Japanese
The Floor
2019年12月号掲載
Member:ササキハヤト(Vo/Gt) ミヤシタヨウジ(Ba) コウタロウ(Dr)
Interviewer:沖 さやこ
2019年6月のワンマン・ツアーをもってメイン・ソングライターの永田涼司が脱退し、残った3人で新体制として動き出したThe Floorが、8曲入りの2ndアルバム『nest』を完成させた。3人全員が作詞作曲を担当したことで、よりバラエティ豊かになった楽曲たちに、各々の人柄がじっくりと滲む。手探りの期間は長かったようだが、その甲斐あり見いだした新しいメソッドは、現在の彼らに大いなる自信をもたらした。The Floorの作り出した新しい原点は、今後彼らをより羽ばたかせるだろう。
-新体制始動から約半年で新作リリース。これだけ早い段階で新作が聴けると思いませんでした。
ミヤシタ:えっ、そうですか。僕らとしてはめちゃくちゃ時間がかかっちゃったなと思って。
ササキ:メインで曲作りをしていた永田(涼司)が抜けて、どうやっていくべきかすごく悩んで。だから、デモに対してまずアリかナシか決めるのではなく、"まずは3人で育ててみようよ"と手探りのなかで始めたんです。僕も慣れない打ち込みを始めてみたりして、3人で曲作りを進めていくも、これだ! と思うものがなかなかできない状態が結構長く続いていて......最初はかなり難しかったです。でもリード曲の「Candy」ができて、"じゃあ、あとは好きな曲を作ろうか"というモードになってからは早かったですね。自由に自分たちの好きな曲を作っていったら、あれもいいじゃん、これもいいじゃんって。
コウタロウ:そしたらアルバムに溢れるくらい曲ができて――そういう経験はバンドを始めてから初めてだったんです。リード曲ができたことで、自由になれたのかな(笑)。
ササキ:曲がなかなか作れない期間が続いたけど、その経験があって"自分たちのいいと思う曲はこうやったら作れるんだ"というものをひとつ掴めた感覚がありますね。しっかりと一歩進めた感覚があります。
-『nest』の楽曲は3人全員が作詞作曲をしていて、ソングライターそれぞれのキャラクターも出ているだけでなく、気持ちも素直に出ていると思いました。ポップ・センスはありながらも、明るさも暗さもどちらも内包しているから。
ササキ:最初作る曲全部暗かったんです(笑)。"こんなに明るい曲書けないんだ!"ってびっくりしました(笑)。
ミヤシタ:でも、カラッと明るい曲が出てこないっていうのは、自分たちがそういうモードだということですよね(笑)。
コウタロウ:それで"無理してもしょうがない。今できるものを作っていこう"って。僕らは永田ほどの知識や技術がないから、"こういう曲を作ろう"と考えられた音を出すというよりは、今その場で湧き起こる感情をストレートに出すようになりました。こねくり回したりせず、スタジオでパッと合わせて"いいね!"と思うものを作っていった。今の僕たちが自然と出せたものになったと思います。
-そうですね。正式なギタリストがいないからこそギターを大胆に抜いた曲作りができるし、サポート・ギタリストのタナカ・ターナ(或るミイ)さんの、ギター・ヒーロー感を生かした曲作りもできるという選択肢の多い環境も、おっしゃっていた"その場で湧き起こる感情"を表現しやすいのかなと。
ササキ:アレンジは僕らで基本を組んだあと、スタジオでタナカさんと合わせるときに、タナカさんが僕らでは考えつかないようなリフを出してくれたり、いろいろ意見をくれたりして。"こういうコード・ワークもアリなんだ"とか"ここでブレイクするって考え方もあるのか!"と驚くこともたくさんあって勉強になりましたね。よりいいものになりました。
コウタロウ:サポートという立場だからこそ、タナカさんは第三者目線でいろいろ意見をくれるし、僕らもその意見を素直に聞けるというか。アレンジ面でもライヴ面でも、タナカさんの存在はかなり大きいですね。
ササキ:一緒に弾く人がひとりでも変わると、精神性もすごく変わりますね。タナカさんはすごくバイタリティに溢れていて、野心の強いタイプの人だから。
-新体制直後のThe Floorのライヴを観た人から、"サポート・ギタリストがバンドを引っ張ってるように見える"と聞いていたので、最近はどうなのかな? と思っていたんですけど(笑)。
ミヤシタ:それは心外ですね(笑)。タナカさんはもともとめちゃくちゃ動き回るプレイ・スタイルだから、それに触発されるのはすごく癪なので(笑)、俺は逆にどっしり構えるようにしています。
コウタロウ:ヨウジはタナカさんみたいなタイプじゃないしね。俺は結構触発されてるかな? タナカさんは振り切ってるから僕も思いっ切りやれるし、見ていて楽しいです。それもライヴの醍醐味かなと思いますね。
ササキ:ライヴ中に自分の後ろでタナカさんの"うお~!!"って奇声が聞こえるんで、笑いそうになっちゃうんですよ(笑)。テンション上がるからいいんですけど(笑)。先輩だから知っていることも多いし、すごく刺激にもなっています。タナカさんのすごさはわかっているうえで、負けるのは癪なので(笑)、素直に我を出してぶつかり合うことでどんどんライヴが良くなっていってると思いますね。
-お話をうかがっていると、『nest』はまさにバンドを再構築するという巣作りの中で生まれた作品なんだなと。
ササキ:そうですね、まさに。ひとまず巣を作ることができた。飛び立つ準備ができました。
-そう、『nest』はまだ飛び立ってないんですよね。"いい巣ができました"という提示的な作品だと思います。
コウタロウ:"nest"には"巣"という意味以外に"居心地の良さ"という意味もあって。この『nest』が聴く人たちの居心地のいい場所になってほしいという意味もありますし、僕たちにとっての原点となる場所になったらいいなという想いも込めています。2枚目のアルバムとはいえ、すごく初期衝動に溢れてると思いますし――僕らにとっては1stアルバムみたいなものなので。
ササキ:3人それぞれの色が出たアルバムなのも面白いなって。自分の作った曲がバンドの手によってどんどんかたちになっていくのも嬉しかったし、ほかのメンバーが出してくる曲も"これいいな。かたちにしたい!"と思えるものだったし、もっともっといい作品にしたいなと思った。永田の役割を担わなければいけなくなったという状況が、メンバー全員を奮い立たせてくれたし、自分たちを表現することで再出発ができたんです。納得がいく1枚になったと思います。
コウタロウ:やっぱりこれまでは、永田の作る曲に対して言葉を乗せてきたという意味が大きかったんだと思います。0から100まで作るにあたって、音も飽和感のあるものにしたくて。例えば「砂の山」はドラムもベースもリフも重ねて、枠に収まりきらないサウンド感を表現したかったんです。RIDEのめちゃくちゃ歪んでる曲がかっこいいなと思って、マスタリングでも"キャパ超えるくらい歪ませてください"ってお願いもして。
-日本のメジャー・シーンでこういう音作りはなかなか斬新だなと。
コウタロウ:僕も"ここまでやっていいんだ"と驚きました(笑)。
ササキ:どんどんやっていこうよ(笑)! いいと思うものをやっていけばいい! もちろんいいと思ってもらえたら嬉しいけど、そう思われなかったとしても自分たちが気に入っていればそれでいい――今そういうマインドなんですよ。だからこのアルバム、何回でも聴けるんです。
コウタロウ:そうだね。レコーディングがすごく楽しかった。何回聴いても"いいなぁ"って思うんですよね......。どの曲に対してもそう思えてて。
-やっぱりそれは、自分たちの気持ちや現状がそのまま音楽になっていて、そんな自分の分身のような楽曲たちが、自分たちがかっこいいと思うものになっているからでしょうね。
ササキ:うん。まさにそうですね。
コウタロウ:それと、「砂の山」はもともとギターを入れるつもりはなかったんですけど、タナカさんに試しに入れてもらったらすごく良くなったんです。タナカさんのおかげで自分が作った曲が予想だにしない化け方をしたことも、すごく嬉しいんですよね。
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