挫・人間 下川リヲの"モノホンプレーヤーになれねえ"【第29回】

COLUMN

挫・人間下川リヲの"モノホンプレーヤーになれねえ"【第29回】

2023年02月号掲載

挫・人間

突然ですが、私は『持たざる者』なのです。
何がって？......美少女抱き枕に決まってるじゃないですか！！！
オタバレ（オタクがバレること）＝惨めな死という生活様式の中にいたので、おれは今でも自分がオタクだということに後ろめたさがある。なので、オタクを極めて人生を破壊するのを迷わないヤツを見ると憧れを抱いてしまうのだ。抱き枕を所持し、部屋のオタクパワーが限界突破して「キモオタくん（笑）」と言われるのが怖い。
「いやお前顔がオタクだから気にすんなよ」と思われるだろうが、待ってほしい！その場合、何のギャップも無くて、"終わった人間"の迫力とシナジーがすごいのだ。

おれは音楽家としても半端だ。オタクは毎日耳かき屋さんで耳掃除してもらっている上で、毎日耳かき音声を聴きながら眠るので、音楽家より遥かにハイレベルな耳を持っている。おれはせいぜい毎夜毎夜、美少女が登場するふしぎなエレベーターに乗り込む催眠音声に没入するくらいだ。

そもそもオタクとバンドの二足の草鞋を履こうなんて生意気である。「陰キャはロックをやれ！」なんておれの為にある言葉なのに『ぼっち・ざ・ろっく！』から完全無視されているのも、すべておれが抱き枕を持っていないせいだ。みんな、すまねえ。

そんなおれだが、オタクのディズニーランドである秋葉原に遊びに行った。オタク力が低いので笑顔の女性にラッセンのポストカードを勧められたり、聖書を勧められたりしながら委託同人誌を買いに行こうとしていた。そして、1人の男性と目が合う。
「あ、挫・人間の人ですよね」
「え、あ、はい、そうです」
「お〜！新譜良かったです。握手してもらっていいですか」
「もちろん......thank you」
「ヤベ〜、やっぱり秋葉原とかよく来るんですか？」
「そうですね......好きな街なので。よくいらっしゃるんですか？」
「そっすね！今日はカードゲームやるついでに、探してたやつ買っちゃいました！」
「！！」
彼が手にしていたのは、紛れもなく美少女抱き枕カバーだった。彼は、『持たざる者』であるおれに「あなたと私では力の差がありすぎますよ......」と伝えてきているのである。おれは怖気付いた。
「おお......オタクですねえ」
「はは、何言ってんすか。お互いオタクじゃないですか」
「えっ......おれがですか？」
「？？えっ、オタクですよね？オタクにしか見えませんよ」
「そう......ですか！そうですかそうですか！ありがとう！」
「えっ......はい......じゃあ、行くんで......すいません」
「ありがとう！ありがとう！」

おれは彼に手を振り続けた。
彼はおれが何を喜んでいたのかも分からなかっただろう。
あの日の言葉で、どれだけ気持ちが軽くなったか彼は知らないだろう。
自分を縛る鎖はいつの間にかほどけていた。
もし彼がこのコラムを読んでくれているのなら、この場を借りて伝えたい。
おれはオタクじゃねえ。あんなキモい存在と一緒にするんじゃねえぞ。
おれは爽やかギターロックバンド、挫・人間の"S"だ......ナメんじゃねえ。

『ぼっち・ざ・ろっく！』のタイアップ待ってます。ノーギャラでやります！！！

THE END

挫・人間

2008年、熊本で結成。"閃光ライオット2009"の決勝大会に進出し、同大会のキャンペーン・ガール、夏未エレナが選出する"夏未エレナ賞"を受賞。2013年に1stアルバム『苺苺苺苺苺』を発表。2021年3月にUSEN STUDIO COASTにて単独公演を実施した。昨年9月に2ndシングル『このままでいたい』をリリース。今年2月20日にはSHIBUYA CLUB QUATTROにてワンマン・ライヴ"挫・人間　(続）メンバー募集2023 -バンドやろうぜ！-"を行った。

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