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INTERVIEW

Japanese

荒巻勇仁

2024年08月号掲載

荒巻勇仁

Interviewer:石角 友香

大人からは現実的でしっかりしてると言われ、自らも大きな夢を見ることをどこか諦めているような世代。今年23歳になったシンガー・ソングライター 荒巻勇仁は、同世代のリアルを解像度の高い言葉と、ポップであることを恐れない曲やサウンドで鮮やかに着地させる。すでに「天才になれなかったので」(2022年11月リリースのデジタル・シングル)や「未成人」(2023年8月リリースのデジタル・シングル)、「群像劇」(2023年10月リリースのデジタル・シングル)などが多数のプレイリストにピックアップされる彼が新境地に挑んだ「青春を」をリリース。今夏、さらに注目したい存在だ。

-そもそも、歌い始められたのがすごく早いんですよね。

そうですね。歌はずっと好きで、プロとか関係なく人前で歌う機会は小学生ぐらいの頃からあったんですけど、本格的にやり始めたのは高校2年生のときですね。

-地元で1,000人規模のホール・ライヴも経験されていて。その頃はカバーを歌ったり?

基本的にはカバーを歌っていて、地元の音楽家の方に曲を作っていただいてオリジナル曲として歌ったこともあります。そのホールでやらせてもらったときはカバーとオリジナルを半々ぐらいでやってました。

-今やってらっしゃる音楽とはだいぶ違っていたんですか?

そうですね。オリジナルを聴かれてる感覚がなくて。ライヴをやっても"この曲やってほしい"って言われる曲が基本全部カバーだったりして、今とは全然違う評価を受けてたなって感覚はありますね。

-ご自身の心情としてもシンガー・ソングライターになりたかった?

そうですね。最初にすごく影響を受けたのが秦 基博さんだったんですけど、あの方は本当に自分で作詞作曲してギター1本でっていう方で、僕も当時秦さんに憧れてギターを始めて、ギター1本でやっていけるアーティストになりたくてずっとやってたんで、"自分で作ったものを届けたいな"というのはありましたね。

-書くことが変わったきっかけはあるんですか?

『Re:paint』(2022年4月リリース)というアルバムのときはわりとメロディだったり、語感を重視して詞を書いてたんですけど、周りの制作スタッフから、歌詞の重要性をすごい説かれて。最初は歌詞に対して自分なりの思想やこだわりみたいなものがあったのでなかなか受け入れられなかったんですけど、世の中で評価をされている曲を聴いたり、自分が好きな曲を聴いたりしたときに、結局歌詞が残っているのをすごく感じて、視聴者に伝わる歌詞を書こうって思い始めたのが「未成人」っていう曲からなんです。

-その頃の影響源というとどういう人たちが?

自分の歌の部分に関しては、秦 基博さんには絶対に影響を受けてるなと思うし、あとは意外とマカロニえんぴつさんとか、一番デカかったのはVaundyさんの登場です。同じアーティストでもあるので、あんまり言いたくないですけど、すごい影響を受けてます(笑)。

-そういう背景は荒巻さんの世代ならではですね。そして「未成人」とか「天才になれなかったので」あたりから歌詞が明確になってきますね。

ちゃんと曲を聴いてくれる人のことも考えるようになりましたね。最初は自分が作りたい曲、ライヴでやってて楽しいとか歌ってて気持ちいいっていうのが一番重要だったんですけど、サブスクで聴かれることを意識し始めた曲っていうのがそこらへんなので、だいぶ心情が違うなっていう感じがしますね。

-それも含めて書きたいことがはっきりしてきた?

どっちかというと順番的には「天才になれなかったので」が先で、次に「未成人」なんですけど、「天才になれなかったので」はもう完全に自分のことを歌ってる曲で。これまであんまり自分のことを歌ってこなかったので、その楽曲以降、フィクションよりもノンフィクションを書くことのほうが多くなってきた感覚があります。

-聴いてる人に伝わりやすいっていう以外にも何かありますか?

手軽に曲を聴けちゃうからこそ、なんかどっか爪痕というか、聴いてる人の心に残るものがあるといいなと思ってるので、意識してハッとするようなパワーワードみたいなものを入れたいと思ってます。

-「未成人」では、大人に今の若い世代はしっかりしてる、現実的だとか言われて、しかも本人たちもあまり大きな希望や子供っぽいことを言うのはかっこ悪い、みたいな居心地の悪さが描かれていると思って。だから伝わるんだろうなと。

ありがとうございます。

-一面的ではない歌詞だと思います。

日常で感じる違和感みたいなものを曲にするのがすごい好きなので。

-しかも1人で追い込まれてそういうことを歌ってるっていうより、世代的に共通してるものなんだろうなと思うし。

僕は部屋に閉じこもって曲を作りまくるみたいな、いわゆる超クリエイター気質ってわけではなくて、わりと人目を気にしちゃったり、周りの評価から逃げられないというか(苦笑)、どうしたって気にしちゃうところがすごいあるし、ダサいと思われたくないっていうのがめちゃくちゃあって(笑)。でも逆にそういった部分が同世代の人たちに寄り添えると感じるし、それがすごく楽曲にも出てるなって自分で思います。

-SNS上で目にする話題が曲になっている印象もあるし、本当に日々感じることなんだろうなと。

そうですね。結構SNSに落ちている話題に共感して曲を作ることもあるので、同世代の今を切り取りたいみたいな気持ちはすごくあります。この曲を作った頃は空気感的に、どんだけ頑張っても仕方なくない? みたいな諦めムードをなんとなく察知していて。で、作り始めたときに最初の"子どもというには大人で/大人というには子どもな僕ら"っていうのが思い浮かんで、それを膨らませていったんですけど、"諦めてしまおう"というサビ頭のフレーズが出てきたときに繋がったというか、"あ、これめっちゃ自分が歌いたかったことかも"ってすごく思ったんで、この曲は同世代からの評価を貰った感覚がありますね。

-その後の「群像劇」、「東京症」(2024年4月リリースのデジタル・シングル)でさらにテーマが広がって。東京についての曲っていうのはアーティストなら一生に一回書くような普遍的なテーマでもあるし、それをリアルな感覚で書いたんだろうし。

そうですね。わりとリアルに感じたことを、そのまま殴り書いたような曲なんで。最初は恋愛ソングじゃなかったんですけど、広く聴いてもらうために恋愛を題材にしてみたいと思ったし、自分もこのタイミングで書ける題材が失恋だったんで、それを書き殴ったっていう感じですね。