Japanese
キュウソネコカミ
Skream! マガジン 2016年05月号掲載
2016.03.20 @幕張メッセ・イベントホール
Writer 沖 さやこ
2015年10月に3rdフル・アルバム『人生はまだまだ続く』をリリース。その直後から全30公演に渡るツーマン・ツアー"試練のTAIMANツアー2015"を、2016年1月28日からは全国11ヶ所を回るワンマン・ツアー"DMCC REAL ONEMAN TOUR ~Despair Makes Cowards Courageous 2016~"を行う......という、とんでもないスケジュールだというのに、キュウソネコカミの猛威はこれだけでは止まらなかった。ワンマン・ツアーの追加公演として大阪、幕張、沖縄の3ヶ所で追加公演が決定。おまけに大阪と幕張はキュウソネコカミのワンマン史上最大キャパで2デイズ開催という規格外っぷりである。何かと暗い話題へと持っていきたがる人々が多いこの音楽シーンで、こんなことを実現させてしまうチーム・キュウソネコカミには夢しかない。もちろんライヴ自体も盛りだくさんで大盤振る舞い。メンバーいわく"ソールド・アウトしても赤字"という規模だったようだ。やはり夢しかない。まさしく"ドリームズカミカミ(DMCC)"である。
インテックス大阪、幕張メッセという巨大ホールでそれぞれ2デイズということで、惜しくもソールド・アウトにはならなかったようだが、そのぶん今まで彼らのライヴのチケットが取れずじまいだった人も彼らのワンマンを観られる貴重な機会になったと思う。空席にはメンバーのパネルや顔写真などの装飾が施されていた。顔写真をプリントした紙が座席に人文字のように設置され、掲げられた言葉は"DMCC"と"NOT SOLD"。その自虐性も粋だった。
まずは定番のライヴ制作ATFIELDの代表・青木氏による注意喚起のアナウンス。そこでこの日の公演がDVD化することが発表され、早速客席が沸いた。するとメンバー出演のオープニング映像が流れ、ステージに5人が登場。「ウィーワーインディーズバンド!!」で景気づけをするとヤマサキ セイヤ(Vo/Gt)が"幕張2日目、準備はできてるか!?"と叫び「良いDJ」へとなだれ込む。「KMDT25」ではカワクボ タクロウ(Ba)はその場で回転しながらベースを弾き、オカザワ カズマ(Gt)はスタンド方面に伸びる花道に出るなど、思い思いに幕張メッセのステージを楽しんでいた。ソゴウ タイスケ(Dr)の高速盆踊りビートも圧巻である。「サブカル女子」はヨコタ シンノスケ(Key/Vo)が切ないコードを効果的に聴かせ、「空芯菜」は弦楽器とドラムの音色が太く轟き、ライヴハウス叩き上げバンドならではの演奏力は幕張メッセでも十分発揮されていた。
だが、演奏力で魅せるだけではないのがキュウソネコカミ。「伝統芸能」でヤマサキが熱いギター・ソロを見せたあと、フジテレビ"めざましテレビ"でお馴染みの軽部アナウンサーが登場して口上を述べるシーンも。そのあと金色のスパンコールでできた着物を纏ったヤマサキがハンドマイクで歌い上げ、その傍らで名物マネージャー・はいからさんが彼に大量の紙吹雪を撒く。「適度に武士道、サムライBOYS。」の導入は黒い袴姿のヤマサキがメンバーを滅多切りし、そんなヤマサキをヨコタがライトセーバーで返り討ちにするという、コントさながらのパフォーマンス。RED HOT CHILI PEPPERSチックな雰囲気のある「ビーフ or チキン」では、ヤマサキによる尋常ではない拳法めいたキレの良い動きに感心した。その姿は観客を楽しませる以上に、彼ら自身が楽しんでいるように見える。キュウソネコカミの身体を張ったエンターテイメント性は、我々観客へ向けてのサービス精神ではなく、彼らの表現における美学の追求なのかもしれない。「GALAXY」は曲が始まるやいなやミラーボールが高速で回転し、幕張メッセを一面銀河に染める。その様子は感傷的で透明感のあるシンセの音色と合致した。
キュウソネコカミのライヴは楽しい。パフォーマンスはもちろん、歌詞も面白いし、メロディもキャッチーだから大声で歌いたくなるし、踊り出したくなる。だがキュウソネコカミの楽曲自体は非常にセンチメンタルなものだ。過去曲から最新曲まで網羅したセットリストに加え、会場が広く、なおかつ、筆者はスタンド席で観ていたこともあり、楽曲そのものを噛み締める瞬間も多かった。やはりライヴハウスよりも広い会場を制するのは"盛り上がれて一体感が生まれる曲"というよりは"いい曲"なのだ。キュウソは奇抜な歌詞やダンス・ロック的アプローチをフィーチャーされがちだが、それもあの泣きのメロディ&コード感があってこそ成立するものだと思う。「春になっても」、「シャチクズ」は繊細なピアノとドラムが感情の機微を表現。彼らはこの追加公演の4日間で、広い会場でワンマンをするためにどうするべきかを見定め、その方法論を少しずつ掴んでいるのではないだろうか。「フラッシュバック」と「何も無い休日」のエモーショナルな演奏を聴きながらそんなことを考えていた。
本編の終盤、ヨコタが"大阪と幕張の追加公演4日間で延べ17,500人もの人が来てくれた"と語ると、ヤマサキが"思いやりとマナー"について持論を語り出した。すると"お客さんがいない時代を乗り越えここまで来たので、ひとりのお客さんもなくしたくないという想いがあまりにも強いんです!! なんとかして全員でもっといい景色を作っていきたいんですよー!!"、"前のライヴDVDで自分勝手なやつは死ねとか言ってしまったけど......。今は自分勝手なやつは死ねとは言わんけど、自分の胸に手を当てて考えろ!!"と彼が叫び、会場には大きな拍手が響いた。"説教ばっかりしてごめんー!! 残りぶっ飛ばしていくから踊れるか幕張ー!!"と、バンドはラストスパートに向けて着火。「ビビった」のひりついた音像に身震いする。バンドの生き残りがテーマのこの曲には、今の彼らが幕張メッセで歌うからこそ生まれる説得力があった。
「NEKOSAMA」ではヤマサキがギターを抱えたままアリーナ脇を通りスタンド席に登場。駆け足で端から端まで移動し、1曲を歌いきる。"ヤンキーこわい"の大合唱が起きる「DQNなりたい、40代で死にたい」で、ヤマサキが"ミラーボールの下までは行きたい"と言い、フロアの人の手の上を少しずつゆっくりと歩いていく。倒れそうになりながらも必死に彼を支えるフロアと、噛みつきながらも観客を気遣うヤマサキ。ミラーボールの下を通り過ぎ、前方ブロックから後方ブロックへ移動する。"せっかくやし、もうちょい行こうぜ。幕張でダイヴできる数少ないバンドや! みんなで伝説作ろうや!"と言う彼は、少しずつ少しずつ、崩れそうな人の上を歩いていく。ものすごい息切れで、後方ブロックの1番後ろの人の上に立ち"みんなも何か成し遂げて生きろ!!"と、がなる彼は、間違いなくロック・スターだった。
アンコールはまず追加公演で披露している新曲「俺は地球(仮)」を演奏。もともとは環境問題について歌ったりしていたそうだが、身の丈に合わないと思ったらしく、ライヴのたびに歌詞を書き換え、この日披露された詞は当日の朝4時まで書いていたものだそうだ。ハード・ロック調のヘヴィなリフに台詞が多用された楽曲。この先音源化するとして、どんな着地点を見せるのかも楽しみだ。「お願いシェンロン」では筋斗雲と称した黄色い板が出てきて、それをオーディエンスの上に浮かべてヤマサキが乗るという定番の展開があるが、この日は本物さながらの立派な筋斗雲も登場した。そのシンガロングの中、ヤマサキが"今日はありがとうございました!"と言うとトロッコでアリーナをぐるりと1周。ステージに戻ると音が止まり、ソゴウのパワフルなドラムからラストの「ハッピーポンコツ」へ。観客はイントロで噴射された銀テープを掲げ、5人は残りの力を全部振り絞るように音を放つ。音も光景もひたすら煌びやかで、素晴らしい大団円だった。この3時間超えの熱演は、ライヴハウスで積み重ねてきた経験や歴史、観客との信頼関係の、ひとつの完成形だったのではないかとも思う。音楽的IQが高い彼らは、今後さらに音やメロディ、歌詞を聴かせられるバンドになるはずだ。ネクスト・ステージにも大いに期待したい。
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