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INTERVIEW

Japanese

ASOBOiSM

2024年09月号掲載

ASOBOiSM

Interviewer:石角 友香

ゴリゴリにドープというよりポップネスも携えた日常的なラップを、冴えたトラックに乗せて世の中に放つアーティスト、ASOBOiSM。一般企業に勤め、しかも今春所属事務所から独立し、一人のアーティストとして世界のクリエーターと交信する頼もしい存在だ。リスナーでもミュージシャンでもどんな分野の人でも、今、突破したい何かがある全ての人に贈るインタビュー。

音楽を届けたい気持ちがあるなら、そのためにリソースを使うべき
今の人間関係から抜け出すことも曲のテーマだった

-もともとシンガー・ソングライターとして活動していらっしゃったんですよね。

そうなんですよ。弾き語りで活動してた時期があって、今と全然違う感じのスタイルで、検索したら"マジ誰?"ってみんなから言われる(笑)。

-今のスタイルに変えられた理由と変えて良かったことというと?

弾き語りの活動のシーンが、"弾き語り女子"みたいなシンガー・ソングライターが流行ってた時期で。私も中高生のときは女性のシンガー・ソングライターの方の曲をすごく聴いてて、それに憧れて世界に入ったんですけど、やっぱり一つ頭抜けていかないと埋もれちゃう、地下アイドル的な動きが多かったから、もっと音楽を聴いてもらうにはどうしたらいいんだろうみたいなことを考えてたんです。そこからもともと全然通ってなかったんですけど、ヒップホップを先輩から教えてもらって聴くようになって。水曜日のカンパネラさんとかがちょうど出てきてて、あっこゴリラちゃんもバトル界隈で流行ってきた時期だったんですけど、その頃"あ、自分もラップしてみたいかも"と思ってそこからラップを曲に入れるようになっていき、名前もスタイルも変えてもっと自分らしい活動をしていきたいっていうことで一新したんです。もともとは"絵本系シンガー・ソングライター"っていう、ファンタジーな物語を作る感じの曲の作り方をしてたんですけど、そうじゃなくて、自分の実体験やドロドロした部分をリリックにあてられるのがラップのいいところだし、リアルを歌うみたいなスタイルを構築できたから、それはシーンを変えて良かったなと思います。

-弾き語り女子だった方々もスタイルが変わってきた人が多いですよね。

そうですね。当時一緒にやってた人たち、幾田りらちゃん、TOMOOちゃんもそのシーンだし、eillちゃんも前の名義だったし、アコースティックの箱とかでその界隈のみんなで一生懸命頑張ってたっていう感じですかね。

-ASOBOiSMさんの初期の作品はいわゆるバッド・ビッチ的なラップじゃなく、ポップスとして聴ける曲でそこにも特徴があると思いました。

初期の頃と比べたらだいぶ雰囲気も変わったなっていうのはありますね。そもそもスキルが全然なかったから、"韻を踏むってこういうこと?"みたいな感じで(笑)、曲を作ってたけど、挑戦していってる過程もみんなに見てもらってってるのはすごく嬉しいし、技術的にもどんどん上達していけてたらいいなと。

-でもポップな曲調が声質に合うという部分もあるのでは?

たしかにJ-POPが大好きだったし大事にしてきたから、J-POPのヴァイブスみたいなのは今でも根幹にありますね。作るときにラップを押し出してる曲もあれば、メロディをがっつり歌う曲もあるから、そういうバリエーションを作れるのは勝手にASOBOiSMのいいところかなって思ってます(笑)。

-ヒップホップ界隈のリスナーだけじゃなく、インディー・ロックやオルタナが好きな人も好きな曲が多いと思います。

嬉しいです。ラッパーって名乗るのも最初はすごく抵抗があって。というのもスキルが全然足りてないし、ヒップホップにリスペクトがあるから、ラッパーって名乗るには恐れ多いみたいなのがずっとずっとあるんで、今でもラッパーって呼んでもらうと嬉しい反面、もっと頑張んなきゃなと思います(笑)。

-スキルは必要ではあるけど、ラッパーの定義がなんなのかは明確ではないですしね。

それこそアメリカだったらDOJA CATはラッパーなのか? みたいな論議があるんですけど、それに近しいものをなんとなく自分にも感じているし、別にカテゴライズしなくていいのかなと思ってて。"これがASOBOiSMのスタイルだよ"みたいなのが伝わっていけばいいかなと。

-キャリアの中で自分のスタイルができてきたと思ったタイミングってありますか?

もともとはわりとカラッと明るい感じだったんですけど、2018年の「DRAMA QUEEN」をリリースしたタイミングで、自分のドロドロした感じのリリックや横乗りな感じのスタイルを出せたかなと思ってて。そのときに出会ったアレンジャーのT.O.M.さんは今でも一緒に曲作ったりしてるんですけど、ASOBOiSMのイメージや方向性が見えたのが2018年かなって考えています。でもそこからずっと書き続けて、今確立してきてるかなっていう段階なので、これからも進化していきたいし、今のASOBOiSMはこうだけど2年後はまたちょっと変わってるかもしれないし、気分でやっていけたらなって感じですかね。

-ポップ・ミュージックっていう意味でDOJA CATの名前が挙がったのは納得です。

リスナーの人が、ASOBOiSMの曲を聴いていればいろんなジャンルに出会える、みたいになってたらいいなと思います。それに作家としての仕事もすごく大事にしてるので、そこのバリエーションを見せられたらいいなっていうのもあります。

-ExWHYZへの提供曲(「ドラマ」)等、歌詞を書く上で考えることは?

作家として書くときは脳みその違うところを使ってる気がしてて、求められてるものを作るみたいなことではあるんですけど。私が書くことのメリットって韻の踏み方やメロディのハマり方が気持ちいいところと、あと大事にしてるのは自分の使う言葉を使おうと思ってて。使ったことのない言葉は入れないし、お客さんが容易にイメージしやすいものや近くにあるものを大事にしようと考えてはいます。

-ところで今も音楽以外の仕事を並行しているんですか?

はい。今日もだったんですけど(笑)、一般の企業で勤めてるから、音楽とはまた全然違う分野で働いてる人たちの姿をずっと横で見ているし、そういうところで受けるインスピレーションもあるし。逆になんでもっと自由にならないんだろう? っていうふうに思う部分、例えば面接だったら黒髪にして黒いスーツを着て行かないといけないみたいな。個性やどういう人かを見る場所なのに個性を出しちゃいけないとか、自分の好きなものを一旦シャット・アウトした状態で、形式上プレゼンするみたいなことって、日本社会の良くないところだなって思ってて。そういうところは変わっていってほしいし、仕事をしてると、みんなそれぞれにちゃんとストーリーがある人たちだなって分かってるから、第一印象で決め付けないようにとか自分自身も学ぶし大事にするようになったかもしれない。

-働いてると音楽でやりたくないことは絶対やらないみたいなところもあるじゃないですか。その時間がもったいないっていうか。

いや本当に。だいぶ葛藤があったんですよ。音楽で成功したいのにずっとバイトし続けなきゃいけないのはなんでだろうみたいな。もちろん今もないわけではないんですけど、今はわりとポジティヴに捉えられるようになったっていうか。そのベースがある人とない人がいたとして、ある人たちが書くリリックって全然違うと思うし、そういう意味でも私はすごく面白い活動をできてるから、全然マイナスなことないなと考えてて。でも時間はないんで(笑)、ヒーヒーしてるんですけど。

-今後さらに音楽活動が忙しくなる可能性も大きいですよね。

今までずっと事務所に所属していて今年の4月から独立してっていうことで、やっといろんなことを自分1人でやるようになって。本当にいろんな方の協力があってリリースができてるんですけど、そうなってからより両立が大変になってはいて、事務もいっぱいあるし時間も限られてるし締め切りもあるしみたいな(笑)。でも裏側を知るまでは音楽活動のことを全然知らなかったなと思って。MVを作るにしても、どんな人がどれだけ携わってどのくらいいろいろな人と連絡取らなきゃいけなくて、予算はどのぐらいかかってとか考えずに音楽活動してきてたなって感じてます。そういう意味では今すごく勉強になってるし、絶対音楽活動に役立つと思ってるんですよね、自分事だから。

-たしかに。

そこで成功することができたら、今後独立してやりたいアーティストの子や、今仕事頑張ってるけど音楽で食べられない子たちに、一個希望みたいなのを示せるんじゃないかなと思ってて。だから頑張ろうって感じですね。