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LIVE REPORT

Japanese

ircle

Skream! マガジン 2019年08月号掲載

2019.06.21 @渋谷CLUB QUATTRO

Writer 山口 智男

"毎回今日で最後ぐらいの気持ちで120パーセント、ライヴも打ち上げもやって参りました!"

全国10ヶ所を回りながら、各地大きな手応えがあったのだろう。河内健悟(Vo/Gt)が自信たっぷりにそう振り返った"Cosmic Tours"。そのファイナル公演は、有終の美を飾るに相応しいスペシャルなものとなった。

今回のツアーでircleは各地、様々なバンドと対バン・ライヴを繰り広げてきたが、この日ゲストに迎えられたSaucy Dogは、石原慎也(Vo/Gt)の弾き語りに秋澤和貴(Ba)とせとゆいか(Dr/Cho)が演奏を重ねるフォーク・ロック調の曲と、3人の演奏が白熱するロックンロール調の曲を織り交ぜ、じわっと染みる歌に加え、独特の空気を持つアンサンブルの魅力をアピールした。

そして、"(相手がircleだけに)気を抜いたら一瞬でボコボコにされる。最後まで気を抜かずにやります"とせとが言ってからの後半戦。3人のハーモニーが印象的だった新曲「雀ノ欠伸」を含む、ロックンロール調の曲を繋げたその勢いで最後まで駆け抜けると思いきや、"ircleの対バンで最後がバラードなんてとも思うけど、俺らは俺らの音楽で戦いたい"(石原)と代表曲の「コンタクトケース」、「いつか」の2曲をじっくりと聴かせながら持ち前の向こう意気も見せつけたのだった。

そして、ircleはそんなSaucy Dogの挑戦に対し、まるで"受けて立とうじゃないか!"と言わんばかりに、1曲目の「あふれだす」から轟音の演奏で観客の頭をぶっ飛ばす!

仲道 良(Gt/Cho)と伊井宏介(Ba/Cho)が掲げた拳に応えるように観客が上げた拳を振りながら作った最高の景色に、河内が満面の笑みを浮かべると、ショウダケイトのドラムがバンドを煽るように演奏は加速。そこからバンドは、5月にリリースした最新作『Cosmic City』の8曲を軸に、長年歌い続けてきた大事な曲も交えながら全15曲を披露した。

カントリー・タッチの「ねえダーリン」では、歌の主人公の切ない思いを代弁するように河内が感情を込めながら歌い、Saucy Dogのリクエストだったという「カゲロウと夏」、そして「Heaven's city light」の2曲では、音の響かせ方やコードのひと鳴りにもこだわった繊細さをアピールして、命を削るような彼らのライヴに深みが加わったことも思わせた。

そんなところも大きな見どころだったが、この日のライヴをさらにスペシャルなものにしたのが、石原によるちょっとしたハプニングとそれに対するircleの反応がきっかけで、会場に生まれた和気あいあいとした空気だった。終演を知らせる音楽が会場に流れても残っている観客に応え、実現したダブル・アンコールでは、Saucy Dogの3人も加え、「本当の事」を観客も含む全員でシンガロング。前述したちょっとしたハプニング(の内容はライヴに行った人だけが知っていればいい)は、図らずも全員が笑顔で迎えた大団円の伏線に! ircleのライヴ・レポートに笑顔や和気あいあいという言葉を使う日が来るとは思わなかったが、「ばいばい」、「瞬」と繋げ、観客の気持ちをぐぐっと高めてから、『Cosmic City』収録の組曲「アンドロメダの涙」から「ペルセウスの涙」で、バンドが持つダイナミックなスケールを見せつけ、じっと聴き入る観客の気持ちを鷲掴みにする直前に河内が言った"解決はできないけど、少しでも包み込みたい"という言葉からも、この1~2年で芽生えたと思しきオープンマインドや包容力が窺えた。

それは今後、ircleの大事な魅力になっていくんじゃないか。ひょっとしたら彼らは大きな転機を迎えようとしている。そんなことも感じさせるツアー・ファイナルだったのだ。

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