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星野源

2013年10月号掲載

星野源

Writer 三宅 正一

ニュー・シングル『地獄でなぜ悪い』について本稿を書き始めようして矢先に、星野源から吉報が届いた。星野は昨年末にくも膜下出血を発症し一時活動休止していたが、今年2月末に復帰。ニュー・アルバム『Stranger』のプロモーションを皮切りに順調な活動を展開していたが、定期検診で手術個所が万全な状態ではないことが判明したため6月にふたたび活動休止。療養のため入院生活に入った。いつまでも待っているから、とにかくゆっくり静養してほしい。僕らリスナーの思いはそれひとつだった。そして、9月26日。星野はオフィシャル・サイト上で近況を報告。再手術の成功と医師から再発の心配はないと告げられたことを明らかにした。よしっ!その吉報に接し、思わず声を上げて喜んだのは僕だけではないだろう。引き続き悠揚な態度で完全復活を待ちたい。
では、『地獄でなぜ悪い』について書いていきたい。まず、この楽曲は星野も出演している園子温監督の映画最新作『地獄でなぜ悪い』(公開中)の同名主題歌である。ゆえに映画の内容と有機的なリンクを果たすことを前提に作られた楽曲ではあるが、それと同時に、星野源の現在地が最高のポップ・サウンドに彩られながら生々しく刻まれている。軽快なビートとともにゴージャスに跳ねるジャズ・ピアノやホーン、ストリングスをフィーチャーしたサウンドは、星野が「夢の外へ」でつかんでから研ぎ澄ませてきたダイナミックに息吹くポップ・ソングの求心力が更新されたことを示す。また、オフィシャル・コメントでも自らのルーツである60年代のジャズやソウル、モータウン・サウンドと向き合ったと記しているが、星野の音楽的な原風景も鮮やかにサウンドスケープに映し出されている。つまり、ルーツであり最新のポップ・サウンドが高らかに鳴り響いているというわけだ。
入院中に書いたという"病室 夜が心をそろそろ蝕む 唸る隣の部屋が 開始の合図だ"から始まるリリックは、フレーズごとに恐怖と緊張と諧謔が激しく交錯する。それは開放感に満ちたサウンドと強烈なコントラストを描き、やがて"地獄でなぜ悪い"というタイトルが、ネガもポジも超越した生命力を象徴していることに気づく。この歌の筆致は、全身からほとばしる生気のように衝動的なポップネスが疾走する"化物"に通じるものだ。オフィシャル・コメントにもこのような記述がある。
"詞が書けたのは6月の中旬、夜中の病室でした。そのとき僕は定期検査入院をしていて、その時はこんな結果になるとも知らず、呑気に詞を書いてひとり病室の中で盛り上がっていました。そして歌入れも全て終わったその1週間後、検査の結果が出て、手術した箇所が万全でなくなってきていることがわかり、活動休止を余儀なくされました。 
この歌は、映画の主題歌であると同時に、どうしようもなく個人的な歌です。『Stranger』収録の「化物」の時と同様、こうなる前に書いた歌詞なのに、何故か今の自分の状況を表してしまっています。ちょっと勘弁して欲しいです(笑)。毎度毎度こんな風に予言してしまうんだったら、今度はモテてモテて仕方がない的な歌詞を書こうと思います。"
星野の歌はいつだって僕らが日常の営みから覚えるのと同じ強さと角度で、喜怒哀楽と、そのどれにも当てはまらないまま彷徨する感情の機微を浮き彫りにしる。また、愛おしい人の体臭さえ思い起こすようなリアリティをもって性の匂いを感じさせ、ある瞬間にどうしようもなく実感してしまった生と死にまつわる喜びや恐怖を照らす。だからこそ、僕らは星野の歌に人間の生命力そのものに触れるような感動を覚えるのだ。『地獄でなぜ悪い』を聴いて、完全復帰後の星野源がどんな歌を創造するのか、ますます楽しみになった。

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