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INTERVIEW

Japanese

お風呂と街灯

2024年12月号掲載

お風呂と街灯

Interviewer:高橋 美穂

"お風呂と街灯"という、印象的な名前のアーティストが現れた。その素顔は、大阪在住の現役の学生。"わからない日"(2024年10月リリースの8thシングル)、"恥ずかしい日"(2023年リリースの1stシングル)といったタイトルが象徴的だが、つらいことも含めた赤裸々な日記のような歌詞を、ピアノを軸にした明るい曲調で歌い上げている。最新曲「花言葉」も、"思い返すと、堪らない今日だ。"という後悔から、"ただただ、今日に花を添えよう。"と、ささやかな希望を見せる展開が、私たちの日々に寄り添ってくれる。これから注目して間違いない存在だ。

-まず、"お風呂と街灯"というお名前ですよね。説明したことはあるかもしれませんが、今一度、その由来を教えていただけますでしょうか。

安直すぎて恥ずかしいんですけど(笑)、数年前に弾き語りで音楽を発表するアカウントを作ろうと思ったときに決めたんです。地元の銭湯に行くのと、夜に散歩するのが好きで。好きなものを使って名前を作ろうと。あとは、検索をかけたときに自分しか引っ掛からない名前にしようと思って。"お風呂"って入っているアーティストは、あまり聞いたことがないので。そこに夜の散歩から"街灯"というキーワードを持ってきて、組み合わせました。

-なるほど。で、そもそもは弾き語りから始まったと。

はい。もともとクラシック音楽をピアノで弾いていて。3歳から中学生ぐらいまでは毎週習っていたんですけど、高校生ぐらいからは、籍はあるけれど行けてはいないっていう状況で。そんななかで、ふと弾き語りをしたくなったっていう。

-習い事っていう段階から1歩踏み出して、自分で楽曲を作っていこうと思ったきっかけって、何かあったんですか?

大学受験をして一回落ちて、浪人するとなったときに、息抜きを兼ねて曲を作ろうと思ったのがきっかけです。

-じゃあ息抜き、パーソナルな意味合いの音楽制作だったんですね。

そうですね。特にプロとか将来を見据えてはいませんでした。

-音楽制作は息抜きになりましたか? 逆に、自分で音楽を作るって難しい......という壁を感じたりはしませんでしたか?

案外難なく作れて。友達に聴かせても否定されなかったので。もちろん、(最初の頃に作った曲を)今聴くと散々な出来なんですけど(笑)。でも最初から、曲を作るのって楽しい! とは思っていましたね。

-歌詞もすんなり出てきたんですか?

歌詞は、今のお風呂と街灯の特徴になっていると思うんですけど、当時は"ラヴ・ソングを書いておけば、曲っぽくなるだろう"みたいな感じで、かっこいいと思うワードを並べていました。どっちかというと、音を楽しむ方向でしたね。

-息抜きで曲を作っていたところから、世の中に発表するようになったきっかけって?

ピアノを習っていた頃から、発表会がすごく好きで。人前で演奏する、音楽を聴いてもらう......音楽以外も、勉強の成績を発表されたり、絵画を表彰されたり、どれも好きだったんです。それで、自分で作った音楽もいろんな人に聴いてもらわないとなって思っていました。

-じゃあ、リアクションが来たときはどう思いましたか?

リアクションが来るほどSNS活動をしていなくて。最初は、友達からリアクションが来るくらいだったんです。みんな"曲を作れることがすごい"と言ってくれました。だから、僕はすごいことをしているんだって思っていましたね(笑)。

-その状況から、どうやって名前と音が広がっていったんでしょう。

趣味でやっているうちは、ほとんど世に広まっていなくて。広めなきゃっていう気持ちもなかったですし。SNSってそういうものを見つけてくれるものだろうと思っていたら、全然(再生回数が)伸びなくて。ただ、大学に入って人間関係のトラブルに遭ったり、大学に通うこと自体に疑問を感じたりしてきて、今学んでいる学問はこの学び方でいいのだろうかとか、本当は他にしたいことがあるんじゃないかとか。大学に入ることを目標にしてきたが故に、今の生活は納得ができないって思い始めて、悩み尽くす時期があったんですね。そのときに、好きなアーティストの音楽を聴きながら、僕は音楽で生きていきたいのかもしれないと考えて。音楽は人の心を動かす素晴らしい学問の1つだと。じゃあ、納得のいく、伝えたい言葉で音楽を作り上げて、世に出す努力をしようと思って、本格的に活動を始めました。それが去年の秋頃で、そこから(再生回数が)伸びて......っていう程伸びていないですけど、コメントが増えたり、ライヴに来ていただけたりするようになりました。

-大学で音楽を学んでいるわけではないんですね。

はい、工学部なので。

-じゃあ、音楽という道を見つけてからは、自分自身も楽になりましたか?

そう思える程ではないんですけど。でも、(大学を)休学して音楽を始めたんですが、この道は間違っていないなっていう感覚はあります。友達とか、アルバイト先で他の人と話していても、自分について把握する力が付いている気がするので。こっちの方向に進んで良かったなと思っています。

-様々なリスナーの方から受けたリアクションで、印象に残っているものはありますか?

一番印象深いというか多いのは、"歌詞が、人間の暗い部分にも目を背けないで、且つ背中を押してくれる"っていうメッセージですね。

-お風呂と街灯さんも、そういう音楽に励まされてきた実感ってあります?

励まされてきたかっていうと......もともと、歌詞をメインに聴いていたわけではないので。散歩しながら流し聴きというか。当時は、どんな状況でも音楽が(生活の中から)消えていないことが重要だった。だから音楽に、僕みたいな考えを持っている人が必死に紡いだ言葉を乗せたらいいんじゃないか、そうすれば音楽シーンを変えられるんじゃないかっていう想いを込めて作るようになったんです。なので、当時は歌詞に助けられた印象はないですね。

-じゃあ、歌詞に注目されたときはどう思いましたか?

嬉しかったですね。僕が意図していたところだったので。音を楽しむ音楽もいいけれど、音楽を通してアーティストとリスナーが会話するような、繋がるようなことを僕自身は(リスナーとして)経験していなかった分、(アーティストとして)やりたかったことだったから、ある種の達成感があった気がします。

-ちなみに、どんな音楽が好きだったんですか?

クラシックはずっと聴いていて。高校中盤ぐらいからVaundyさんとかヨルシカさんみたいな、周りの友達も聴いているようなものを聴くようになりました。

-ご自身の音楽は、メロディなのか歌詞なのか、どこから生まれるんですか? "こぼしたコーヒーから始まった。"っていう歌詞の「わからない日」もありますけど、そういった生活の中から溢れ出てくるんでしょうか。

必ず言葉から作っています。ただ、何かきっかけを通してバッと出てくるわけではなくて。日々思うことはだいたい同じなんですけど、周りの大人に思うこととか、塾で先生をしているんですけど、生徒を見て思うこととか、そういう普段から感じることをメモしているんです。あるいは、反芻して考えているとメモしなくても頭に残っているし、そういうのってカテゴリー分けができると思うので、"今日はこのカテゴリーで歌詞を書いてみよう"って先に歌詞だけができて。それに合わせて、後からピアノで曲を作ります。