挫・人間 下川リヲの"モノホンプレーヤーになれねえ"【第45回】

挫・人間下川リヲの"モノホンプレーヤーになれねえ"【第45回】

2025年10月号掲載

挫・人間

挫・人間の新譜『わりきれないよ』、
ありがたいことに好評である。

今回リリースのPRを通して個人的に意外に感じたことがあった。

それは各種メディアから表題曲について「温かみを感じる歌声」と評していただけたことだ。

温かみ......
それってヌクモリティのことですよね？
私の声帯から、ヌクモリティが。

私は驚いた。
私の歌声についてよく用いられる言葉は、「一度聴いただけで覚えられる個性的な歌声」である。

これは「変な声」に始まる、「汚ねえ」や「やかましい」などの感想を無理やり褒め言葉に変換したときも同じ言葉になるかもしれない。

だが、長らく変な声がコンプレックスだった私からすればこれは素直にうれしい評価であった。

望まぬ声で生まれても、変な曲に乗せて歌った瞬間に、その声で生まれた意味が生まれるような気がするからだ。

変な声が功を奏したのか、NHKのドラマ『念力家族』の主題歌オファーを貰ったこともあった。

天下のNHK、しかも夕方のドラマなので沢山の子供達も観る。

守護るべき子供達にふさわしい教育的で道徳的な存在であると、国から正式に無害図書指定を受けたも同然である。

これは私が親族から受けていた、
「東京で奇声を上げる呪われし長男」
という評価を覆すのにうってつけの仕事であった。

家族は鯛を煮付け、笑い合った。家のチワワも立ち上がっては尻を振り、三日三晩踊り狂ったに違いない。

自分も胸を張った。変な声でも良い。お前らがダメでも国OK出てるから。俺の声を否定する貴様は国民にあらず。どけ！畜生！俺は今日から玄関の扉を足で開けてやる。下駄を履いてテニスに興じるなどの極悪の限りを尽くそうとも、「私は念力家族のテーマを歌っていますよ？」と他を圧倒するのだ。

当時小学生であった私の妹も同様に調子に乗った。
この件が決まってすぐ私と同じように、自分の兄は国家同然であると誇らしげにクラスで話したのだという。

ニュースのない田舎では大変驚かれ、妹は一位になった。

そしてついに番組がオンエアされる。私達はリアルタイムで視聴し、ドラマの完成度の高さに「参加できて良かった」と感動したものであった。

が、その翌日、登校した妹のもとにクラスメイトが集まってきた。

「ドラマ観たけど......お前の兄ちゃん"ふなっしー"じゃね？！？！」

妹の学区では、私は「国家」から大人気キャラであった「ふなっしーの具」へと変化していたのである。

そう、私が変な声であったばかりに、妹は「ふなっしーの血族」になってしまった。

狙いすましたようにふなっしーもCDをリリース。その声は確かに私に似ている。心なしか妹の空虚な笑顔もふなっしーに見える。

しかしその後、爆破されるふなっしーの動画がバズり、
「下川の兄ちゃん頑張ってるじゃん」
という流れが発生し、下川一族は危機を逃れたのである。

「温かい声」と評される度に、ふなっしーの顔が浮かび、「私はぬくもりを手に入れたのか」と打ち震えるのであった。

挫・人間

2008年、熊本で結成。"閃光ライオット2009"の決勝大会に進出し、同大会のキャンペーン・ガール、夏未エレナが選出する"夏未エレナ賞"を受賞。2013年に1stアルバム『苺苺苺苺苺』を発表。2021年3月にUSEN STUDIO COASTにて単独公演を実施。2024年3月には2年7ヶ月ぶりのアルバム『銀河絶叫』をリリース。2025年9月に3rd CDシングル『わりきれないよ』を発売し、現在全国ツアーを開催中。

挫・人間

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