Japanese
alcott
Member:貴田 宰司(Vo/Gt)
Interviewer:山口 智男
-今回の4連作の楽曲で、バンド的に、こういう一面をアピールしたいというテーマはあったんでしょうか?
ありました。第2話の「春へ」(2018年4月公開)は、かなり歌謡曲を意識しましたね。レトロな曲調なんでけど、すごく美しいものを書きたかったんです。"あなたのキスはおいしい"という歌詞からして、ちょっとえぐみのある曲なんですけど、書きたかったのはきれいなものなんですよ。ストーリー的に道徳的にはよろしくないところもあるのかもしれないですけど(笑)、女性がその人に対してひたむきに思う気持ちっていうのは、純粋なものだと思うんです。その中で一番強烈に印象に残っているのがキスだった。そういうふうに考えているうちに自ずと曲調も決まって。湊かなえさん原作の"告白"って映画のイメージなんです。狂気と美しさがあって、メランコリックなメルヘンみたいな、ミュージカルみたいな。相反するものがセットになっている。「春へ」が、ちょっとドロドロしたところがあるのに、軽快なリズムとキャッチーなメロディになっているのは、絶妙な違和感を狙って作ったからなんです。
-たしかに不思議な曲ですよね。えぐいとおっしゃいましたけど、個人的にはエロチックだと思いました。
あぁ、そう思ってもらえたなら良かったです。僕らとしてはかなり新しい試みでした。今回の4曲は何よりも歌を中心に作ったんですよ。歌が立つフレーズ、歌の世界観を邪魔しないアレンジを意識しました。
-4曲それぞれに違う魅力を持っていると思うのですが、歌を重視する以外に4曲に共通するテーマはありました?
4曲の流れに起承転結があると思います。「告白記」、「春へ」、「予報外れのラブソング」(2018年5月公開)と来て、最後に「小火」。物語はバラバラなんですけど、全部繋がっている。それは小説、映像ももちろんなんですけど、今回のプロジェクトにかかわっているチーム全員が意識していたと思います。第3話でハッピーエンドで終わっても良かったんですけど、そこで終わらないところがミソですね。幸せなまま終わらない(笑)。
-そこはあえてですか?
最初は「告白記」だなと思ったので、幸せな話の「告白記」を1曲目に置いて。そのあとフックになる曲を入れたくて「春へ」を選んで。でも、そのあと、できたらやっぱり、また幸せになりたかったんですよ(笑)。それで、「予報外れのラブソング」を入れた。そうなると自ずと「小火」が最後になる。だから第4話が「小火」じゃなきゃダメってわけではなかったんですけど、今すべてが出揃ってから考えると、「小火」しかなかったなって。結果論なんですけど、すごく思いますね。
-幸せなまま終わらなかったのも、結果的にそうなってしまったということですか?
一番リアルだったんですよ。自分自身と重なるところが多かった。どうしても忘れられない恋っていうのがあると思うんですけど、それって最後に残るものじゃないかなって。どんなに濾過しても残るというか、色褪せないというか。そういう忘れられない恋が誰にでもあるんじゃないかな。歌詞でも書いているんですけど、忘れなきゃいけないという気持ちもある。でも、簡単に忘れられたら苦労しない(笑)。それに、恋愛してきた経験って、自分を形成しているものだから、それを忘れようとすることは、自分を否定することだとも思うんですよ。だったら"そんな恋愛も含めて一緒に生きていこう。独り言だけどね"みたいな(笑)。かっこ悪いですよね。だから、一番自分のことを書けた歌詞だというのもあります。今回の4曲、どれをとってもかっこ悪いんですよねぇ。
-誰にでも忘れられない恋があるっていうのは、今日、ひとつ名言を聞いたような気持ちになりました。そういう恋を象徴するものが「小火」なんですね。
最初は"襟足"というタイトルだったんです。後ろ髪を引かれるような意味で、ぱっと付けたんですけど、男の歌だから違うかなと思って。自分の中でくすぶっている気持ちにふとした瞬間に火がついて燃える。でも、どうしようもないから自分の中で消し止める。小さい火のまま消し止められたものを"小火"と言うんですけど、タイトルはこれしかないと思いました。正直、いいイメージがないうえに"ボヤ"と読めないから、みんなからは反対されたんですけど、カツセさんに相談したらすごく好きだと言ってくれて、それが嬉しかったです。そのあと、あるラジオのパーソナリティの方が、「小火」を紹介するとき、"それでは聴いてください。alcottで、小さな火と書いて、ボヤです"と言ってくれたんですけど、それがすごく良くて。「小火」にして良かったと思いました。
-小さな火で消し止められているうちは甘酸っぱい想いに浸っていられると思うんですけど、消し止められないと大変なことになりますね。
そうそう。でも、「小火」の主人公は消し止めています。"ただの独り言だけど"って。
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