挫・人間 下川リヲの"モノホンプレーヤーになれねえ"【第41回】

挫・人間下川リヲの"モノホンプレーヤーになれねえ"【第41回】

2025年02月号掲載

挫・人間下川リヲの“モノホンプレーヤーになれねえ”

太っていた頃の名残で、私は今でも窓が怖い。

君たちはあの開閉可能な憎っくきガラス板を恐れたことはあるだろうか。私は今でも窓のことを、渋谷駅くらいには避けて過ごしている。

小学生時代の私は他を寄せ付けぬほど太っていた。
殺人的に太っていた。それはもう、悲しくて、申し訳ないくらいに太ましかったのだ。

えるしっているか。本当のデブは窓に近寄らない。
真のデブは存在だけで窓を曇らせることができるからだ。

想像できるだろうか？席替えで窓際に移動するときの恐怖が。教室で、自分に隣接した窓だけが段々と曇ってしまう恐怖が！
これはもう、窓に「お前だけ太ってるから曇っといたわ！」と言われているようなものだ。
無機物如きがよ！！！

しかし当時の感覚では確かに、小学生でデブというのは生命の尊厳がないに等しかった。だってもう、どうやったってカッコいいことが似合わないのだから。
戦隊モノの真似事をやってもセンターのレッドがデブだったら終わりだものね。膨張色だしね。腕っぷしも最弱だしね。

クラスでスマブラが流行ったときも、女キャラなど選べなかった。
「デブなのにサムスを使うのはエロがバレる......」
という謎の恐怖心と共に育ってきたのだ。

そう思えば幼い頃から胸も揉みしだかれ、今でも不意に触られると「キャッ......」と高めの声で反応してしまうのも、当時の名残と言えるだろう。

少し太っているくらいなら良い。小学生だし、可愛いものである。だって窓反応しないもん。
でも窓が曇ったら終わりだ。
ハリーポッターに登場する組み分け帽子が、頭の上に掲げたくらいで「デブ！！！！！！！」と言うようなものだ。だって窓曇ってんだから。

あああ窓が憎い。窓さえなければ、あの邪悪なリトマス試験紙がなければ......！あいつが私の人生にデブの太鼓判を押したようなものだ。

だからこそ、尾崎豊の『卒業』を初めて聴いたときは染みた。
「この人はデブの気持ちを歌っている」と涙したものだ。

「下川、窓に負けるんじゃないぜ......！」
尾崎のそんな声が聴こえた。

椎名林檎の『本能』のジャケを見たときもそうだ。
あの日から私は椎名林檎のことを
「この人はデブに優しい人なのかな？」と思っている。テレビなどで見ると「あ、優しい人......」と思って見てしまう。見たことない人は『本能』のジャケを画像検索してください。

そんなデブに優しい人々との出会いで、いつしか窓は曇らなくなり、こうしてバカげたコラムに書けるようにもなったというわけだ。

爽やか吐息美男子日本代表に選ばれた今でも苦しい者に寄り添う気持ちで美的音楽活動をしてしまうのは、当時の苦しみがあったからこそなのだろう。
コラムの一回分くらいにはなったと考えると意味のない苦しみじゃなかったんだな......と思える。
近所の小学校の、子供たちがはしゃぐ声を聞いてそんなことを思い出してしまった。

教室の窓からの景色は、曇っていたのでよく思い出せない。

挫・人間

2008年、熊本で結成。"閃光ライオット2009"の決勝大会に進出し、同大会のキャンペーン・ガール、夏未エレナが選出する"夏未エレナ賞"を受賞。2013年に1stアルバム『苺苺苺苺苺』を発表。2021年3月にUSEN STUDIO COASTにて単独公演を実施。2024年3月には2年7ヶ月ぶりのアルバム『銀河絶叫』をリリース。2025年3月13日に渋谷CLUB QUATTROにてワンマン・ライヴ"クアトロ疾風伝〜乱世凸入編〜"を開催する。

挫・人間

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