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INTERVIEW

Japanese

ボタニカルな暮らし。

2025年02月号掲載

ボタニカルな暮らし。

Member:Siyo(Vo) 三谷 乾仁(Ba)

Interviewer:山口 哲生

-歌詞は浮かびやすかったですか? これぐらいアバンギャルドなことをするのであれば、これぐらい言っちゃっていいのかな、みたいな。

Siyo:何をやってもいいんだろうなとは思いましたね。"曝け出せ"というタイトルはもうすでに付いていたので、それをベースに考えました。イメージとしては、上司とかに詰められて、自分のダメなところとかも見透かされているんだけど、途中で"もういいや。どうせバレてるし"みたいになって、文句とかをバーッ! と言うみたいな雰囲気の曲です。

-「candle」は歌詞が先にあったとのことでしたけども、普段からそういう感じで書き溜めているんですか?

Siyo:メロディがまだ付いてない歌詞はいくらか溜まってますね。この歌詞は、落ち込んでいる人がいて、元気づけたいなと思ったことが実際にあって。それで夢の国みたいなところに──それこそ北欧なんですけど、犬とかが走っていて、もう何もしなくていいようなところに連れ出してあげたいなっていう気持ちが最初にあって、それを書いていきました。

-救うと言うと大袈裟だけど、励ますというか、それこそ元気づけてあげたいという。

Siyo:落ち込んでる人に"前に進もうぜ"とかあんまり言いたくないし、現実と向き合いたくないときってあるじゃないですか。だから、童話みたいな夢の世界を作って、そこに一緒に逃げてあげるっていう感じですね。

-そして、EPを締めくくる曲が「アンブレイラ」です。この曲はギターの谷澤さんが持ってきたと。

三谷:EPを作るにあたってギター・リフをいろいろ持ってきてくれたんですけど、4、5フレーズぐらいあって。バリエーションもいろいろだったんですけど、その中でメンバーが最初から"いいね、これ"って言ったところから始まっていきました。ただ、そのリフがわりとメロディアスだったんですよね。今のサビメロみたいなところを弾いていたので、これはどうしていこうかなって。全然浮かばなかったんです。

-難産だったと。

三谷:それで、去年の夏に長距離のドライブをすることがあって。東北のほうに行ったんですけど、その道中でこのトラックを聴いていたらこういうのがいいかもと思って、運転しながら鼻歌でトップラインを作りました。

Siyo:釣りに行くとき?

三谷:いや、普通に旅行。あ、でも釣りもしたか。

Siyo:したんだ(笑)。釣りが趣味なんですよ。

三谷:東北道を運転していると、途中から建物がなくなって、見通しが良くなっていくじゃないですか。そういう景色を見ながら作ったので、その感じはメロディに出てるかなと思いますね。ただ、歌詞自体はわりと雨な感じではあるんですけど。

Siyo:うん。雨があがったところというか。

三谷:そうね。この曲は本当にすごく素直な気持ちで書けましたね。書けたというか、トップラインを作っただけではあるんですけど。高速を運転しながら、鼻歌を歌って、そのときに歌っているものを全部録音して。パーキングエリアに入ったらパソコンを立ち上げて鼻歌だけ入れて送ったところ、これいいじゃん! みたいな話になって、結局僕もちょっと歌っているという(笑)。

Siyo:そう。サビを歌ってもらっていて。曲を聴いたときに、これは男の人のストーリーだなと思ったんですよ。でも、このEPはできるだけ自分を忠実に書きたかったので、人の話になっちゃうなぁと悩んだんです。でも、三谷さんがサビで歌えば、男の人の曲として成立するなと思って。ただ、男の人をイメージしてはいるけど、あんまり男性/女性とか意識せずに聴いてもらいたくて。三谷さんが入って男女両方の声があることで、両方から聴けるようになったなと思います。

-"ふわパキ"でいうと"ふわ"なんだけど、切なさや儚さもありつつ、しっかりとした強さもあって。単純に一言で言い切れないようなサウンド感だし、歌詞もそういった感じがありますね。

Siyo:これは一番考えて書きましたね。いつもはダーッと書いて修正していくことが多いんですけど、本当に一言一言を考えて書いて行った感じでした。

-どんなことを考えながら書いていったんです?

Siyo:最初に聴いたときは、陽だまりみたいな温かい感じがあって、誰かのことを愛おしく想っている曲だなと感じたんですけど、それをそのまま書いたんじゃつまらないなと思っていたんです。それで、すごく落ち込んでたときにこの曲を聴いたら、この雰囲気は落ち込んで、昼までずっと泣いちゃって、昼過ぎぐらいに"はぁ......"ってため息をついたときに気持ちが晴れるというか。晴れはしないんだけど、何もかもどうでもよくて、大したことないように思える瞬間というか。そういうため息をつく瞬間みたいなのがハマるなと思って、その感情を軸に書いていきました。そこは自分の体験から来たものではあるんですけど。

-今は自分の近くにはいない人のことを思っている歌詞になっていますけど、そんなものにしようと思って書いたのか、自然とそうなっていったのか?

Siyo:私が失恋の曲を書くときは、実際の失恋もイメージしますし、他にもよくするのは音楽に対しての気持ちを書くことで。私は音楽が好きだし、音楽で成し遂げたい気持ちがあるんだけど、そういった私に対して音楽は気持ちを向けてくれないというか、私に才能をそんなに与えてないんじゃないかと思ったりしていて。そこはちょっと片思いみたいな感じもあるし、でも私も音楽への思いがそこまでないんじゃないか? という疑いがある。そういうのって恋愛と似ているなと思って。だから、夢に敗れた男の子と、失恋をした男の子、その両方を書いているっていうイメージですね。

-たしかに音楽に対しての気持ちは過去の曲でも書かれてますよね。

Siyo:そうですね。「ヤマネ」(2023年12月リリース)とか。

-あの歌もすごくいいですね。アコースティック・ギター1本でがっちりと聴かせるという。

Siyo:あれも詞先なんですよ。

-なるほど。それで思いが強く乗ったものになっているんですね。かなり濃いEPになりましたけど、タイトルの"おかわり"という意味で言うと、何回おかわりしても胃もたれしなかったです。

三谷:良かった(笑)。最終的にはわりとバランスが良くなった感じはしてるんですよ。尖っているところはめちゃくちゃ尖ってますけど、全体としてサウンドのテクスチャー自体は、いつもの我々らしいものというか、うまくバランスは取れているかなと。柔いものをずっと聴いていても、ぼんやりしてきておかわりできなくなるし、強いものをずっと摂取し続けても疲れてきちゃうじゃないですか。自分たちとしては、毎曲毎曲いろいろあるんですけど、1つに縛られない良さみたいなところをうまく出せたと思います。

-Siyoさんは、初のEPを作ってみた手応えというと?

Siyo:作って良かったなっていうのがまずありますね。作った後に聴き直して、"うーん......"ってなっちゃったりしたくないし、この曲を残せて良かったと思えるようなものにしたいと考えていたんですけど、それは達成できたなと。でも、もっとこうしてみたいってものもあるので、そこは次のEPなのか、アルバムなのかでやれたらいいなと思ってます。

-今後はどんな活動をしていきたいですか?

三谷:今回のEPのテーマでもある"ふわパキ"は、今後も1つの軸にできるかなと思っていて。今までずっとシングルだったというのもあって、毎回テーマが違っていて、一本の軸みたいなものがあんまり見えないなと思っていたんですけど、EPを作ったことによって、自分たち自身、"ふわパキ"の方向性はいいんじゃないかなと感じてるんですね。柔らかすぎず固すぎず、みんなも聴き心地が良くて自分で聴いていても納得感があるというか、説得力のあるものを作っていきたいなとはすごく思ってます。そこは単純に楽曲のアレンジもそうですし、音の質感とかも。

-なるほど。

三谷:ここ1年ぐらいは宅録で全部作っちゃうこともあったんですけど、本当に最初の頃は、スタジオに入って、みんなでせーので録ったりもしていたんですよね。そこに立ち返ってみると、やっぱりその頃のサウンドってすごく良かったなと思うし、今回だったら「Dusk」はほぼスタジオ・レコーディングをしたので、そういった質感もやっぱり大事にしたいな、とか。あとはメンバーの演奏もそうだし、Siyoの歌や詞の良さをもっと出していきたいですね。彼女はキャピキャピ系ヴォイスではない部分があって、そこがすごくいいところだと思うので、そういうところをもっと立てていきたいです。

-ボリュームのある作品を作ったことによって、自分たちの良さも改めて見えてきたし、ポジティヴになれたところもあったと。

三谷:そうですね。あとは、それこそ「ヤマネ」みたいな曲をもっと作ってもいいのかなと最近思ったりもします。メンバー全員アコースティックなものもできるので。「Lovely Dash」は電子的な部分にあまりにも振り切りすぎたというか(笑)。それも良かったんですけど、自分たちがやってきたジャズってアコースティックな部分が大きいので、そこも踏まえて考えてみると、バンド名じゃないですけど、オーガニックなサウンドだったりアコースティックなものだったり、そういったものを今後出せる機会があってもいいかなと思ってますね。

-こんなものもできるというレパートリーの1つとして、「Lovely Dash」があるのは素敵だと思いますし、そもそも電子的な部分もアコースティックなものもできる、その両方を持っているのは間違いなくバンドの強みですね。Siyoさんは今後どんな活動をしていきたいと考えていますか?

Siyo:大きい会場でライヴをしたいとか、そういうタイプじゃないんですよ。もちろんやりたいですけど、そこが一番重要だとは思っていなくて。ずっと音楽を嫌いにならずに長く続けていけることが一番幸せだと思うし、無理することも必要なときはあるけど、できるだけみんながナチュラルに才能を発揮できる形で続けていくことを、バンドとしてはやっていきたいです。それで、聴いてる人にとって許される瞬間を与えられる曲とか、そういう音楽をやりたくて。私は芸能人のYOUさんがすごく好きなんですよ。赤裸々な感じがあるし、ストイックなんだけど緩さを持っているから、あの人を見ているとすごく許された気持ちになるんです。

三谷:なるほどね(笑)。

Siyo:その感覚をすごく大事にしていて。自分に厳しくなっちゃったりするときに、"ダメダメなの私だけじゃないんじゃん"って思える瞬間が、音楽を聴いているとあると思うんです。私はそんな大層なことはできないけど、そういうものを作りたいなと考えていますね。

RELEASE INFORMATION

ボタニカルな暮らし。
1st EP
『S'more』
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