでは依然としていわゆる"踊れるバンド"の人気が根強い傾向があることを意識した発言かもしれない。そんなふうに胸の奥に燃やす熱い想いも吐露しながら、ラストを「夢の在り処」で締めくくったココロオークション。"また逢えるのなら夢の先で会いましょう"と、心躍るビートに乗せて届けたのは、彼ららしい誠実で優しい約束の歌だった。
[Setlist]
■ザ・モアイズユー
1. 新曲
2. 君がいれば
3. 花火
4. 光の先には
■ウソツキ
1. 惑星TOKYO
2. 夢のレシピ
3. 旗揚げ運動
4. 一生分のラブレター
5. 本当のこと
6. ハッピーエンドは来なくていい
7. 新木場発、銀河鉄道
■THURSDAY'S YOUTH
1. さよなら
2. はなやぐロックスター
3. 新曲(タイトル未定)
4. 新曲(タイトル未定)
5. 新曲(タイトル未定)
6. 花と命
7. ぼくの失敗
■ココロオークション
1. ヘッドフォントリガー
2. 星座線
3. M.A.P.
4. ここに在る
5. フライサイト
6. 線香花火
7. 蝉時雨
en1. 夢の在り処
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