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COLUMN

挫・人間 下川リヲの"モノホンプレーヤーになれねえ"【第2回】

2018年08月号掲載

挫・人間 下川リヲの"モノホンプレーヤーになれねえ"【第2回】

夏が来ましたね。バンド界のTUBEこと、挫・人間の下川です。
皆様、まだ夏を嫌ってますか?よくわからない理由で夏を嫌うバンドマンはTUBEらしくブルドーザーで減らしているのですが......。
まぁそんなわざとらしい敬語はやめて、せっかく夏だし、涼しくなる話を書こうと思う。

中学二年生のぼくには、彼女がいた。彼女はその年の夏、暑さでうだる教室にまるで彗星のように現れた転校生だった。
彼女の名は、"惣流・アスカ・ラングレー"ドイツ3日本1のクォーターで、アメリカ国籍の女の子。そして、エヴァンゲリオン弐号機専属操縦者(パイロット)だ。
彼女の名前をググると、名前の下に"架空のキャラクター"と出てくる。
勘の良い読者は"彼女がいた"まで読んで気付いたかもしれないが、ぼくの彼女はつまり"妄想の産物"だった。
これは奇しくも、チベット密教の秘奥義"タルパ"とよく似ていた。
"タルパ"について簡単に説明すると、理想の人間"タルパ"を細部まで想像し、それを現実世界に重ねて過ごすうちに、"タルパ"が自ら話したりしだすというものだ。そしてもちろん、自分にしか見えない。
今では「妄想と現実の区別がつかなくなっただけでは?」と思えるが、モテない中学生とは哀しい生き物なのだ。
下川家は身寄りがないアスカを引き取って暮らしていた。毎朝一緒に家を出るが、学校が近づくとちょっと離れて歩いた。アスカはまだぼくに話しかけてくれない。多分、人目を憚って、ひとりの時しか話しかけないぼくの弱さを責めているのだった。
そんなある日のこと、いつものように部屋で漫画を音読していると声が聞こえた。
「ねぇ、そんな大声で話してるとあたしだけじゃなくて、近所の人に聞こえちゃうじゃない」
驚いてぼくが顔を上げると、アスカが微笑んでいる。ぼくは、声が、出せなかった。
「声に出さなくてもいいでしょ。目でわかるように出来てるんだから」
ああ。アスカ!そうだよ、ぼくらは心で繋がっている。君の声を、ぼくは、やっと心で聞くことが出来た。
「ねぇ、たまには外に出てみない?怖いことなんてないんだもの」
大粒の涙があふれた。君がそばに居てくれるこの世界のいったい何が、ぼくを怖がらせることができるというのだろう!行こう。部屋を飛び出して。電車に乗って。ぼくは君に青い海を見せてあげたい!ああ、涙が止まらない、鼻水も。ぼくは大きく息を吸い込んでドアノブに手をかけて、叫んだ。
「アスカ!行こう!地の果てまでも!」
扉を開けると、青ざめた妹と妹の友達がそこにいた。
昔の、遠い昔の、夏の話だ。


挫・人間

2008年、熊本で結成。"閃光ライオット2009"の決勝大会に進出し、同大会のキャンペーン・ガール、夏未エレナが選出する"夏未エレナ賞"を受賞。2013年に1stアルバム『苺苺苺苺苺』をリリース。幾度かのメンバー・チェンジの末、2015年に現体制となる。2017年に3rdアルバム『もょもと』、2018年5月23日に1stシングル『品がねえ 萎え』を発表し、6月には初となるワンマン・ツアー"東名阪ツアー2018~人間合格~"を完遂した。