挫・人間 下川リヲの"モノホンプレーヤーになれねえ"【第42回】

挫・人間下川リヲの"モノホンプレーヤーになれねえ"【第42回】

2025年04月号掲載

挫・人間下川リヲの“モノホンプレーヤーになれねえ”

中学時代の私には女性の霊が取り憑いているという設定があった。

「コラムってここまでして書かなきゃいけないものかな？」という気持ちになってきたが続けよう。

君はタルパという言葉を聞いたことがあるか。

私は今でも他人への苦手意識は消えないままだ。他人と話していて、気付くと脇汗をダラダラかいている。

それでも、私は中学時代オタクたちの中では女性と関わりがあるというオーラを放っていた。

実はそれこそがタルパのおかげである。

タルパとは瞑想的なもので作るイマジナリーフレンドのようなものだ。

私は「彼女を作る」ということを勘違いしてしまい、スタンド能力を発現するようなものだと認識していたらしい。

しかし、強く思い込むせいもあって、
「なんか霊的な存在がいるような気がする......」
みたいなことを周りに話すようになってしまった。

そんな訳で、私には女性の霊が取り憑いているということになったのだ。

しかも、その霊と私とは取り憑きあいの中、友情とも恋愛とも言えぬ奇妙な関係を築いているということにまで話が発展する。

実際に私には取り憑いている女性など存在しないが、強力な妄想には取り憑かれていたのであった。

しかし、人間の妄想とは恐ろしいもので、非モテのオタクたちが彼女からの恋愛アドバイスを受けるというコンテンツとしてオタクたちに流行ってしまった。私なりの「タルパマンシー」ということである。は？

私が彼女の言葉をシャーマン的に皆に伝える役割だった。『ヒカルの碁』でいうところのヒカルと佐為である。

さいわい私には「白雪」としての人格が備わっていた（第5回参照）ので、女性としての言葉を伝えるのは苦手ではなかった。

そんなある日、オタクのTが私に話しかけてきた。

「オレ...... アスカさんとメールしたい」

アスカとは私が付けたタルパ名である。
Tの話を聞くと、女性と会話するのが苦手で、アスカと交流することで女性への苦手意識を払拭したいということであった。

「私は構わないわ」
アスカがそう言うので、その日から少しずつTとアスカとのメールでのやりとりが始まった。
実際には、内容はかなりキモくなったがいつも通りオタク同士でメールをしているだけだったので問題はないかのように思われた。

しかし、学校でTと2人になった際、
「なんか......いつも話を聞いてくれるし、アスカに惹かれている自分がいるんだ」
などとTが言い出す。
私は白雪の件もあるので、かなりの危険を感じた。

私と意識を共有しているアスカに、Tの気持ちが伝わってしまったということにしてメールをした。

「T、私たちは住んでいる世界が違うんだ。結ばれることなんてあってはならないんだよ」
という文章を残し、アスカは私の中から消えていった。

それを知ったTは
「嗚呼嗚呼嗚呼ッッッ！！！！！」
と泣き叫びながら地面に拳を叩きつけた。

「アスカの為なら、そっちの世界にだって行けたのに......ッ」と鼻水をすするTを見て、私もボロボロと涙が出てきた。何の涙だったんだろう。

そして今、タルパも彼女も作れず、まともな曲すら作れない、最悪な大人になってしまった。

アスカ！助けてよ！
またいつものように僕をバカにしてよ......ねえ！

-終劇-

挫・人間

2008年、熊本で結成。"閃光ライオット2009"の決勝大会に進出し、同大会のキャンペーン・ガール、夏未エレナが選出する"夏未エレナ賞"を受賞。2013年に1stアルバム『苺苺苺苺苺』を発表。2021年3月にUSEN STUDIO COASTにて単独公演を実施。2024年3月には2年7ヶ月ぶりのアルバム『銀河絶叫』をリリース。2025年3月に渋谷CLUB QUATTROにてワンマン・ライヴ"クアトロ疾風伝〜乱世凸入編〜"を開催した。

挫・人間

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