Japanese
ビクターロック祭り2015
Skream! マガジン 2015年04月号掲載
2015.03.14 @幕張メッセ
Writer 齋藤 日穂
Victor Entertainmentが、"ずっとロック、これからもロック"をテーマに開催しているロック・フェスティバル"ビクターロック祭り"。その第2回目となる"ビクターロック祭り2015"が3月14日に幕張メッセ国際展示場にて開催された。KEYTALK、木村カエラ、キュウソネコカミ、斉藤和義、スガ シカオ、Dragon Ash、ハナレグミ、星野源、レキシというこのイベントに相応しい、それぞれのロック魂を持ったアーティストたちによって吹き起こされた春の嵐のような1日をレポートする。
演歌歌手、長山洋子のサプライズ出演によるオープニング・セレモニーで華々しく開幕した"ビクターロック祭り2015"のトップバッターを務めたのはSUPER BUTTER DOGや100sで知られる池田貴史のソロ・プロジェクト、レキシ。ほら貝の音色と共にステージに登場するや否や大きな歓声と共に無数の諸手が挙がる。その突き上げられた両手は1曲目「年貢 for you」のメロウなビートに合わせてゆらゆらと揺れ始めた。"こんにちは、Kevin Costnerです"というお決まりの挨拶や、"年貢"、"高床式倉庫"といったレキシだからこそ成り立つコール&レスポンスで会場は笑いで満ち溢れる。笑って、手を挙げて、音に合わせて飛び跳ねるそのパワーには腹の底から活力が漲るようなバイタリティを感じさせた。
レキシの余韻も冷めやらず、口元のニヤニヤが止まらないまま次のアクト、KEYTALKが登場。この日最年少で出演となった彼らが眩しい照明に包まれて1曲目に披露したのは「トラベリング」。小野武正(Gt/MC/Cho)はステージの右から左へと少年みたいにはしゃぎながら大きく移動をする。その姿からもわかるように、とにかく4人とも楽しそうだ。「fiction escape」や「MABOROSHI SUMMER」など軽快なビートで刻まれる変則的なアップ・チューンを次々と畳み掛け、電光石火のごとく瞬発力と眩しさを持って4人は駆け抜けていく。そしてラストの「MONSTER DANCE」。イントロが鳴った瞬間、それまで後ろで観ていた観客が待ってましたと言わんばかりに次々と前方へ駆け出して行った姿が何よりも印象的だった。1曲の中に何曲も詰まったような展開の多いこの楽曲で幕張の会場を大きく揺らした。
続いて登場したのはスガ シカオ。2014年にSPEEDSTAR RECORDSから再びメジャー・デビューを果たしたという、Victorの中では"新人"であるという彼だが、代表曲「Progress」の冒頭を歌いだした途端にフロアから大歓声が。Victor内では新人かもしれないが、これまでのキャリアから得たカリスマ性やスケールの大きさは新人どころではない。そのハスキー・ヴォイスで歌われるメロディと歌詞に観客はぐいぐい惹きつけられていた。
クラムボンの原田郁子(Key)やSAKEROCKの伊藤大地(Dr)らと共に登場したのは本日4組目となるハナレグミ。ASAの「360°」カヴァーから幕を開けた。フロアいっぱいに集まった観客を見て、"こんなに集まってくれてるんだから今日は大安だ!"と語り、伸び伸びと奏でられたのは「大安」。その自由さと開放感たるや何物にも変えられない幸福だった。原田郁子のピアノを基盤に音が積み重なっていく「光と影」、観客ひとりひとりの気持ちを晴れ晴れとさせた「明日天気になれ」、そして語りかけるように、寄り添うように優しく深く「きみはぼくのともだち」を歌い上げ、会場を多幸感で満たした。
リハーサルから全力で挑んだのはキュウソネコカミ。私事ではあるが、私が彼らのライヴを観るのはインディーズ時代振りで、メジャー・デビューを果たした彼らのライヴを体感できることが楽しみだが、"メジャーに行って変わったなあ"というお決まりの台詞を突きつけてしまうのではないかという一抹の寂しさもあった。「DQNなりたい、40代で死にたい」ではヤマサキ セイヤ(Vo/Gt)が"キュウソ遠くに行っちゃったな......、なんて言うやつもいるけど、物理的にあなたたちに近づきたいと思います"と言うと、幕張メッセのフロアにダイブ! やってることは昔と変わらないのに、彼らの気持ちは比べ物にならないくらいに逞しくなっていた。メジャーというフィールドで、もっとたくさんの人に届くように彼らは戦っているのだ。この日に相応しい、Victorのために作られた楽曲「ビビった」を全身全霊で鳴らして嵐のようにステージをあとにした。
この日紅一点のアクトとなった木村カエラは白と黒のワンピースで登場。音にあわせて揺れるワンピースの裾までキュートだ。"今日はロック祭りということで激しい曲をたくさん持ってきました。音楽はノっちゃえばこっちのもんだよ"と語ると「BEAT」、「TREE CLIMBERS」、「マスタッシュ」といった攻めたセットリストでオーディエンスを煽る。その煽り方や、立ち振る舞い、自分の見せ方など、どこを取ってもロックンロール。バンド・サウンドに負けない歌唱力の高さにも一目置きたい。"みんなを幸せにしちゃうスーパー・チェーン"と語り「Butterfly」を大きな愛で鳴らすと、投げキッスで観客の拍手に応えて幕を閉じた。
長い髪の毛をおろしてカーディガンにジーンズというラフな出で立ちで現れた斉藤和義は代表曲「やさしくなりたい」から幕を開けた。"どうも、サザンオールスターズでーす"といった冗談や、気の抜けたゆるい"いえ~い"という挨拶には思わず笑ってしまうが、ギターを持って歌い出せば空気は一転する。「歌うたいのバラッド」のフレーズに"ただ声に身を任せるだけ"とあるが、その声にここまで身を任せられるのは斉藤和義だからこそなんだ、とマイクを握り締めて叫ぶように歌う彼の姿を見て思った。自分の声を、歌の力を信じる彼の魂に心が震えた。人の魂を動かすのは、やはり人の魂なのだ。ラストには「歩いて帰ろう」を披露し、幕張メッセに大合唱をもたらした。
"ロック・バンドの登場だ!"という頼もしい挨拶でDragon Ashが登場すると、これまでの歓声とは違った野太い声が彼らを迎えた。その歓声に応えるように1曲目に鳴らされたのはオープニングに相応しい開放的な「The Show Must Go On」。照明によって照らされた光はまるで彼ら自身が放っているような眩しさだ。KenKen(Ba)のスラップ・ベースをフィーチャーして雪崩れ込んだ「The Live」ではKj(Vo/Gt)とKenKenのラップの掛け合いにフロアは熱狂。"音楽に垣根なんてないんだ。人殺しだって優しい歌書けるんだ。優しい人だって狂った曲書けるんだ。どんな人か、じゃなくてどんな音楽。ジャンルなんて関係ない"と音楽への限りない真摯な愛を語って放たれた「Lily」は格別なパフォーマンスだった。
10時間以上にも及んだこのイベントのトリを飾るのは、本来ならば一昨年出演する予定だった星野源。まずはアコギ1本で「くせのうた」をじっくり聴かせる。丁寧に紡がれるそのメロディに観客の意識は一気にステージに集まる。当たり前の日常をゆっくりと暴くような彼の歌声を前にすべてを曝け出したい気分になったのはきっと私だけじゃないはずだ。何気ない毎日がとても大切に、愛おしく思える魔法のような歌。"くだらない"をいくつも積み上げて生きていく人の歌。しかしこの日はお祭り。しっとりと聴かせるだけで終わるはずがない。病気で倒れた日に完成したという「化物」では愉快に鳴るマリンバに合わせて身体を揺らし、勢いそのままに続く「ギャグ」では満足気に満面の笑みを浮かべていた星野源が印象的だった。そして「夢の外へ」を跳ねるように披露して本編は終了。これだけで終わるはずもなく、アンコールではロング・ヘアーのウィッグとサングラスを身に着けた星野源による"ニセ明"が登場。布施明の代表曲「君は薔薇より美しい」に続いて「Crazy Crazy」で会場中を躍らせて、フィナーレを迎えた。さすが、どこまでも自由なエンターテイナーだ。
この日、帰り道で「Crazy Crazy」を鼻歌交じりに音楽プレイヤーで再生させながら帰路に着いた人も多かったのではないのだろうか。はたまた、斉藤和義の「歩いて帰ろう」かもしれないし、ある人はDragon Ashの「Lily」かもしれない。それぞれの余韻を抱いて音楽のある日常へ戻って行くんだと考えたら、なんだか胸の中があたたかくなった。
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