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INTERVIEW

Japanese

chef's

2025年03月号掲載

chef's

Member:ヨシダ アヤナ(Vo/Gt) フルギヤ(Gt) 高田 真路(Ba) 吉島 伊吹(Dr)

Interviewer:石角 友香

"おいしいおんがく"をコンセプトに掲げ、EPごとに1つのジャンルのメニューを様々な角度から料理するバンド、chef's。そのアートワークやバンド名からは想像が付かないソリッドなポストロックやインスト、かと思えばJ-POP由来のポップス、ゲーム音楽寄りのKawaiiフューチャー・ベース等、貪欲にオリジナルへ昇華してきている。今回のEP『thirsty flair』は"ドリンク盤"と称し、またもやこれまでのイメージを自ら超えてきた。バンド・シーンでも注目のchef'sのメカニズムとは、果たして?

-作詞作曲を担当していらっしゃる高田さんが皆さんに声を掛けて、結成されたということですが、当時の高田さんのヴィジョンはどういうものでしたか。

高田:今回の『thirsty flair』は"ドリンク盤"なんですけど、chef'sは"おいしいおんがく"というコンセプト、あとは自分たちのフル・コースを作っていくってことを組む前から決めていて。一品に一個ずつのジャンルで、コンセプトを持って作るっていうのでやっています。なんとなく5年~10年先ぐらい先までのコンセプトを書いてから始めているので、それ通りにここまで来たという感じですね。

-高田さんのその考え方について皆さんはどういう魅力を感じて参加されたんですか?

ヨシダ:私は音楽に対して気持ちいいなとかの感覚はあったんですけど、"おいしい"というのが自分の中で新しかったのと、刺激になるしすごくいいなと思ったので、その"おいしいおんがく"を作るメンバーの一員になれたらいいなって気持ちで入りましたね。

フルギヤ:僕は今までいろんなバンドとかに関わってきたんですけど、ここまでコンセプトを考えてやってる人間ってあんまりいないなっていうのは感じてて。あとは単純に真路の作る曲がすごく面白いなと思ったんです。どうしても現代の音楽って先代のアーティストに寄ってきちゃうところがあるんですけど、(真路は)あんまりそこにとらわれない曲をやっているって認識が僕の中であって、今まで一緒にやってますね。

-吉島さんはいかがですか?

吉島:僕は真路と高校が一緒で、高校のときからもう真路はオリジナルの曲作ってたんです。そのときからずっと伝えたいことがはっきりしてると思ってて、そういう曲を作れることに惹かれて今に至るって感じですね。

-皆さんそれぞれの音楽的なルーツを教えていただけますか?

高田:親が音楽が大好きで、親の影響で音楽を聴いてるんですけど、お父さんのCDのラックの中から1枚出したのが、the band apartの『Eric.W』っていう『K.AND HIS BIKE』ってEPの中の楽曲(のシングル)で。それが、ベースが結構耳に入ってくる感覚があって、そこからまずベースを持とうってなったのがルーツとしてありますね。ちっちゃい頃はaikoさんやサンボマスター、あとは風味堂も自分のルーツの中には入ってます。

ヨシダ:私は、お父さんが、私が生まれる前の学生時代からずっと音楽をやってて、今もおじさんバンドみたいな感じで続けていて、家にもレコードやCD、楽器がいっぱいあるんです。小さい頃は車の中でずっと山下達郎さんが流れてて、自然とベースが大きくて気持ちいい曲、ギターのカッティングが気持ちいい曲とか、自分の中で好きな要素ができたっていうのがルーツですかね。

-フルギヤさんは?

フルギヤ:僕は叔父が若くして亡くなっちゃったんですけど、その人がバンドマンでベーシストだったんです。それでギターが倉庫にずっと置いてあったからいる? って中学3年生の頃に言われて、特技が欲しかったので持ち始めて。で、めちゃめちゃのめり込んでそこからバンドを聴くようになりましたね。ただ、好きなバンドと好きなギタリスト像が全然違って。バンドで言えばMy Hair is BadやGOING STEADY、あとUNISON SQUARE GARDENとか正統派なバンドがすごく好きなんです。でも、ギタリスト的に言うと小岩のジャズのバーのセッションに中3のときに行って以来、ジャズとかネオ・ソウルとかも聴き始めて。Mateus AsatoっていうBruno Marsでギター・サポートしてた人がすごく好きになって、そこからめちゃめちゃギターをやり始めましたね。

-吉島さんはどうですか?

吉島:浅く広くで、このバンドが好きというよりはこの曲いいって感じで聴き返す感じですね。幼少期はみんなと同じで父親の影響で、THE BEATLESとかをすごく聴いていて、高校で本格的にドラムをやってたのと、大学はジャズ研に入ってて、そこでジャズって素敵だなというふうに感じました。

-才能揃ってる感じですね! 最初期は高田さんの作る曲も今と趣が違って、もっとシンプルなギター・ロックの印象があったんですが、chef'sにとっての転機というか、今に近づいてきたのはいつ頃なんですか?

高田:もともとこのフル・コースを作るときに、最初に"肉盤"として『NOBODY CALLS ME CHICKEN!』(2021年)を出したんですけど、そのときは"おいしいおんがく"というコンセプトって、言葉は入りやすいけど実際なんなのか? みたいなところがあって。この4人のバンドの形を一旦見せとこうっていうので最初の2枚(『NOBODY CALLS ME CHICKEN!』&2022年リリースの1stミニ・アルバム『selfish theater』)を作ったイメージです。で、3枚目からもうちょっとジャンルにこだわったので、3枚目の『Cartoon Candy』(2023年リリース)はポップス、J-POPでもあり、Kawaiiフューチャー・ベースって呼ばれるゲーム音楽に使われてるジャンルとか、"Cartoon"っていう言葉を使ってるのもあってビバップまではいかないですけど、ちょっとジャズの要素とか、いろんなものを混ぜたものになりました。今回はジャンルを固めていっているなかで、ピアノを主体とした――僕、2歳からピアノをやってはいて、最初はそれを抑えていたのですが一旦ここで出してこうかな、広がりを見せとこうかなって。加えて、ピンヴォーカルの曲が初めて入っていて、そういう意味では今回が結構転機かなと思っております。

-"俺の思いを聴いてくれ"みたいなところから一番遠い音楽のようでいて、それを表現するためのツールがいっぱいある感じがします。高田さんは自分から自然に出てくるものだけ、みたいなことをあまり信用してないのかな? と。

高田:あぁ。基本的にどの曲も作るときにリファレンスとして100曲ぐらい聴いてるんで。

-100曲! すごいな。

高田:そのリファレンスを聴き続けて生まれたものみたいな感じがあって、自分の身から出るものだとたぶん人生で作れる曲数って限られてくるので、自分の身からはあんまり出さないようにしてますね。まぁ出せないっていうのも正しいかもしれないですけど。いろんなものを吸収して、自分の身体を通して出すことによって音楽になるみたいな感覚に近いので。

-でも100個も聞いたら自分やん、みたいな感じしません?

一同:(笑)

高田:たしかに。むしろ自分かもしれない。

-鍛錬の場所みたいな印象を持ちますが、そうでもないんですか?

ヨシダ:私にとっては鍛錬。

フルギヤ:結構毎回のEPで、自分のギターで言ったら限界値を出してて。前々回(2024年リリースの3rd EP『space junk』)の「ヒッチコック」は自分の中でマスターピースだっていうフレーズが出てきて、その瞬間は別に何も思ってなかったんですけど、"ヤバいのできちゃった"みたいな感じがあるんです。それを越えるのが今年の目標だったりするんですけど。現代のバンドのシーンでメジャー・デビューしたアーティストって、だいたいシーケンスでピアノが入ってて、ギターが死ぬイメージがあって。まぁそうじゃないアーティストさんもいるんですけど。でもこの自分たちの盤では、キーボードの音が入っててもギターが死なないようなフレーズを、真路と相談してレコーディングの場で生で作りましたね。中でも「ourora」は特にそうで、個性を失わないように曲に寄り添って作ってます。

-毎回明確なコンセプトがあるなか、各々の曲の作り方はどんな感じなんですか?

高田:僕の曲の作り方ってちょっと特殊だと思うんですけど、ほぼ題名とこの曲はこんなジャンルにしようというのから決まってて。今回で言うと"ourora"は、"オーロラ"という名前のカクテルがあるんです。ものの名前を付けるときはいぶ君(吉島)がアイディアを結構出してくれるんですよ。ドリンク盤のアイディアを聞いたら、"カクテル言葉っていうのがあるよ"ってことで、"偶然の出会い"がオーロラのカクテル言葉で、僕の中でグッと来て。

フルギヤ:俺、それここで初めて知った(笑)。

高田:掛け言葉みたいのが好きなんですけど、これは"our ora"=イタリア語で私たちの時代、私たちの時間っていう意味があって、"偶然の出会い"がこの"2人の時間"を作ってるみたいなところで「ourora」を作ったり。