挫・人間 下川リヲの"モノホンプレーヤーになれねえ"【第31回】

挫・人間下川リヲの"モノホンプレーヤーになれねえ"【第31回】

2023年06月号掲載

挫・人間

実家でチワワを飼い始めたのは、僕が上京した頃だった。

思い返すと、上京した直後に全国的な「くまモンブーム」がおこり、帰省した故郷はさながら謎の生き物に植民地支配を受けたような有様だった。

街のどこにいても顔を見せる彼は、「君たちは自分の支配下だモン♪」と言っているように思えた。

久しぶりに会う故郷の人々がゆるキャラを崇拝し始めている光景はなかなか恐ろしかったが、思えば実家で初めてチワワの黒い影を目撃したときも同じような恐怖を感じていた。

誤解を恐れず言うが、僕にとってチワワは割と敵サイドの犬である。

あの守ってあげたくなる愛らしさや、頼りなさ。何より女性に無条件で愛されるような小ささ......これは僕が人生をかけて戦っていかなければならないタイプの存在ではなかろうか。
実家に帰っていきなり土佐犬が鎮座しているのも複雑だが、知らぬ間にチワワが家族になっているというのもなかなか恐怖なのだ。

親不孝を体現したようなバンドマンと、愛くるしい小型犬では、明らかにチワワの方が存在理由がある。実家の太さが武器の僕は危機感を感じる。

「ほら、クッキー。諒だよ」と母から声をかけられるチワワ。
「屈鬼威......」
なるほど、オレの本名である「諒」より遥かに強そうな名前である。現代社会を戦い抜く強さを持った息子を育てられなかった反省と強い意志を感じる。

僕は犬にも人見知りをするので、無言でつぶらな瞳を見つめていたのだが、チワワが突然牙を剥き出しにして僕に襲いかかってくるではないか。

「ウゥォオンオンオンオンオン！！！！！」

吠えまくるチワワに僕は怖気付きそう。凶暴！！凶暴すぎる！！！！小型犬って非力なくせに攻撃的！！！！！お前みたいな奴がヤフーニュースで無茶苦茶書いとるんやな。「家族はオレが守る！！」と言わんばかりの強気さである。

しかし、弱者には強いで有名な僕ちゃん。家族の前で醜態を晒すのは............運動会だけで十分さ！！

「ワウワウワウワウ！！アオオーーーン！！！！」

僕はその場で床に手を付き、学生時代に慣れ親しんだ「ワンワンスタイル」でチワワに吠え威嚇！！見て！ママ！成長した僕の姿！！
「あああああああ！！！！」
母親が叫んでいる。エヴァが暴走するときみたいだなと思った。

チワワは「目の前の人間を亡き者に」と牙を剥き出しにしている。
僕も人類代表として四つん這いで凄いことになっている。

次の瞬間、母親がどこからか持ってきた鎖を床に叩きつけた。
「あああああああ！！！！！」

絶叫しながら鎖を繰り出す母親は、念能力か何かに目覚めたのか、理解できない物を前に僕とチワワの思考はストップし、結果的に事態は収まった。あの鎖の正体を僕はまだ知らない。

次回「屈鬼威親愛編」につづく......。

挫・人間

2008年、熊本で結成。"閃光ライオット2009"の決勝大会に進出し、同大会のキャンペーン・ガール、夏未エレナが選出する"夏未エレナ賞"を受賞。2013年に1stアルバム『苺苺苺苺苺』を発表。2021年3月にUSEN STUDIO COASTにて単独公演を実施した。昨年9月に2ndシングル『このままでいたい』、2023年1月にライヴDVD『メンバー募集"１"でワンマンTOUR』、4月にデジタル・シングル「下川くんにであえてよかった」をリリースした。

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