Japanese
WOMCADOLE
Skream! マガジン 2018年08月号掲載
2018.07.03 @LIQUIDROOM ebisu
Writer 沖 さやこ
WOMCADOLEの東京でのワンマン・ライヴは、今年1月のフロア・ライヴを除けば昨年5月の下北沢SHELTERぶり。シングル『アオキハルヘ』とフル・アルバム『今宵零時、その方角へ』を制作し、日常的にライヴをし続けた彼らは、SHELTERからキャパシティを3倍強にして単身東京へと戻ってきた。冒頭から「月」、「夜明け前に」、「リム」と、ハードでアグレッシヴな楽曲を畳み掛ける。キャパシティ300を主戦場にしてどの会場でも圧勝してきた彼らだが、やはり普段の3倍の広さの密室という環境のハードルは高い。爆音で噛みついても吠えてもなかなか届かない、何かが足りない――まだ見ぬ敵を目の前にし、必死に挑むような、暗闇の中で愛する人の手を手探りで見つけようとするような焦燥感がステージ上に渦巻く。
"あんたらは間違いなく今日、俺たちの最高新記録を観る羽目になりますが、最後までついてこれますかねぇ!? 信じてるからな、爆音と爆声を頼むぜ!"とフロントマンの樋口侑希(Vo/Gt)が叫ぶと「人間なんです」。そのあとの「ドア」、「絶望を撃て」と、彼は歌の合間合間で観客へ何度も声を枯らしながら呼び掛け、映画の語り部分のようにステージを進行させていく。だが、きれいにお膳立てしたライヴにまとまらないのがWOMCADOLE。4人全員が荒々しくトップ・スピードで突き進む。安田吉希のドラムはヴォーカル並みに歌い、黒野滉大のベースは滑らかでありながら地面を蹴散らすようなパワーを繰り出す。古澤徳之は樋口の援護射撃をしながらリード・ギターを担い、4人の緊迫感は演奏すればするほどに高まっていった。「ワンダー」でそのグルーヴにしなやかさが生まれる。4人の心がしっかりと繋がった瞬間だったのだろうか、サウンドスケープのフォーメーションがようやく一点に定まったような感覚があった。
"楽しい!"と満面の笑みを浮かべる樋口は"こうやってあんたらとライヴをやっていて、すげぇ気持ちいいし、すげぇ楽しいから絶頂まで行こうと思います。ついてこれますか?"と呼び掛ける。彼にとって自分の本音をぶつけることが大事なのももちろんだが、彼が求めていることは、何よりも自分たちの音楽を通して聴き手と愛し合うことだ。彼は"この4人で音を出すことは愛だ"とインタビューで語っていたが、その愛の激流は間違いなく今、聴き手をも巻き込んでいる。
ドラマチックな展開を見せる「独白」から導入を挟み、「頂戴」を遊び心満載で演奏すると、さらにハード・ロック・テイストの導入から「69」へ。この曲は静と動を巧みに操ったヘヴィでスロー・テンポな曲調に加え、1年近くライヴでやり込んでいることもあり、ライヴでの映え方が尋常ではない。樋口の享楽的なギター・ソロと、感情をこらえるように虎視眈々とバッキングを弾く古澤のギターのコントラストにも身震いした。
自主制作盤収録の「イルトエマ」、「オレンジと君とサヨナラと」という初期曲の畳み掛けのあとから、「夜の向こうで」、「今夜君と」、「雨上がり」と、バンドの根幹となる樋口の歌が前に出た曲が続く。楽器隊は彼の歌に寄り添い、彼の歌を最大限に引き立たせる。楽曲を最大限に生かす方法を最優先させることも、4人のバンドと音楽への愛だと言えよう。
樋口はおもむろに本音を吐露し始める。自分にも誰にも負けたくないという気持ちから涙が流れ、それに腹が立ちさらに涙が流れること、この場にいる人間とロックンロールを成せたことが嬉しいということ、最強のものを手に入れたという感覚に満ちていることなどを告げると、"倒したい敵を俺らと倒しましょうよ。もっと俺たちを、不器用な人間の不器用で超かっこいいロックンロールを頼りにしろ"、"あなたたちの心を溢れ返りさせたい、俺は足りねぇんだよ、それでも誰ひとり置いていきたくねぇんだよ。ついてこい、ぜってぇ(この手を)離すなよ!"と訴えた。
彼は目の前の人間に伝えたい想いや気持ちがありすぎて、それが言葉も歌もギターも追い越してしまう瞬間が多々ある。だがこの日は、その追い越した想いに言葉と歌とギターがついてきた。その理由は900人の観客からの愛を全身で捕らえることができたからだろう。「アオキハルヘ」のあと"頼もしい。あんた勇敢だよ。これからもあんたにとってのかっこいいだけ信じろよ。嘘っぱちの音楽なんかに騙されんなよ。目の前でホンモノのかっこいい音楽鳴ってますから、あとは信じてついてこい"と語り掛けると「アルク」を歌い出し、観客もそこに歌声を重ねる。会場全員の愛が密室に溢れ返り、4人のパワーは何十倍にも増幅した。
こうなってしまえば向かうところ敵なし。最強の必殺技とも言えるアンセム「唄う」、「21g」を畳み掛ける。本編ラストの「馬鹿なくせして」は圧巻だった。樋口の取り押さえられない濁流のような感情を楽器隊が余さず掬い取り、それぞれが自分の血を全身全霊で交えてWOMCADOLEという生き物を作るよう。命を削るとはまさにこのこと。その凄まじく美しい生き物の未知なる可能性が開花する瞬間に、まばたきを忘れ、見入った。
アンコールでは、樋口がひとりアコースティック・ギターを持ってステージに現れる。「MayDay」を演奏したあと、彼は急遽そのまま弾き語りで「オモチャの兵隊」を絶唱した。樋口が楽器隊のことを"俺のクルーたち"と言ったことを受けて、ステージに戻ってきた古澤が"俺のクルーって......俺らお前のバイトじゃねぇからな"と切り返したのは痛快。フロントマンに張り合う楽器隊が揃っているからこそ、このバンドは逞しく育つのだ。4人は「ハシル」、「綺麗な空はある日突然に」を届け、初のフル・アルバムのリリース・ツアーを締めくくった。
この1年強、彼らのライヴを観てきて、この日確信したことがある。それは彼らが最強の未完成だということだ。彼らはこの初体験だらけのワンマンで羽化し、その翼でもって新しい世界へと飛び立った。彼らが聴き手を高揚させるのは、ロック・バンドとして完成されているからではなく、まだまだ進化していくと確信させる底なしのポテンシャルにある。ライヴ中に樋口は"これからも音楽はこっち(ステージ)側だけで鳴ってるものにしたくねぇ。俺とあんたの中で爆発させ続けようぜ"と言っていた。WOMCADOLEの愛の爆発は、どれだけ、どこまで広がっていくのか――滋賀のスーパー・ロック・バンドが日本のスーパー・ロック・バンドになる日も、そう遠くはないかもしれない。
[Setlist]
1. 月
2. 夜明け前に
3. リム
4. 人間なんです
5. ドア
6. 絶望を撃て
7. ワンダー
8. 独白
9. 頂戴
10. 69
11. イルトエマ
12. オレンジと君とサヨナラと
13. 夜の向こうで
14. 今夜君と
15. 雨上がり
16. アオキハルヘ
17. アルク
18. 唄う
19. 21g
20. 馬鹿なくせして
en1. MayDay(弾き語り)
en2. オモチャの兵隊(弾き語り)
en3. ハシル
en4. 綺麗な空はある日突然に
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